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三姉妹とリユニエの星環  作者: ケミパパ
第4章 古都での静かなる紅蓮の再起

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④シン・ルミナ──仮面が外れる、その直前に

※世界観の補足や設定まとめはnoteにあります(プロフィールから)

7.



二人は、蛇の祠の正面扉の前に立った。

近くまで来て初めて、梁や柱に彫り込まれた蛇の紋様の細部が見える。


オルディナは、思わず足を止めた。


一匹、一匹。

同じ形の蛇は一つとしてなく、鱗の重なりも、身体のうねりも、すべてが異なっている。

それでいて、全体としては不思議な調和を保っていた。


――まるで、生き物そのものだ。


彫った者の息遣いまで伝わってくるようで、

オルディナは無意識のうちに、胸の奥が熱くなるのを感じていた。


「……すごいね」


言葉は、それだけしか出てこなかった。


「サクヤさん……」


隣で、ミカゲが静かに名を呼ぶ。


その声に応えるように、正面扉が音もなく開いた。

内側から、柔らかな灯りが溢れ出す。


二人は、ゆっくりと中へ足を踏み入れた。




本殿の奥には、舞台のように設えられた式座があった。

三本の蝋燭が、揺らめく炎で円を描くように配置されている。


式座の中心には、薄朱色の円が描かれていた。

筆致は柔らかく、どこか古い。


……筆だろうか。

それとも――。


「まさか、血……?」


そんな考えが浮かび、オルディナは小さく身を震わせた。

否定するように、そっと息を吐く。


式座の正面には、一体の蛇精霊が鎮座していた。


蛇精霊サクヤオロチ。

生命ルミナ系統――再生ルミナの象徴。


白く艶やかな鱗には、無数の再生の紋様が刻まれている。

それは装飾ではなく、長い時を生き抜いた痕跡そのもののようだった。


二人が式座の前に立つと、

サクヤオロチは、閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げた。


エメラルド色の瞳が、静かにオルディナを捉える。


『ごきげんよう……オルディナ。

トゥリムで受けた傷は、もうよいのですか?』


「うん……だいぶ良くなってきたよ。ありがとう」


そう答えながら、オルディナは無意識に自分の腕を見た。


数か月前、ルナエールで受けた影のシスターの傷。

トゥリムで、影と呼応したリーヴァから受けた傷。


身体の傷は、クヅラハに満ちる再生ルミナの加護によって、確かに癒えつつあった。

だが――心に根を張った影までは、まだ消えていない。


カリンの囁きが、今も胸の奥に残っている。


サクヤオロチの視線が、わずかに深まった。


『……そのようですね。

あなた……少しずつ、かつての記憶を思い出しているようです』


「……さすがだね、サクヤ」


オルディナは、苦笑まじりに頷いた。


「ほんの、ちょっとずつだけど……確かに、思い出してる」


『それは何よりです』


サクヤオロチは、どこか遠くを見るように言葉を紡ぐ。


『かつてを思い出すこと。

それが、現況を打破する鍵であることに変わりはありません』


「ねえ、サクヤ」


オルディナは、一歩踏み出した。


「神器の暴走の前……

私たち姉妹は、何を掴んでいたの?

