Ⅶ.十二賢者精霊会議
※世界観の補足や設定まとめはnoteにあります(プロフィールから)
7.
トゥリム城の奥、庭園を抜けたその先――
月光に照らされた羊の湯は、昼間の喧騒が嘘のように、静けさと湯気に包まれていた。
三姉妹、ラオ、モナ、そして賢者たちが再びこの場所に集まった。
「二日連続でここに来ることになるとはね」
ラオが肩をすくめる。
「逆に、ここ以外でまともに話せる場所なんて、もう残ってない気がする」
アクシオンが吐き出した。
「ソレーユは?」
ロゴスが問いかけると、ミカゲが静かに湯殿の奥を指し示した。
「まだ療養中よ。でも、こちらの話は伝わっているわ。ツキハネさんが、ね」
『まかせて。ルミナを通して、ちゃんと繋いでる』
湯気の向こうで、ツキハネがぴょこんと耳を揺らした。
すでに、ミカゲ・モナ・エリシアの三重結界が張り巡らされている。
外界の視線も、気配も、ここには届かない。
一行は湯に浸かりながら、改めて顔を見合わせた。
「エレナ、無理言ってごめんね。女王も湯に浸かる予定だったんじゃないの?」
アクシオンがエレナに聞くと、
「それが、予定が変わったみたいで、女王は護衛の親衛隊隊長らとトゥリム城の控え室に引き上げました」
エレナ姫が答えた。
「親衛隊...ルーガね」
オルディナが眼を細めながら応えた。
「で、その封筒、開けてみる?」
カゲツが問いかける。
「ええ、開けるわ」
ロゴスが封筒の封を切ると、一枚の手紙には整った筆跡でこう記されていた。
『星環大展覧会 最終日 “ソレーユの祝祭”
特別招待席に、貴女方を心よりお迎えいたします。』
「これは...罠?」
モナが呟く。
「少なくとも、ただの親切じゃ済まなさそうだね」
カゲツが苦々しく言う。
「“ソレーユの祝祭”への特別ゲスト席。よりによって、このタイミングでわざわざ、ね」
エリシアも表情を曇らせる。
「確実に...女王の誘導ね」
アクシオンが静かに断言する。
「女王がここまでする理由、もう一度整理しましょう」
ミカゲが切り出す。
「中央は、“繋がり”と“共鳴”を恐れている。あなたたち三姉妹が、賢者と精霊と手を取り合い築き上げてきたその力を、ね」
「だからこそ、“幻界昇華”まで、記憶ごと奪われた」
ロゴスが低く呟く。
「けど、完全に消されたわけじゃない」
オルディナが強く言う。
「少なくとも、私たちにはまだ、こうして集まれてる。」
「...問題は、敵の方も“切り札”を用意しているってことよ」
ミカゲの言葉に、空気がわずかに緊張する。
「まさか...セナ、レナリス、リーヴァを利用するつもり?」
アクシオンの声が、静かに響く。
「その可能性が高いわ。女王はあの子たちを利用してくる。ソレーユの祝祭、その“特別席”は、公開処刑みたいなものよ」
「その前に、手を打つ?」
オルディナが前のめりに言う。
「いや、今はまだ動く時じゃないわ、オルディナちゃん」
エリシアが制した。
「今、無闇に動けば、トゥリムも、ソレーユも、巻き添えになる」
一同は沈黙する。
「エレナ、ソレーユの容態はどう?」
ロゴスが問う。
「芳しくないわ。この羊の湯の力でも黒紫のルミナは完全に追い出せない。羊の湯に備わった黄金のルミナと黒紫のルミナがちょうど拮抗しているような状態よ」
エレナが答えた。
「ミカゲ、私たちがあなたたちと精霊に施した"仮契約"の術式はエレナとソレーユの間には組み入れられないのかしら?」
アクシオンが聞くと、
「ロゴスさんの《オラクル・アイ》があれば、今のあなたたちでも発動できるかもしれません。ただ、ソレーユは今誰とも契約をしていない状態。私たちに組み入れたときは、あなたたちが精霊と"正式契約"の状態であったから」
ミカゲが、瞳を細めて言った。
「それに、今のソレーユちゃんは黒紫のルミナで侵されてる状態。このルミナが障害になるかもしれないし、最悪エレナちゃんの精神にも悪影響が及ぶ可能性は否定できないわ」
エリシアが冷静に呟いた。
「ときどき、ここにいなくても、ソレーユの声が頭に聞こえてくるの。くるしいって....」
沈黙していたエレナが涙混じりに呟いた。
「エレナ.....」
ロゴスがこたえる。
アクシオンの紫紺の瞳が反応する。
エレナは確実にソレーユと契約を結ぶ賢者。
しかし、黒紫のルミナが不安定要素である以上、契約を急ぐべきではない。
『エレナ、ありがとう。そして、三姉妹よ。お久しぶりですね。無事で何よりです。』
ふと、賢者と三姉妹の頭のなかに暖かい声がこだました。
