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三姉妹とリユニエの星環  作者: ケミパパ
第3章 金羊に導かれし幻想

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Ⅷ.祝祭に潜む審判

※世界観の補足や設定まとめはnoteにあります(プロフィールから)

8.



二日目の夜が深まり、トゥリムの空には星光が瞬いていた。




星環大展覧会二日目は、外見上は華々しい成功に終わった。




各地の展示や演目は盛況を極め、街の賑わいは初日以上。




精霊文化と技術の粋が集うこの大祭は、民衆の間に確かな誇りと興奮を呼び起こしていた。




だが、その裏側で、わずかな“異変”もまた、静かに広がっていた。




黒紫のルミナの目撃情報。




羊精霊ソレーユの容態に関する不穏な囁き。




街角で交わされるそれらの噂は、まだ断片的で根拠を欠いていたが――




それでも、人々の表情には微かに“何か”が映りはじめていた。




「今夜のソレーユの様子は……?」




ロゴスの問いに、エレナは小さく頷いた。




「状況は変わらないわ。羊の湯で、辛うじて持ちこたえている」




続けて、沈痛な面持ちで視線を伏せた。




「でも、明日が最後。ソレーユの祝祭が無事に終われば……民意も、精霊との繋がりも、きっとまた少しは取り戻せる」




エレナの声に、一同は小さく頷く。




最終日――“すべてが決まる”日が、ついに始まろうとしていた。




やがて、夜明けが訪れた。




トゥリムの街に、三日目の陽が昇った。




金と白の布がはためく石畳の通りは、今日も活気と祝祭の気配に満ちていた。




だが、その空気には、昨日までとは違う“張り詰めた緊張”が混じっている。




「民衆も、なんとなく感じ取ってるのかしら」




アクシオンが広場の人混みを見つめながら呟く。




「黒紫のルミナの噂も、もう隠しきれなくなってきてるからな」




カゲツが肩をすくめた。




それでも、祭典は止まらない。




トゥリムの各地で、伝統芸能や工芸の最終展示が行われ、昼には“リユニエ各国の誇り”を掲げたパレードが街を巡る。




「お祭りは、終わりまで“華やか”じゃなくちゃいけないのよ」




エリシアは遠くを見つめたまま、静かに言う。




「民の目が逸れた隙を、女王は狙ってる。私たちの“失墜”を演出するために」




「そして……今日の夜、“ソレーユの祝祭”で、それが始まる」




ロゴスが低く呟いた。




三姉妹と賢者たちは、沈黙のまま頷き合った。




今日一日、この街は賑わいと混乱の狭間に立ち続ける。




やがて、太陽が傾き、夜の帳が下りる頃――




すべてが決まる、最後の舞台が幕を開けるのだ。




夕陽が傾き、トゥリムの街に金色の光が差し込む。




広場を囲むように、無数の光輪が灯された。




街の人々が集まり、各国の旗と精霊の紋章がはためき、華やかな音楽が響き渡る。




「これが、ソレーユの祝祭……」




ロゴスが呟いた。




「トゥリムと羊精霊ソレーユを讃える、街最大の行事よ。」




アクシオンが小さく微笑む。






やがて、女王アマリリスがその姿を現した。




白金の長い髪が月光を受けて柔らかく揺れ、黄金と紅玉で彩られた王冠が威厳と気品を放つ。




虹彩を宿す薄絹のドレスは、歩みのたびに淡く光を変え、胸元と袖口を飾る繊細な金細工と深紅の宝石がひときわ映えていた。




その傍らには、エレナ姫の姿もあったが、その表情には明らかな陰りが滲んでいる。




アマリリスは静かな微笑を浮かべ、優雅な足取りで馬車から降り立つと、広場には一斉に歓声と敬礼が湧き起こった。






「この祝祭の場で、彼女は仕掛けてくる」




アクシオンが低く呟く。




