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三姉妹とリユニエの星環  作者: ケミパパ
第4章 古都での静かなる紅蓮の再起

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⑤生還ノ舞──命門が語る、生命ルミナの物語

※世界観の補足や設定まとめはnoteにあります(プロフィールから)

9.



「……ぉるねぇ……!」


遠くで、誰かが呼んでいる。


「おるねえってば!!」


……あれ?


私、さっきまで……何をしていたんだっけ。


サクヤから、ルミナの話を聞いて――


それから……。


――ルミアナ。




その名が、胸の奥で弾けた。




オルディナは、はっと目を開いた。

勢いよく上体を起こす。


「わぁぁっ、オル姐!?」


驚いた声とともに、視界いっぱいに金色が揺れた。


「お、おはよ~……!」


陽光のように温かな雰囲気をまとった、金髪の女性が、心配そうにこちらを覗き込んでいる。


「……ラオ?」


猪精霊イグニファの契約者、ラオだった。


「もう、めちゃくちゃ心配したんだから~。

あたしがここに着いたら、オル姐、気ぃ失ってるし……」


いつもの明るい調子だったが、その声の端々には、確かな安堵が滲んでいた。


「はは……ごめん、ごめん。」


オルディナは苦笑しながら、頭を押さえる。


「サクヤからいろいろ教えてもらってたらさ……急に、頭の中に映像みたいなものが浮かんできて……」


言葉を探しながら、できるだけ丁寧に、先ほどの体験を説明する。


「……不思議な体験だね。」


ラオは、蝋燭の炎にきらめく金髪を指でかき上げながら言った。


「あたしは、そんな感覚に出会ったことないから……正直、よく分かんないけど。」


少し考えるように間を置いてから、続ける。


「でも、その巫女の人……オル姐が前から会いたいって言ってた人なんだろうね。

それに、そばにいた銀髪の人も気になるな。ミカゲに似てたんでしょ?」


その言葉に、ミカゲが小さく息を呑んだ。


「……サクヤさん。

もしかして、その銀髪の女性は――“イト”様ではないですか?」


式座の奥で、サクヤオロチがゆっくりと瞳を細める。


『そのようですね。』


エメラルド色の眼差しが、静かにオルディナを捉えた。


『オルディナ……あなたは、私たちが語らずとも、生命ルミナの起源、そして――ルミアナが残そうとしたものに、自ずと近づいているようです。』


「……やっぱり。」


オルディナは静かに腰を上げた。


「私が見たあの巫女……あの人が、ルミアナなんだね。」


胸の奥で、確信に近い何かが脈打つ。


「ねえ、サクヤ。

私が見たあのシーン……今度の修行と、関係があるんだよね?」


紅蓮の瞳で、まっすぐに問いかける。


サクヤオロチとイグニファは、互いに一瞬だけ視線を交わした。

まるで、この流れが遥か昔から定められていたかのように。


『……これも、あなたの計画の一部なのですね。ルミアナ。』


サクヤオロチは、誰にともなくそう呟いた。

隣で、イグニファも同じ思いを抱いているようだった。


「……え? どうしたの?」


首を傾げるオルディナに、サクヤオロチは静かに首を振る。


『いえ……失礼しました。

その通りです。あなたが見たものは、これから行う修行と深く関わっています。』


その時、イグニファが一歩前に出た。


『オルディナよ。

そなたの生命ルミナの力――命門には、いくつかの型があることを覚えているか?』


「……うん。今はほとんど失ってる……というか、忘れちゃってるけど。」


『では、その命門が、生命ルミナの原理を“物語”と“舞”として語り継いできたものだということは?』


オルディナは、はっと目を見開いた。


物語と舞――


それは、先ほどスクリーンの中で巫女が表そうとしていたもの、そのものだった。


「……まさか。私が見たあのシーンって……」


『そうだ。』


イグニファは、低く、しかし確かな声で告げる。


『命門とは、かつて――

そなたの始祖、ルミアナが、このクヅラハで生命ルミナの原理をまとめ上げた舞踊。』




一瞬、空気が張り詰めた。




『名を――

生還ノ舞という。』






10.