次の瞬間-
一行は不思議な神秘的な空間にたっていた。
そこは、時も音もない、静謐な結界だった。
足元には柔らかな光輪が広がり、遥かな星々が瞬き、光と影が穏やかに揺れている。
だが、よく目を凝らせば、その空間の端には、かすかな“ひずみ”が漂っていた。
完全ではない、不完全な世界。
それでも、ここは、賢者と精霊、そして三姉妹の意識とルミナが重なり合う、唯一の“繋がりの場所”だった。
そこには、一行に加えて、猪精霊イグニファ、ウサギ精霊ツキハネ、蛇精霊サクヤオロチ、猿精霊シエン、ペガサス精霊ラフェエル、そして、羊精霊のソレーユが立っていた。
「ここは?」
オルディナが呟くと、
『言ったでしょ。私たちはルミナで繋がっている。以前のあなたたちはよくこうやって私たちと話してたんだよ』
ツキハネが三姉妹を順に見ながら答えた。
「あ...十二賢者精霊会議...」
ロゴスが何かを思い出したように言った。
「わたし、ここに来たことある...」
「やっぱ、これも忘れてるよなあ...にしても、シエン….」
カゲツがシエンに聞いた。
「これは、三大精霊と三姉妹の力がないと、実現しないと思っていたけど、そうでもないんだな?」
『我々とて、リユニエを守る準大精霊であるしな。それに、三姉妹がワシらとお主らに施してくれた"仮契約"の術式、そして、"正式契約"に至っている精霊と賢者が2組も存在しているお陰だ。我々とお主らのつながりはそう簡単には切れはせんよ』
シエンが静かに説明する。
『珍しく熱く美しいことをおっしゃるのですね。シエン。わたくし見直しましたわ。昨日は賢者たちの湯を覗こうと必死でしたのに。』
煌めくエメラルド色の瞳を細めながら、白蛇のサクヤオロチが言った。
『やめんか!ワシの面目が立たんではないか!!』
シエンが声を荒げると、一同は笑いに包まれた。
『ここに集った我々でソレーユ、そして、悪い夢を見ているボスやなかまたちを救おう』
イグニファが言うと、全員が頷いた。
「なら、一旦整理しましょう」
アクシオンが言うと、ロゴスが続ける。
「大展覧会の最終日――“ソレーユの祝祭”で、女王は動くわ。闇に呑まれたリーヴァたちを私たちにぶつけて、民衆に私たちを“裏切り者”として印象づけ、その上で自らの権威を確立するつもりよ」
「実際、リーヴァらと衝突することになれば、オルディナ、アンタら勝機はある?」
カゲツが聞くと、
「正直、仲間だから、やりにくいんだけど、今の私たちでは、あの子達とやりあえるかは微妙よね」
オルディナが言う。
「私もこんなこと考えたくもないけど、あの子達が黒紫のルミナで侵されているとしたら...あの子達と精霊らの力が黒紫のルミナで無理やり強化されている可能性もある……正直、勝てるかどうかはわからない」
ロゴスが慎重に呟いた。
「わかったわ。であれば、ミカゲちゃん、カゲツちゃん、私達も"とっておき"も披露する前提でいるべきね」
エリシアが言うと、
「まさか、あなたたち、やってのけたの?」
アクシオンが紫紺の眼でエリシアらを見ると、
『アクシオン、あなたの考えている通りです。あなたたちが眠っている7ヶ月間、"仮契約"の術式のおかげで、この子達にあなたたちの力を一部授けることができた。完全には習得しきれていませんが….』
ペガサス精霊のラファルが応えた。
『ミカゲ、カゲツ、エリシア、私たちから授けた《幻界昇華》の力、あなたたちの尽力で、形にはなってますが、"仮契約"であるがゆえに出力は不安定であることを忘れてはなりませんよ。ここぞと言う時に使うのです。』
サクヤオロチが静かに説明する。
「さすがね...あなたたち...託して正解だったわ」
アクシオンが敬服したように応えた。
『ラオ、モナよ。お主らはわらわとツキハネと"正式契約"に至っている。まだ日は浅いが、わらわらの力を存分に出力できる。安心するがよい。三姉妹、仮契約の賢者らを援護するぞ』
猪精霊イグニファが言うと、ラオとモナは静かに頷いた。
「よし、絶対あの子達の目を覚ましてあげよう!」
オルディナが拳を握りしめた。
その眼には確かな覚悟が宿っていた。
――つづく
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毎週(水・土)更新予定(余力がある週は追加更新あり)。第一部完結(第7章)まで走ります。
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