中央の動き? それとも……もっと別の何か?」


サクヤオロチは、わずかに首を垂れた。


『申し訳ありません、オルディナ。

それは……当時のあなたも、私には話してくださらなかった』


その声には、隠しきれない悔恨が滲んでいた。


『ですが……何かを決意した、切迫した面持ちであったことは覚えています。

あなたも、鳳凰カリエンも』


『だからこそ、仮契約を提案されたとき……

私は驚きながらも、妙に納得したのです。

――これは、必要なことなのだと』


「……カリエンは、知ってたんだ」


オルディナの脳裏に、あの姿がよぎる。


神器に吸収され、消えたと思われた鳳凰。

そして、影のルミナと融合した存在――カリン。


「でも……今のカリエンには、聞けないね」


『ええ』


サクヤオロチの瞳が、わずかに陰を帯びた。


『今のあなたが、あの者と再び対峙すれば……

次こそ、命を落とすやもしれません』


『もし問いを得たいのであれば――

まずは、あなた自身が生命ルミナを強化する必要があります』


『……だから、ここに来たのでしょう?』


「うん」


オルディナは、まっすぐにその瞳を見返した。


「だから、修行をつけてほしい。

かつての私がやった時みたいに」


サクヤオロチは、ゆっくりと身を起こした。


『よろしい』


『あなたの覚悟、確かに受け取りました。

再生ルミナの象徴として、本来の役割を果たせること……

この上ない喜びです』


「サクヤさん」


そのとき、ミカゲが一歩前に出た。


「修行に入る前に、その内容と――

私たちの本来の役割について、概略だけでも説明しませんか?」


サクヤオロチは、静かに頷いた。


『それがよいでしょう』


一拍の沈黙。


そして、サクヤオロチはオルディナを見据え、問いかけた。


『では、オルディナ――

ひとつ、質問をします』


「……うん」


『あなたは――

本来、ルミナが一つであったことを、知っていますか?』


オルディナの胸の奥で、鼓動が速く打ち始めた。






8.



本殿の式座を、蝋燭の炎がゆらゆらと照らしていた。


揺れる光が、床に描かれた円を淡く浮かび上がらせる。




「……ルミナは、一つだった?」




オルディナは困惑した表情のまま、言葉を繰り返した。




『はい……あなたも、ミカゲも、そしてこの私も。すべては、ひとつの起源から分化して生まれ落ちた存在です』


「ちょ、ちょっと待ってよ……

元々は、みんな同じだったってこと?」


鼓動が早まるのを抑えきれず、オルディナは思わず問い返した。


サクヤオロチは、急かすことなく語り始める。


『その通りです。このリユニエの地は、ひとつの起源が二つに分かれ、その片方が生み落とした世界……』


『その起源とは――シン・ルミナ』


「……シン・ルミナ……」


その名を口にしてみても、何も思い浮かばない。

ただ、胸の奥に、説明のつかないざわめきだけが残った。


『あなたは、かつて知っていたのかもしれません。あるいは……知らなかったのかもしれない』


『ですから、改めて。私が知る限りを、掻い摘んでお話ししましょう』


威厳を保ちながらも、サクヤオロチの声はどこか静かだった。


オルディナは、自分がこれから知ろうとしているものの重さを、直感的に感じ取っていた。


胸の高鳴りとともに、微かな恐怖が混じる。


『遥か昔、シン・ルミナは人々の願いを聞き入れ、やがて――光と影に分化しました』


『光ルミナは、精霊文明が築かれる過程で、

さらに三つの系統へと分かれたのです』


「それって……」


オルディナは、言いかけて口を閉じた。


「……私たち姉妹が持ってる、あの……」


「その通りです」


ミカゲが静かに頷く。


「生命・論理・意味。

あなたたち三姉妹が継承しているルミナ系統です」


『左様』


サクヤオロチが続ける。


『分化したルミナは、それぞれ象徴となる精霊と、エネルギーを調整・出力する個体を生み出しました』


『精霊は源。個体は、その力を人々へ還元するための調整役』


「……じゃあ」


オルディナは息を呑んだ。


「カリエン、ソリウス、アメジスが生まれたってこと?」


『その通りです』


『彼らは後に“三大精霊”と呼ばれる存在となりました。

そして――彼らを調整していたのが、あなたたち三姉妹の始祖、古代大賢者です』


「……っ」


稲妻が走ったように、思考が繋がった。


「……ルミアナは……

私の、生命ルミナの始祖なんだね?」




その瞬間。




ぽちゃん、と。

どこかで水滴が落ち、水面が静かに広がるような感覚がした。



気づけば、オルディナはまた“スクリーン”の前に座っていた。


そこには、面をつけた巫女が映っている。


今度ははっきりと、彼女から生命ルミナの流れを感じ取れた。


――この人が、ルミアナ?


胸の奥が、熱を帯びる。

私は、この人のことを知らなくちゃいけない。


衝動のまま、オルディナは叫んでいた。


「ねぇ……教えて!

あなたは、ルミアナなの?

私の生命ルミナは、どんな使命を負っているの?」


応えが返るはずもない。

だが巫女は、ふと舞いを止め――

こちらを、真っ直ぐに見つめた。


面に手が掛かり、

素顔が覗こうとした、その瞬間。


闇が、すべてを覆った。




――つづく



ここまで読んでいただきありがとうございます✨

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