表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三姉妹とリユニエの星環  作者: ケミパパ
第3章 金羊に導かれし幻想

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/27

Ⅲ.星の間、揺らぐ想い

※世界観の補足や設定まとめはnoteにあります(プロフィールから)

3.



黄金色に染まる地平が、ゆるやかに夜の帳を押し返していく。




その光は雲の隙間を縫い、川面を、石畳を、山裾を、そしてトゥリム城の尖塔を、静かに照らし始めていた。




「……久しぶりに来たけど、トゥリムは朝日がほんとに似合うわね。」


列車を降りたアクシオンは、紫紺の瞳を細め、朝焼けに輝く街並みを見つめた。




石造りの高い城壁が海と陸を区切り、その内側には、羊毛で知られる穏やかな家々が寄り添うように並んでいる。




さらに視線を上げれば、切り立つ岩山の上に広がる城郭群。




その最上にそびえるのは、豊穣と信仰の都を象徴するトゥリム城だった。




陽光を浴びて、城壁も屋根も、まるで金色の星屑をまとったように輝いている。




朝霧に滲むその光景は、まるで幻想そのものだった。




「なんだか、絵葉書みたいだね……」

ロゴスが感嘆を漏らす。




「だけど……妙じゃない?」

オルディナが目を細めた。

「街の空気が、どこか張り詰めてる」




街道を歩く住民たちの表情は、一見、朗らかで忙しげだった。




大展覧会に向け、各地から商人や旅人が集まり、町中や広場は活気にあふれている。




露店には羊毛製品が並び、花屋の少女が黄色い花冠を売り歩き、楽師が笛を吹き鳴らす――




だが、その裏側に、微かな違和感が忍び寄る。


よそ者を見つめる視線が、どこか鋭い。


笑顔に混ざる、張りついたようなこわばり。




トゥリム城の衛兵の巡回は異様に多く、道端にはリユニエ王国の紋章旗がはためいている。




そして――

三姉妹の姿が目に入ると、通り過ぎる人々の笑顔が一瞬、凍りついた。




「あ……」と、小さく息を呑む声。


母親が子供の肩を引き寄せ、足早に立ち去る。


老紳士が帽子を目深にかぶり、目を逸らす。




その反応に、三姉妹は互いに顔を見合わせた。




「……やっぱり、噂が先に広まってるのね」

アクシオンが低くつぶやく。




七ヶ月前の“あの夜”から、三姉妹は王国によって“裏切り者”の烙印を押されていた。




真実を知る者は少なく、民は、王国の言葉と圧力に従うしかなかったのだろう。




だが、ただの恐怖だけではない――

微かに感じる、期待と、戸惑いと、祈るような眼差し。

それが、この街の本音を物語っていた。




「大展覧会の準備で、街は華やいでるはずなのに……」

ロゴスが小さく首をかしげる。

「どうして、こんなに重たいんだろう」




アクシオンは城を見上げた。

黄金の光をまとったその姿は、まるで不変の権威を誇示するかのように、どこまでも美しく、どこまでも冷ややかだった。




「まず、情報収集ね。全員が歓迎してくれることはないと思うけど、話をしてくれる人もいるはずよ」

アクシオンは呟くと、ふたりは頷いた。



三姉妹は衛兵の目に注意しながら、活気づく広場を見て回った。




広場はこのリユニエ地方の文化と精霊、そして人々が濃縮された宝箱のようだった。




ザンブロスの火山を模した《イグニファの煌き》

赤橙の球体は湯に入れると霧が立ち昇り、猪精霊イグニファの咆哮が微かに聞こえるという。



古都クヅラハの《サクヤノウロボロス札》

蛇精霊サクヤオロチの象徴、白蛇が絡み合う文様が刻まれた木製の護符で、「魔除け」と「再生」の力があるとされている。


ルナエールの《ツキハネのしおり》

ウサギ精霊をかたどった銀のしおりは、光にかざすと月の模様が浮かび上がる。隣には《ルミナ学概論》と刻まれた専門書が並んでいた。



幻影都ナヤカの《ミラージュブレード》

刀身が幻のように揺らめき、暗闇で青白く輝く小刀は、次元の狭間に触れる力を秘めるとも噂されている。



そして、トゥリム名物の羊毛製品と、羊精霊ソレーユを模した快眠・開運グッズ。

ふわふわの《ソレーユの抱き枕》は、白羊の姿をした柔らかな抱き心地と、微細なルミナ繊維の穏やかな癒し効果で人気だ。

さらに、ソレーユの角を模した《夢見の角飾り》は、安眠のお守りとして多くの子供たちに愛されている。




果物市場には、トゥリムの陽光をたっぷり浴びた果実が並び、甘酸っぱいジャムや琥珀色の果実酒の香りが漂っていた。




天空都市アステリアのブースには、銀白のペガサス精霊ラファルの羽根飾りや、青く輝く《アクアマリン・ルミナプレイヤー》が置かれていた。

その傍らには、桃色の髪に金の瞳、蝶の装飾を纏ったエリシア姫の微笑むポスターが、夜空のような背景の中で優雅に輝いていた。




「エリシアは相変わらず人気ね」

アクシオンが微笑む。




「姫というより、もう“歌姫”よね!私もエリシア推してるよ!!」

オルディナが目を輝かせながら、エリシア姫のキーホルダーを物色する。




「この《ルミナプレイヤー》、すごいよ。アステリアのアクアマリンで作られてて、ルミナを流すとエリシア姫の歌声が再生されるの。技術的にどうなってるんだろ?」

