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三姉妹とリユニエの星環  作者: ケミパパ
第3章 金羊に導かれし幻想

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Ⅵ.星環大展覧会、開幕。

※世界観の補足や設定まとめはnoteにあります(プロフィールから)

6.



朝焼けの名残が石畳を淡く照らす頃、トゥリムの街はすでに祭りの気配に包まれていた。




広場も路地も、金と白の布が張り巡らされ、羊精霊ソレーユを象った紋章が至る所に掲げられている。

市場の屋台では各地の特産品や工芸品が並び、楽師たちが笛と弦の音色を響かせていた。




「すごい……昨日とはまた違う賑わいだ」




ロゴスが目を丸くする。




「星環大展覧会はただの見せ物じゃない。リユニエの文化と技術、そして“精霊と人の共存”を象徴する場よ」




アクシオンが静かに説明する。




街の各所に設えられた仮設ステージでは、リユニエ各地の賢者や職人たちが技を披露し、民衆が歓声を上げていた。




ミカゲは古都クヅラハの工芸品展示区画を指し示す。




「伝統工芸や精霊文化を前面に出すのも、中央への対抗心の表れね。……まだ、完全には飲み込まれていない」




その言葉に、カゲツが肩をすくめて付け加えた。




「ま、表向きは“平和と交流”ってことになってるけどさ」




エリシアは遠くに見える大広場を見つめ、冷ややかに言った。




「今日が終わるまで、それが本当であってほしいものね」




やがて、トゥリムの中心、大広場へと群衆の流れが集まっていく。



広場の中央に特設された巨大なステージには、王国旗と星環の紋章が掲げられていた。




群衆が押し寄せ、期待と緊張の入り混じった視線がステージに注がれる。




やがて、白銀の馬車が広場に現れた。




リユニエ王国女王、アマリリスの到着である。




美しく流れる白金の髪に、黄金と紅玉の王冠が輝きを放つ。

優美な曲線を描く薄絹のドレスは、光の角度で淡く虹彩を宿し、胸元と袖口には繊細な金細工と深紅の宝石があしらわれていた。

静かな微笑を浮かべた女王アマリリスが馬車から優雅に降り立つと、広場には一斉に歓声と敬礼が広がった。




そのすぐ傍らに、エレナ姫の姿もあった。




トゥリムの代表として、そして女王に従わざるを得ない立場として、彼女は苦しげな微笑みを張り付かせたまま、ステージに立っていた。




「……随分と、演出に気を遣ってるのね」




アクシオンが低く呟く。




「この街ごと、民衆ごと、“自分のもの”にしようって腹なのでしょうか?」




モナが肩をすくめた。




群衆の一角、やや離れた場所には三姉妹とラオ、モナが一般客に紛れて様子を見守っている。




その一方、壇上の少し離れた来賓席には、クヅラハの代表ミカゲ、ナヤカの代表カゲツ、アステリアの代表エリシアの姿があった。




女王に忠誠こそ誓ってはいないが、各国の代表として表面的な礼儀を保つため、しぶしぶの出席だ。




「……なんとも、気まずい構図ね」




エリシアが低く呟き、ミカゲとカゲツがわずかに頷いた。






アマリリスは壇上に立つと、穏やかな笑顔を崩さぬまま、演説を始めた。




「リユニエの皆さん、賢者たち、精霊たち、そして遠方から来た友人の皆さま。今日、この地で星環大展覧会が開かれることを、心より喜ばしく思います」




拍手が広がる。




「リユニエ王国は、皆さんの平和と繁栄のために存在します。中央も、各地も、精霊たちも――すべてが手を取り合い、ひとつになる時代が、今、訪れようとしています」




その言葉に、民衆の中には戸惑いと期待が交錯した。




「……“ひとつになる”ね」




アクシオンが冷ややかに呟く。




「聞こえはいいけど、裏を返せば“統制”ってことだ」




ラオの声に、三姉妹は無言で頷いた。




アマリリスの演説が終わり、各地の代表者や賢者たちの紹介が続いていく。


壇上にはエレナ姫、ミカゲ、カゲツ、エリシアも順に姿を現し、それぞれ自国を代表して、簡潔な祝辞を述べた。


賢者たちが一人ずつ言葉を終えるたび、会場には拍手と歓声が湧き起こり、祭典の華やかな熱気がさらに高まっていく。


だがその熱気の奥底で、誰にも気づかれぬまま、見えない緊張と、不穏な影が静かに渦を巻き始めていた。




開幕式を終えても、トゥリムの熱気は冷めやらなかった。




各国・各地から集められた工芸品や精霊文化の展示が並び、広場の至る所で音楽や踊り、職人たちの実演が披露されている。




「こうして見ると……リユニエも、まだ“豊か”よね」




ロゴスが陶器細工の屋台を見つめながら呟く。




「それは、“表向き”の話だけどね」




アクシオンは肩をすくめた。




開幕式に出席していた賢者たちは、それぞれ忙しなく動いていた。




エレナ姫はアマリリス女王に付き従い、女王が各展示や催しを視察するたびに案内役として付き添っている。




ミカゲとカゲツも自国の代表として、各国の官僚らと顔を合わせ、自国の展示区画の取り仕切りに追われていた。




一方、エリシアは――




天空都市アステリアの歌姫として、大展覧会初日のもう一つの目玉――


特別コンサートのリハーサルのため、開幕式直後に海沿いの特設ステージへと向かっていた。




「みんな、忙しそうね。ラオやモナは大丈夫?」




オルディナが問いかけると、ラオは笑いながら答えた。




「ザンブロスはお店は出してるけど、炎のフレイムリングのみんなが頑張ってるし、あたしがしゃしゃり出るほどじゃないよ。だからのびのび~ってね」




「わたくしも似たような状況ですわ。ルナエール図書館の司書の皆さんと、学術院の方々が出店を切り盛りしてくださっています。ツキハネ様が店番をしたいと仰ったので、さすがに止めましたが」