三姉妹と賢者たちは、観客席の中でも特別に設けられた“貴賓席”に案内されていた。




「見せ物にされてる、ってわけね」




エリシアが皮肉気に言うと、カゲツとミカゲがわずかに頷いた。






華やかな音楽と共に、ソレーユの祝祭が幕を開けた。




各地の伝統舞踊、精霊たちとの共演、幻想的な光と音の饗宴――




トゥリムの民も、訪れた客人も、しばし政治の影を忘れ、祝祭に酔いしれていた。




だが――その平穏は、女王アマリリスの一歩で破られる。




壇上に立つ女王が、柔らかな微笑みのまま、朗々と声を響かせた。




「リユニエの皆さま、そして、友なる民と賢者、精霊たちよ。私は、この祝福の場に立てることを、心より喜ばしく思います」




民衆の歓声が広がる。




しかし、次の瞬間、その場の空気が一変した。




「そして――この美しきトゥリムは我がリユニエ王国と正式な同盟を結び、共に新たな未来を歩むことを、ここに宣言いたします」




沈黙。




ざわめき。




群衆が戸惑い、視線を交わし、やがて広場に騒然とした声が広がった。




「……やっぱり、そう来たわね」




ミカゲが静かに呟く。




「祝祭の舞台を、そのまま“支配の宣言”に使いやがった」




カゲツが低く唸る。




壇上の女王は、なおも穏やかな微笑を崩さぬまま、言葉を紡ぐ。




「これは、民の平和と繁栄のため。そして、精霊たちとの真なる共存のため。“統一”こそ、私たちリユニエの未来の礎なのです」




その声音は、限りなく優美で、同時に冷ややかだった。




民衆の間に戸惑いと疑念が渦巻き、その視線はやがて、貴賓席に座る三姉妹へと集まっていく。




「……このまま黙っていられる?」




ロゴスが小さく問う。




アクシオンは、静かに席を立った。




「もちろん、黙ってなんていられないわ」




その声は澄みきり、決して揺るがぬ意思を帯びている。




観衆の視線が、一斉に三姉妹へと注がれる。




その場に、張り詰めた緊張が走った。




「アマリリス女王」




アクシオンの声が、清冽な響きで壇上に届く。




「それは、本当にリユニエの民が望んだ結論なのですか?」




女王の微笑が、僅かに深まった。




「ふふふ……やはり異を唱えると思っていたわ、アクシオン、オルディナ、ロゴス」




その声音は、柔らかく、同時に揺るぎない威圧を帯びていた。




「ならば、あなたたちにもう一度、選択肢を与えましょう。私と共に歩み、リユニエの未来を築くか。それとも――この場で、王国の法に従い、拘束されるか」




「今のあなたに忠誠は誓えない。それに、みすみす捕まる気もないわ」




ロゴスが淡々と告げる。




「民衆の前で、力で示すおつもり?それもまた、古くからの“権威の手段”でしょうけれど」




女王は静かに続ける。




「ならば、こちらも応えましょう。私と共に歩むことを選んだ者たちを――」




その言葉と共に、壇上の奥から、三つの影が現れた。




セナ、レナリス、リーヴァ――




かつて三姉妹と肩を並べ、リユニエの誇りとされた賢者たち。




だが、その瞳は虚ろに濁り、身を包むルミナは黒紫に蝕まれていた。




「嘘……」




オルディナが声を震わせる。




「やはり、操られている」




エリシアが冷静に言葉を継ぐ。




「アクシオン、オルディナ、ロゴスよ。リユニエの未来に、もはやあなたたちの居場所はない」




アマリリス女王の声が、冷たく美しい響きを纏い、広場を支配する。




祝祭の空気が、まるで時間ごと凍りつくように、音を失っていった。



――つづく

ここまで読んでいただきありがとうございます!


毎週(水・土)更新予定(余力がある週は追加更新あり)。第一部完結(第7章)まで走ります。

ブクマで追ってもらえると励みになります✨

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