ロゴスが不思議そうにプレイヤーを眺める。




「ちょ、ロゴス見せて見せて!私も聴きたい!てか、全種類買うわ!」

オルディナは興奮を隠せない。




「……エリシアの熱烈なファンがここにいるとはね」

アクシオンは苦笑を浮かべた。



エリシア姫グッズを手に騒ぐオルディナを横目に、アクシオンはふと視線を巡らせた。




街の活気の裏側で、衛兵たちの視線が鋭くこちらを監視しているのを感じ取っていた。




そのとき――

低く、落ち着いた声が背後から響く。


「……変わらんな、君たちは」


アクシオンが振り返ると、そこに立っていたのは銀髪交じりの壮年の男だった。


緋色の外套に、羊の角を模した装飾が刻まれた胸章。

トゥリム城の衛兵隊長――カリオスだ。


「カリオス……隊長」

アクシオンの瞳がわずかに揺れた。


「久しぶりだな。伝説の三姉妹。」

カリオスは微かに笑ったが、その表情の底に緊張と葛藤が滲んでいた。

「大展覧会が近いこの時期に、君たちが堂々とトゥリムに現れるとはな」


「裏切り者を捕らえに来たのなら、今ここでやって…….」

オルディナが挑むように言い放つが、カリオスは首を振った。


「誤解するな。私は今、公式の任務では動いていない」

彼は人目を避けるように歩み寄り、声を潜める。




「エレナ姫が……君たちに会いたがっている」




その名を聞いた瞬間、三姉妹はわずかに顔を見合わせた。




「城へ……案内する」

カリオスの表情は硬いままだったが、その声音には、微かな信頼と、複雑な思いが滲んでいた。

「……時間はそう多くない。城の中ですら、今は誰を信じて良いかわからない」




アクシオンはほんの一瞬、思考を巡らせたのち、静かに頷いた。




「わかったわ。案内して」




重厚な扉が、静かに、ゆっくりと開かれた。


そこは、トゥリム城の奥深くにある《星の間》。


天井には夜空を模した紺青の天幕が張られ、金の星々が瞬き、羊と星の意匠が壁を彩る。


朝の光が静かに差し込み、空間全体を、柔らかな光と影で包んでいた。




その中央に、少女が佇んでいる。




翠緑の髪をやわらかく結い、金の星飾りとイヤリングがきらめく。


夜空を思わせる藍色のドレスに、金糸の星々が瞬き、腰元の宝石が朝陽を受けて淡く光る。


金の瞳には、懐かしさと安堵、そして隠しきれない葛藤が揺れていた。




「……アクシオン、オルディナ、ロゴス」


エレナ姫の声は震えてはいなかった。だが、その響きは、どこか脆く、張り詰めていた。




三姉妹は、思わず息を呑む。


最後に会ったのは七ヶ月前――あの夜、すべてが崩れ去る前のことだった。




「生きて……いてくれたのね」


エレナ姫の微笑みは、安堵と、抑えきれぬ戸惑いの入り混じったものだった。




「こっちの台詞よ、エレナ」


オルディナが、迷いなく駆け寄る。


強く、力強く、その小さな肩を抱きしめた。


「あなたが無事で本当に良かった。ずっと心配してたんだから」


その声音は、揺るぎなく優しかった。




エレナ姫は驚いたように目を見開き、だが、すぐに小さく息をつき、そっと腕を回す。


「ごめんね……私、何もできなくて……」




「いいのよ、そんなこと」


アクシオンが歩み寄り、紫紺の瞳に静かな微笑を湛える。


「全部、事情は察してるわ。あなたが黙ってたのは、私たちを、そしてトゥリムを守るためでしょ」




エレナ姫の瞳が揺れる。




「中央に……言われたの。トゥリムを大展覧会の開催地にするなら、羊精霊ソレーユへの“干渉”を最小限にすると」


言葉を選びながら、エレナ姫は打ち明ける。


「でも、逆に言えば、拒めばソレーユを……もっと黒紫のルミナで汚染するって」

唇が震え、かすかな怒りと悲しみが滲んだ。




「中央のやり口なんて、想像つくわ」


オルディナがきっぱりと言う。


「エレナが無理に抗えば、ソレーユだけじゃ済まない。トゥリムごと潰される」




「エレナ姫」


ロゴスも近づき、優しく微笑む。


「ずっと、あなたが心配だった。だから今は……会えただけで十分」




エレナ姫の金の瞳に、涙が滲む。


だが、それは悲しみではなく、安堵の涙だった。


「ありがとう……みんな……」


その声は震え、けれど確かな温かさが宿っていた。




重苦しい空気を破ったのは、カリオスだった。




「姫様、時間がありません」


衛兵隊長は、厳しいながらも穏やかな声で言った。


「この城の中ですら、すべてが安全とは限りません」




エレナ姫は小さく頷き、再び三姉妹をまっすぐに見つめた。


「今夜、星環大展覧会の前夜祭が開かれるわ」


その声には、王女としての覚悟が宿っていた。


「その時、あなたたちにも“招待客”として顔を出してほしいの」




「わかったわ」


アクシオンが静かに頷く。


「あなたを信じてる。私たちも、この地の真実を確かめるために」




「うん、任せて。私も……できる限りのことをする」


エレナ姫は、かすかに微笑んだ。




窓の外、朝陽を浴びて、トゥリムの空に羊雲が流れていた。



ーーつづく

ここまで読んでいただきありがとうございます✨

ブックマークで追ってもらえると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