モナが微笑む。




『だって!店番って楽しそうじゃん!』




モナの肩にちょこんと乗ったツキハネが、得意げに胸を張った。




「ツキハネ……ほんとに好奇心の塊だね…」




ロゴスが苦笑すると、一同は和やかな笑いに包まれた。




やがて、陽が高く昇り、トゥリム城を背景にした海岸近くの特設ステージに、続々と人が集まり始めた。




初日のもう一つの目玉――天空都市アステリアの歌姫・エリシアのコンサートが、いよいよ幕を開ける。




「きゃああぁ~!エリシア~~!!」




熱狂的なファンのオルディナが、感情を爆発させる。




「ちょっと、オルディナ、落ち着いて!私たち、目立つわけには……」




アクシオンが慌てて制止する。




「大丈夫ですわ、アクシオン様。皆さん、同じくらい熱狂されていますもの」




モナが落ち着いた笑みを浮かべた。




「なら、遠慮なく盛り上がっちゃおう!」




ラオが瞳を輝かせた。




青白い光がステージを満たし、精霊ラファルの風が優雅に舞い込む。




その中心に、エリシアが立っていた。




蒼と白を基調にした衣装に、透き通るような肌。気品と華やかさを併せ持つその姿は、まるで天空の乙女そのものだった。




楽の音が静かに響き、エリシアの歌声が宙に放たれる。




それは、清らかな旋律と、胸を高鳴らせるリズムを兼ね備えた祝祭の歌。




透き通った声が、柔らかな風と共に会場を包み込み、観客たちは瞬く間にその魅力に囚われた。




「……やっぱり、凄いわ」




アクシオンが静かに呟く。




「歌に……力が宿ってる」




ロゴスも目を細める。




やがて、リズムは徐々に高まり、エリシアは軽やかなポップ調の楽曲へと転じる。




民衆は歓声を上げ、手拍子が広がり、会場はまるで一つの大きな波のように揺れていった。




その瞬間だけは、誰もが政治も争いも忘れたかのように、純粋な熱狂に身を委ねていた。




だが、三姉妹と賢者たちは知っている。




この祝祭が、ただの祝祭で終わらぬことを。




風は、どこか不穏な気配を含んでいた。


――近づく、嵐の気配を。





エリシアのコンサートは大盛況のうちに幕を下ろした。




日が傾き、街の灯火がひとつ、またひとつとともり始めた頃――




三姉妹とラオ、モナは、広場近くの屋台街で早めの食事をとっていた。




「まさか、トゥリム名物の“果実とハーブのパン煮込み”が、こんなに美味しいとは……」




ロゴスが驚きつつ、スプーンを運ぶ。




「羊毛だけじゃないのよ、トゥリムは。“豊穣の都”って言われるくらいだから」




アクシオンが微笑む。




屋台街を彩る柔らかな明かりと、人々の賑わい。その中に、僅かな安堵が流れていた。




だが、その穏やかなひとときを破るように、銀白の封筒が差し出された。




「……お届け物です」




使いの者が、丁重に封筒を差し出す。




そこには、羊精霊ソレーユの紋章と、女王の印章が並んで刻まれていた。




使いの者は、一行に微笑を向けると、無駄のない動きで深く頭を下げ、そのまま人混みに紛れて消えた。




「……嫌な予感しかしないわね」




オルディナがぼやく。




「大方、想像はつくけど……」




ロゴスがため息混じりに答える。




ふと、アクシオンが視線を上げた。




「この後、また昨夜みたいに、皆で話せる時間がとれるかしら」




『アクシオン、心配いらないよ。私たち精霊は、ルミナで繋がってる。』




モナの肩に乗ったツキハネが、静かに言った。




『みんなに付き添ってる精霊たちに、私から“集合”の連絡を入れておく。』




「そんなこと、できるのですか?」




モナが驚きを隠せずに尋ねる。




『女王側の精霊とは無理だけどね。イグニファ、サクヤ、シエン、ラファル――それと、ソレーユにも話せるよ。』




「ソレーユも?」




一同が驚きの声をあげる。




『ソレーユは今、羊の湯で黒紫のルミナに侵された身体を癒してる。昨日は直接会えなかったけど、私たち精霊の間では、もう色々話は通ってるよ。祝祭のことも、ね。』




ツキハネの言葉に、アクシオンが小さく頷く。




「まさか、二日連続で“羊の湯”に行くことになるとは思わなかったけど……集合場所は決まりね」




一同は頷き合い、ツキハネは小さな詠唱を始め、精霊たちに向けて呼びかけを始めた。




トゥリムの夕陽は、ゆっくりと、しかし確実に地平へと沈んでいく。




忍び寄る影と、不穏な夜の気配が、静かに、街を包み始めていた。



――つづく

ここまで読んでいただきありがとうございます✨

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