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三姉妹とリユニエの星環  作者: ケミパパ
第3章 金羊に導かれし幻想

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Ⅸ.断律の三審劇①

※世界観の補足や設定まとめはnoteにあります(プロフィールから)

9.



女王アマリリスが、静かに指を鳴らした。


――パチン。


その瞬間、空気が硬質にひび割れ、広場の天蓋が魔力の衝撃波に包まれた。


空が裂けるように歪み、三つの巨大な魔法円が現れる。紋章の輝きが宙に舞い、炎、氷、星空を思わせる光彩が広場を包み込んだ。


魔法円の中央から、異形の触手に支えられた三基の浮遊舞台が音もなくせり上がる。


「……これは?」


カゲツが息を呑む。


「“舞台結界”……外部干渉を完全に遮断する禁術級の結界よ。」


ミカゲが厳しい声で言った。


アマリリスは優雅な所作でもう一度、指を鳴らす。


――パチン。


次の瞬間、アクシオン、オルディナ、ロゴスの三姉妹は、それぞれの浮遊ステージへと瞬間転移させられていた。


「ちょっ、なにこれ!? 勝手に飛ばされた!?」


オルディナが舞台上で困惑の声を上げる。


「……くっ、空間操作も干渉も……全部封じられてる」


ロゴスが瞬時に結界の仕組みを見抜く。


三つの舞台。それぞれには、すでに姿を現した“黒紫のルミナ”に染まるセナ、リーヴァ、レナリスが待ち構えていた。


ミカゲ、カゲツ、エリシアたちはその場に残されたまま、身動きすらままならなかった。


「なんて……演出」


エリシアが呟いたとき、民衆の前に三面の魔導モニターが出現し、まるで劇場の三面スクリーンのように映し出されていた。


女王アマリリスが壇上で声を響かせる。


「皆さま――祝祭の余興として、例年とは異なる特別舞をお届けいたします」


「どちらが真の“三姉妹”にふさわしいのか。この舞台の勝者に、リユニエの未来を託すといたしましょう」


その声に、民衆はどよめいた。


魔法の夜が、決戦の幕を開けた――。




炎が爆ぜ、空間が軋む。

オルディナとリーヴァは、それぞれの浮遊舞台の上で向かい合っていた。


「……リーヴァ。やっぱり、操られてるんだね」


オルディナの声は静かだが、胸の奥に熱い怒りが燃えている。


応えることなく、リーヴァは無言で構えを取った。その身体を包むルミナは、かつての清らかな橙色ではなく、黒紫に濁った灼熱の獣気。


リーヴァの背後に、異形の獣影が現れる。

三つ首の巨大な魔犬――《ケルヴァス》。

黒紫のルミナで更に憎悪が増した闇赤に灼けた魔紋がその筋肉を走り、三対の眼が獲物を射抜くように光る。


「くる……!」


オルディナは、両の拳に紅蓮の生命のルミナを灯し、構えた。


――次の瞬間。


「グゥアアアアアアッ!!」


ケルヴァスの咆哮とともに、リーヴァが閃光のごとく突進する。大地を砕く重さと速度。剣閃のごとき巨大な爪撃が舞台を削り裂く。


オルディナは踏み込み、拳を振るった。


「はあぁぁっ!!」


紅蓮の気焔がうねり、拳と爪が激突する。

衝撃波が舞台全体を震わせ、爆風のような熱気が辺りに吹き荒れる。


「っ、重い……!」


リーヴァの力はかつての比ではなかった。

ケルヴァスの咆哮と黒紫のオーラに同調し、その身体能力が異様なまでに強化されている。


オルディナの拳がかわされ、リーヴァの爪が肩を裂く。血飛沫。


「まだ……!」


痛みを押し殺し、オルディナは二撃、三撃と炎を纏った連打を放つ。


拳が軌跡を描き、炎が花弁のように舞う――