 


「……ふぅ……」


オルディナは湯船に肩まで浸かり、ゆっくりと身体を伸ばした。

一日の疲れとともに、胸の奥に溜まっていた緊張が、湯の中へ溶けていく。


瞼を閉じると、今日、蛇の祠で知り得た出来事が、ひとつずつ頭の中に浮かび上がってきた。


――生還ノ舞。


それは、はるか昔。

生命ルミナの始祖ルミアナが、このクヅラハの地で紡いだ、物語と舞。


生命ルミナの集大成であり、

生命の原理と意義、そのすべてを表現したもの。


湯気の向こうで、本殿で交わされた精霊たちの言葉が、静かに甦る。


 


「……生還ノ舞、か……」


その名を、ひとつひとつ噛み締めるように呟く。


言葉を発するたび、胸の奥――

生命ルミナの炉が、どくん、どくんと強く脈打つのを感じた。


まるで和太鼓を打ち鳴らすような、確かな鼓動。


 


『そうだ……この舞は、

かつてルミアナが己の集大成として、

そして未来へ託すために紡ぎ上げた物語……』


イグニファの言葉に、サクヤオロチが静かに続いた。


『クヅラハの創始者――イトが、ルミアナから聴き取り、書き記した物語でもあるのです』


 


――なるほど。


オルディナは、あのとき見た映像を思い返した。

面をした巫女と、その傍らで筆を走らせていた銀髪の女性。


あれは、

ルミアナがイトに、生還ノ舞の物語を伝えていた瞬間だったのだ。


 


「それじゃあ……私が見た、あの銀髪の女性がイト?

イトって……ミカゲの?」


 


「はい。イト様は、私のご先祖にあたります」


ミカゲは、穏やかに微笑みながら答えた。


 


「……そっか」


オルディナは、少し照れたように笑う。


「こうしてミカゲと一緒にいるなんて……

なんだか、運命的だね。ロマンチックだな……」


 


「アクシオンさんのようなことを仰るのですね」


ミカゲも、くすりと微笑んだ。


「さすがは三姉妹、といったところでしょうか」


 


「ねえねえ、オル姐!」


ラオが身を乗り出す。


「私たちが、ご先祖様と同じ場所に立って、

こうして精霊たちと向き合ってるって……

なんだか、すごくない?」


その声には、隠しきれない高揚が滲んでいた。


 


その場にいた全員が、

自分たちをここへ導いた“運命”の意味を、静かに噛み締めていた。


 


『さて、オルディナ』


サクヤオロチが、穏やかに口を開いた。


『今日は最後に、この物語の構成だけを伝えて、終わりにしましょう。

もう、夕暮れの刻です』


 


「……うん」


 


『生還ノ舞は、生命ルミナ系統の精霊の数にちなみ、四幕から構成されています――

序・破・急・結』


 


イグニファが、その言葉を引き継ぐ。


『序は、わらわイグニファの情熱ルミナ。

破は、サクヤの再生ルミナ。

急は、ケルヴァスの闘気ルミナをまとめた幕だ』


 


「……ってことは」


オルディナが、そっと問いかける。


「結は……カリエン?」


 


『その通りだ』


イグニファは、静かに頷いた。


『結は、生命ルミナの象徴であるカリエンをまとめた幕。

これまでの三幕と共鳴し、すべてを集約する』


 


サクヤオロチが、続ける。


『オルディナ……今回の修行では、

この生還ノ舞を、もう一度“捉え直す”必要がある』


『それは、かつてのルミアナと同じものになるかもしれない。

……ならないかもしれない』


『すべては、お主次第だ』


 


精霊たちの言葉を受け、

オルディナは、しばし沈黙した。


頭の中で、情報と感情が渦を巻く。


やがて、彼女なりの理解に辿り着き、口を開いた。


 


「……わかった」


「生還ノ舞を、もう一度身につけ直すこと。

それが、私にとっての幻界昇華の修行なんだね」


 


だが、ふと表情を曇らせる。


「でも……未完成になるよね。

ケルヴァスも、カリエンも……今は影に囚われてる」


 


「ええ……そこが、今回の修行の要です」


ミカゲが、静かに頷いた。


「影に囚われた精霊が不在の中で、

生還ノ舞がどのような形を取るのか……

私にも、サクヤさんにも予想がつきません」


 


「ですが」


ミカゲは、まっすぐオルディナを見つめる。


「私は、あなたを支えます。

ラオさんも、サクヤさんも」


「あなたは、かつての“ルミアナ”様のように――

あなただけの物語を紡げばよいのです」


その瞳には、

かつてイトが持っていたであろう“書き手の意志”が宿っていた。


 


「……ありがとう、ミカゲ。みんな」


オルディナは、深く息を吸い、言った。


「私、やってみせるよ。

ルミアナに……少しでも近づけるように」


その声には、迷いの中にも、確かな決意が込められていた。


 


クヅラハの街に、夜の帳が降りていく。

家々に灯りが入り始め、川面にはやわらかな光が揺れる。


それはまるで――

これから始まるオルディナの物語を、静かに祝福しているかのようだった。


 


――つづく

ここまで読んでいただきありがとうございます✨

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