②違和感の名は、ルミアナ
※世界観の補足や設定まとめはnoteにあります(プロフィールから)
4.
朝日が昇り、クヅラハは静かに一日の始まりを迎えていた。
日本家屋や和洋折衷のレンガ建屋が並ぶ街並みから、
炊きたての米の香りと、鍋の蓋を開ける軽やかな音が漂ってくる。
店主やおかみさんたちは、慣れた手つきで店先を整え、
まだ眠たげな街に、少しずつ命を吹き込んでいった。
クヅラハ川は朝の光を受け、水面が金色にきらめいている。
川沿いに敷かれた石畳の道には木々が並び、
雀たちが忙しなく羽を震わせながら、朝を告げるように鳴いていた。
その道を、子どもたちが歩いていく。
色とりどりの着物に袴、手には風呂敷。
眠そうな顔の子もいれば、仲間と楽しそうに笑い合う子もいる。
どうやら学校へ向かう途中らしい。
ふと、一人の学生が川辺の東屋に気づき、足を止めた。
「ミカゲ様、おはようございます!」
その声に呼応するように、他の子どもたちも一斉に頭を下げる。
「おはよう。気をつけて行ってらっしゃい。」
ミカゲが穏やかに微笑むと、子どもたちは手を振りながら再び歩き出した。
「あの子たち、どこに行くの?」
隣に座っていたオルディナが、素直な疑問を口にする。
「“学校”ですよ。クヅラハでは、子どもたちに生命ルミナのことを教えているのです。
……もっとも、それもあなたと一緒に決めたことなのですが。」
「え? そうなの……?」
オルディナは首をかしげた。
「後世へ生命ルミナを受け継ぐために、
この街の文化として根づかせよう、と。」
「……言われてみれば、そんな話をした気もする。
でも、はっきりとは思い出せないな。」
胸の奥に、小さな違和感が残る。
知っているはずのことが、手の届かない場所にある感覚。
「オルディナさん。」
ミカゲは少しだけ表情を引き締めた。
「修行に入る前に、ひとつ確認させてください。
今のあなたは、自分の生命ルミナをどこまで把握していますか?」
「……七か月前の、あの夜を境に、ほとんど失った。
鳳凰カリエンの加護は皆無。
イグニファの加護も、ラオのおかげで、ほんの少し戻ったくらいかな。」
敗北の記憶が、胸の奥で微かに疼く。
「つまり、固有能力『命門』も、ほぼ初期状態……ということですね。」
「うん。リーヴァにも、カリンにも……歯が立たなかった。」
悔しさを隠そうとした声が、わずかに震えた。
「でも、それは“今”の話です。」
ミカゲは静かに言う。
「あなたは、かつてすべての生命ルミナ系統を扱っていました。
必ず、取り戻せます。」
「……前は、カリエンも、イグニファも、サクヤも、ケルヴァスも……
みんなの加護を受けてたと思う。」
「ええ。燃え、癒し、痛みを抱き、戦場を舞うあなたは――
かつての“ルミアナ”様と、よく似ていました。」
「……ルミアナ?」
その名を聞いた瞬間、胸の奥が微かに熱を帯びた。
「今は、覚えていなくて構いません。
ですが、その名を知ることが、あなたの過去に辿り着く第一歩になるでしょう。」
ミカゲは立ち上がり、川沿いの路地へ視線を向けた。
「場所を移しましょう。
あなたの修行を手伝ってくれる協力者も、そろそろ到着する頃です。」
「……うん。」
オルディナは頷き、後を追った。
(ルミアナ……知らないはずなのに。
どうして、こんなにも懐かしいんだろう)
胸に手を当てると、微かな鼓動が指先に伝わる。
答えは、まだ見えない。
ミカゲはそれ以上何も語らず、
ただ静かに、彼女の歩調に合わせて歩いていた。
――つづく
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