だがリーヴァは、ケルヴァスと黒紫のルミナの力を借りてその全てを受け止め、反撃する。


「……まるで、別人みたい」


呟いたオルディナの目に、一瞬、リーヴァの瞳の奥に微かな涙の光が見えた気がした。


「リーヴァ……!」


しかし返答はない。


ケルヴァスの三つの口が同時に開き、灼黒の魔焔が襲いかかる。


「やば.....」


オルディナは間一髪でその魔焔を回避した。


『オルディナよ....無駄な抵抗はよせ。さっさと女王に忠誠を誓うのであれば、そなたの命までは取らん』


地のそこから這い上がるような声でケルヴァスが言った。


「あんたはそれでいいの?ケルヴァス!!今の女王のやろうとしていることが、ザトルム、リユニエに生きる人や精霊のためだと本気で思ってるの?」


『黙れ……裏切り者どもが!貴様らがザトルムに与えた混乱を忘れたとは言わせん。女王の導きを否定する権利など、貴様らには微塵も無い!』


ケルヴァスの首にかけられたヘマタイトの首飾りが怪しく黒銀色に光る。

沈黙していたリーヴァがようやく口を開き、耳を疑うことばを綴った。


「オルディナ、アンタたちのせいなんでしょ?リユニエで異常気象が起きてたのは...アンタたちは各地を奔走する傍ら、それを起こしていた張本人。だから、アンタたちが消えてから異常はピタリと止んだ。」


「違う!そんなことしてない!あなたたちは女王の嘘に騙されてる!!」


オルディナが舞台を見ている女王にもはっきりと聞こえるように言い放った。


「アマリリス女王のお陰で、ザトルムの皆は……安心して暮らせるようになった。あの異常な災害も、争いも――もうないの。私だって……ケルヴァスと、やっとひとつになれた。これも、全部……女王と、この“美しい”黒紫のルミナのお陰なのよ。」


リーヴァは酔狂な眼をしながら、片手で自分を包む黒紫のルミナを撫でるように言った。


「その力は....全てを奪い取る狂夢の力よ...いいわ、だったら――叩いてでも目を覚まさせる!」


オルディナの身体が紅蓮と深紅のルミナで包まれ、《命門・紅耀》が発動する。


彼女の両眼は橙と深紅に煌めく瞳に変化した。凄まじい量の生命を燃やす紅蓮と深紅の炎がオルディナから発せられていた。 


「なら……見せてあげるわ。私たちの"絆"のかたちを」


リーヴァの低い囁きとともに、

ケルヴァスが唸りをあげた瞬間――


彼女とケルヴァスの眼が、同時にヘマタイトの黒銀に染まる。


周囲の空間が軋み、黒紫のルミナが奔流のように逆巻いた。


それはもはや「精霊魔法」の域を逸脱した、


魂と魂の強制融合――。


『――裏・幻界昇華げんかいしょうか――』


赫獣夢奏かくじゅうむそう!!』


黒紫のルミナが炸裂し、舞台そのものが暗紫の魔力の奔流に飲み込まれる。


リーヴァの身体がケルヴァスと同調し、全身に魔獣の文様が浮かび上がってゆく。


肩から腕にかけては獣化し、指先は漆黒の爪に変じ、脚には闇焔の輪郭をまとう脚鎧が顕現。


胸元にはケルヴァスの紋章が灼き刻まれ、彼女の背からは、獣の尾を模した黒炎の尻尾が揺れる。


リーヴァはまるで、ケルヴァスの意識と肉体を――「奏でている」かのように美しく、残酷に微笑んだ。


舞台の炎が爆ぜる。


紅蓮と深紅の生命が咲き乱れ、黒紫の狂夢がそれを呑み込む――

覚悟と絶望が交差する刹那、空間そのものが、ひとつの“魂の戦場”と化した。



--つづく

ここまで読んでいただきありがとうございます!


毎週(水・土)更新予定(余力がある週は追加更新あり)。第一部完結(第7章)まで走ります。

ブクマで追ってもらえると励みになります✨

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