表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三姉妹とリユニエの星環  作者: ケミパパ
第3章 金羊に導かれし幻想

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/94

Ⅻ.堕影の接吻

※世界観の補足や設定まとめはnoteにあります(プロフィールから)

12.



砕け散った黒紫のルミナの残響が、宙に霧散する。




それはまるで、誤った旋律が静かに終わりを告げるかのように、風に消えていった。




セナはその場に崩れ落ちた。

両手で顔を覆い、震える声を吐き出す。




「うっ……あ、ああ……わたし……わたし……っ」




その手の隙間から、溢れた涙が頬を伝って零れ落ちた。

エリシアは静かにその場へ歩み寄り、跪くと、彼女の肩にそっと手を置いた。




「セナちゃん……もう、大丈夫よ。もう、無理しなくていいの」




「どうして……どうして……私、アクシオンのことも、エリシアの歌も、全部嫌いになったはずだったのに……!」




「それは、嫌いになろうとしていただけ。

あの黒紫のルミナは、あなたの心の痛みにつけこんで、本当の気持ちを覆い隠していただけなのよ」




セナは顔を上げ、涙に濡れた目でエリシアを見つめる。

その瞳には、かすかに金色の光が戻り始めていた。




「わたし……あの時、ほんとは嬉しかったんだ。

アクシオンが私のことを褒めてくれた時も……

エリシアが歌ってくれた時も……でも、認めたくなくて……!」




「大丈夫よ。気づけたなら、もう大丈夫。

あなたの“音”は、今、ようやく“自分自身”に還ったのよ」




エリシアの言葉とともに、風がそっと吹く。

その風は優しく、まるで蝶の羽ばたきのように穏やかで――




セナの髪に留まった蝶の羽飾りが、静かに金色に輝いた。




「……わたし、戻れるかな……?」




「戻りましょう、セナちゃん。三姉妹の音は、まだ終わってない。

あなたがその旋律に戻りたいと願うなら、私たちは必ず一緒に奏でられる」




そして、アクシオンがふらつきながらも立ち上がる。




「セナ……おかえり」




「……ただいま」




セナは言いながら、震える手でアクシオンの手を取ろうとしたとき……




禍々しい紫紺の閃光が彼女を直撃した。




「……きゃぁぁぁぁ」




セナの手はアクシオンに届かず、その場で倒れてしまった。






「セナっ!!」




アクシオンが駆け寄ろうとした瞬間、セナの身体は紫紺の力に囚われ、浮遊する結界球へと閉じ込められた。




振り返ると――




そこに立つは、一糸乱れぬ漆黒の法衣を纏い、蒼雷のごとき双眸で静かに全てを見透かす影。

絶対なる支配と、神を汚す禁忌の優美が同居する存在だった。




髪にわずかに覗く蒼碧のメッシュ。指先には翡翠を思わせる紋様が脈動し、纏うルミナは、かつての竜王のものとは明らかに異質だった。




「あなたは……?」




『わらわの名はアメリ。この姿で会うのは初めてだな、アクシオン。』




「その名、そのルミナ……まさか、竜王アメジス?」




『お見通しか……さすがは時の巫女よ。ふふ。そうだ――この身体は、かつてお主が契約していた竜王アメジスの“ヒト型”。あのお方とアマリリスの力を得て、生まれ落ちた、新たなわらわの姿よ。』




その声は妖艶に微笑みを孕みながらも、肌を貫くような冷艶を纏っていた。




エリシアとラファエルも、一瞬でその“気”の質を察し、背筋に汗を浮かべる。




「セナちゃんをどうするつもり……?」




『この娘には、まだ役割がある。連れてゆく──それだけのこと。』




『もっとも……アクシオン。お主が共に来てくれるのであれば、話は早いのだがな?』




「どちらも選ばないわ」




その瞬間、空気が弾けるように一変した。




アメリのオッドアイが光を放ち、殺気が解き放たれる。

凍てつく死の静寂が、辺りを包んだ。




「……っ! はぁ、はぁ……」




あまりの威圧に、アクシオンもエリシアも膝を折り、呼吸すら忘れかけた。




『わらわは、まだお主を屠りたくはない……静かにしていろ。それがお主と、妹たちのためでもあるのだからな。』




「……あなた、オルディナとロゴスの前にも、同じような者を……?」




『察しが早いな。ふふ……その通りだ。鳳凰カリエンの器――カリン、白虎ソリウスの器――ソリア。今ごろ、お主の妹たちと邂逅している頃であろう』




アメリの視線が遠くを射抜いた。




『……よいぞ、アクシオン。お主は気に入っておる。わらわと契約していたあの頃以上に、な……。殺すには、惜しい』






アメリがアクシオンの前に現れたその同刻、残る二つの異形舞台にも――


黒影の三使徒の名を冠する、美しき影の具現者たちが、それぞれオルディナとロゴスの前に舞い降りていた。




『オルディナ~、うちらと一緒に来てくれないかな~?』


甘ったるい声で囁きながら、紅蓮の瞳を煌めかせる女が一人。

カリンと名乗るその影の使徒は、狂気を内包した笑みを浮かべていた。




彼女の力によって、炎の鳥籠に囚われたリーヴァはもはや微動だにできず――


その燃え盛る檻が、オルディナの心に焦燥を呼び起こしていた。




「誰が行くもんですか……っ!!」


身を焦がすような威圧の中、オルディナは必死に声を振り絞る。


隣のミカゲも、意識をかろうじて保っているのが精一杯だった。




『いやん、オルディナちゃんったら辛辣……うち、泣いちゃう~……』


とろけるように言いながらも、その声の裏には明確な殺意が潜んでいた。


『でも……そういうとこも、好き……ねえ、オルディナちゃん、欲しいの。食べちゃいたいくらい……!!!』




そう言ってカリンは、舌で唇を這わせ、不気味に身をよじらせる。


その異様な執着に、場の空気が張り詰めたそのとき――




『……カリン。目的をお忘れなきように』


凍てつくような声が空気を貫いた。

舞台の一角から、ソリアの気配が静かに滲み出る。




『わかってるよぉ、ソリア。でもさぁ……ちょっとだけ味見、ダ・メ~?』




『……わらわも、その気持ちが分からぬではない。しかし……まだ“時”は熟しておらぬ』




アメリの瞳が金色に瞬き、言葉を続ける。




『ここは……“あのお方”と“アマリリス”のご意向に従い、退くのが得策。いいな、カリン?』




『はーい……仕方ないねえ……』


唇を尖らせたカリンがしぶしぶ応じる。




『というわけで、今日はこれでバイバイ! オルディナちゃんっ!』


とびきりの笑顔と共に、カリンは投げキッスを放つ。




『……命拾いなさいましたわね、ロゴス。次に会う時は、あなたの心に――氷華を咲かせて差し上げますわ』


ソリアは静かに微笑み、消えゆく気配を残す。




『……また会おう、アクシオン。次は――もっとわらわを楽しませてくれよ?』


アメリは妖艶な視線を残して、次元の綻びへとその身を沈めていった。




こうして、黒影の三使徒はそれぞれの“標的”と“因縁”を確かめ合いながら、


リーヴァ、レナリス、セナの三人を伴い、闇の裂け目に姿を消した――。




――つづく


ここまで読んでいただきありがとうございます✨

ブックマークで追ってもらえると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