Ⅰ.裏切りの報せと偽りの女王
1.暴走の夜に消えたもの(これまでのお話)
──神器が暴走した夜、それは偶然ではなかった。
三姉妹――オルディナ、アクシオン、ロゴスは、突如として制御不能な邪悪なルミナに包まれ、精霊との契約の力を失いかけていた。
だが、終焉の直前。
三姉妹と共鳴していた三精霊――竜アメジス、鳳凰カリエン、白虎ソリウスが最後の力を振り絞り、彼女たちをリユニエ王国の王宮から転移魔法で脱出させた。
2.女王の嘘と忠臣たち
その直後。
神器の核からあふれ出た黒紫のルミナは、
空を揺らがせ、リユニエ地方全土を覆い尽くしていった。
しかし、それを感知できるのは、
女王アマリリスと三姉妹、そして三大精霊のみ。
他の民、種族、精霊でさえも、それに気づくことはなかった。
幸にも不幸にも、人々には、今この地で何が起きたのか、そしてこれから何が起ころうとしているのか、知る由もなかった。
しかし、三姉妹と女王との戦闘は、わずかながら外部に漏れていた。王宮――儀式の間に、女王直下の親衛隊が駆けつける。
「女王、なにがあったのですか!」
鋼の鎧をまとった隊長、ルーガ・フェンディアスが数名の親衛と共に駆け込んできた。
女王アマリリスは、神器の傍らに立ち、疲労に滲む微笑みを浮かべながらも、哀しみを含んだ声で静かに答えた。
「……三姉妹が裏切りました。」
「な……信じられません……あの三姉妹が……」
「彼女たちは、何者かに唆されたのです。精霊は無事でした。私と十二精霊、神器の力を合わせ、彼女たちから全盛の力を奪うことに成功しました。しかし、殺すには忍びなく……幽閉を決めかねていた隙に、逃げられてしまいました。申し訳ありません。……彼女たちは、本当に……まるで我が子のようでしたから。」
「……心中お察しします。ですが、リユニエ王国とこの地方の民のため、直ちに三姉妹を全国指名手配し、捜索と拘束任務の準備にかかりましょう。私の精鋭を選抜します。」
「感謝します、ルーガ隊長。では統治省に通達を。あなたの慧眼で人材を選び、任務にあたらせてください。」
「かしこまりました。女王様。」
「それから、今後の統治構造の再編が必要です。明日の朝、各省の大臣を王の間に招集し、会議を開きます。その旨も、各省に通達をお願いします。」
「承知しました。……女王様は、これからどうされますか?」
「もう少し神器の稼働状態を確認してから、休むつもりです。私の管理の不備が、今回の悲劇の一因でもありますから……」
「それでは、私の部下を2人控えさせておきます。何かあれば、お申し付けください。」
「ありがとう、ルーガ。」
ルーガが儀式の間を後にすると、アマリリス女王は口元に”不敵な笑み”を浮かべた。
──すべて、計画通り。
神器と十二精霊を掌握し、三姉妹の全盛の力も奪った。
魂までは奪えなかったが、それでも十分。
生きていても、彼女たちはもう何もできない。
最も厄介な障害を取り除いた。
そして、忠実な臣下たちも、私の言葉を疑うことなく信じきっている……。
「もうすぐ、この地は私のものになる……」
3.支配の布告と三精霊
三姉妹が消えた翌朝、王国じゅうが驚きと混乱に包まれていた。
「あの三姉妹が?何かの間違いでしょ!!」
「信じられない。今まで、たくさん私たちを救ってくださったのに。」
「ママ~オルディナ姉ちゃんどこにいっちゃったの??」
リユニエ王国の王宮、王の間には各省の大臣が集結していた。
「信じられません……あの三姉妹が裏切るなんて……」
研究開発省のセレス・ノヴァリエルが戸惑いの面持ちで言った。
「女王が昨晩体験なされたことは、すべて事実です。そのうえで、今後の統治体制について話し合わねばなりません。」
「具体的に何かお考えがあるのですか?」
アマリリス女王が立ち上がり、皆を見渡して宣言する。
「中央集権体制に移行します。」
場内にどよめきが走った。
「三大精霊と、それに従う九体の準大精霊は、すべて王宮直属の管理下に置きます。」
「ですが、女王……三姉妹は、それぞれ三大精霊と共に、三つの地方の均衡を保ってきました。」
セレスが慌てて続ける。
「オルディナと鳳凰カリエンは、南西のルゼア地区――
炎舞の都ルゼア、戦宴の峡谷ザンブロス、再生の古都クヅラハ、冥界の境界ザトルムを管轄していました。
ロゴスと白虎ソリウスは北のセフィロス地区――
氷晶の研究都市シグマ、要塞都市グラマティカ、幻影都ナヤカ、月華図書館ルナエールを統治していました。
アクシオンと竜王アメジスは東のノアグリフ地区――
霊峰セフィラ、豊穣と羊の都トゥリム、狼林の都ノアグリフ、天空都市アステリアを治めていたのです。」
「それゆえにこそ、今こそ、中央集権が必要なのです。」
「しかし、それは…….各国家の王や民がそして、そもそも精霊たちが納得するでしょうか。」
「心配無用だ。」
天井が微かに震え、冷気とともに雷鳴が轟く。空間が裂けるようにして、王座の背後に三つの輝くオーラが現れた。
竜王アメジスが、荘厳な声で告げる。
「我らは、女王の意志に従う。」
白虎ソリウスが、地を揺るがすような低く響く声で続ける。
「秩序は、玉座のもとに築かれるべし。」
鳳凰カリエンが、炎の羽を煌めかせながら、優雅に羽ばたき、歌うように言った。
「女王こそが、新たなる均衡を照らす光……」
重臣たちは、言葉を失った。
だが、その凛とした女王の眼差しと、揺るぎない三大精霊の意思に、気づかぬうちに――否、気づいてなお、抗うことなく、心を預け始めていた。
その中でただ一人、政務省の長官・レオニスだけが、沈黙の裏に微かな違和感を覚えていた。
──なぜ三精霊は、以前とどこか違って見えるのか。
──女王があの暴走から無傷だった理由は……
小さな疑念の灯火が、この新たな秩序の綻びとなるとは、まだ誰も知らない。
あれから、七ヶ月。
三姉妹の名を口にすることすら禁忌とされた世界で、人々は不安と諦念の中、中央集権国家の秩序に従い生きるしかなかった。
それでもなお、どこかで信じていた。
彼女たちはいつか、再び立ち上がると――
つづく――




