表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三姉妹とリユニエの星環  作者: ケミパパ
第3章 金羊に導かれし幻想

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/26

Ⅰ.金色の朝、城塞の都へ

※世界観の補足や設定まとめはnoteにあります(プロフィールから)

1.



汽車がルナエールを離れ、ゆっくりと丘陵地帯へと差しかかる。




車窓には、朝焼けに染まる草原と、遠ざかるルナエールの街並みが映っていた。




「ふぅ……やっと少し落ち着けるわね」


オルディナが大きく背伸びをしながら、ふわふわの座席に身を沈める。




アクシオンが苦笑しつつ、隣のロゴスを眺めた。




「でも、まさかあの宿屋で、服まで新調することになるとは思わなかったわね」




「仕方ないじゃない、あの店主さん、ものすごい勢いで勧めてきたんだから」


ロゴスは少し頬を膨らませながら、自分の青いドレスの裾を整える。




「“旅は見た目が九割”って名言っぽく言ってたけど、あれ、絶対ただの売り文句よね」

オルディナが笑う。




「でも、結果的に良かったわよ。このドレス、動きやすいし、精霊との儀礼にも耐えられる素材だって言ってたし」

アクシオンは自分の衣装の裾をひらりと揺らしてみせる。




「私は気に入ってるよ、この服。……ねぇ、似合ってる?」

オルディナがにこっと笑いながら身を乗り出す。


「似合ってるわよ。でも……あんまりはしゃぐとスカートめくれるよ?」

ロゴスが冷静に突っ込むと、オルディナは慌ててスカートを押さえた。


「もー!せっかく褒めてくれたのに台無しっ!」




三姉妹の笑い声が、汽車の小さな個室に広がっていく。




──丸一日の道のり、その始まりは、少しだけ肩の力を抜いた、穏やかな時間だった。




汽車の規則的な振動が、ほんの少し心地よい揺れとなって、車窓の外を流れる風景とともに三人を包んでいた。




ふいに、アクシオンが神妙な面持ちで口を開いた。




「ところで……少し気になっていることがあるの」




普段、誰より冷静で理知的な最年長の姉が、ほんのわずか迷うように言葉を選ぶ姿に、ロゴスもオルディナも自然と耳を傾けた。




「これまで私たちが“関係を取り戻せた”精霊は、二人。猪精霊イグニファと、ウサギ精霊ツキハネ。そして……その二人と新たに“契約”を結んだ賢者、ラオとモナ」




アクシオンは、オルディナとロゴスを順に見つめながら続ける。




「あなたたちは、それぞれ自分と同系統のルミナを持つ彼女たちを通じて、精霊たちの力を一時的に借りることができるようになった……でも、この“つながりの力”は、あの夜──7ヶ月前より“前”から、私たちも使えていたはずなのかしら?」




オルディナは少し考え込むように眉をひそめた。




「うーん……正直ね、よく分かんないんだよ。というか、あの夜より前のこと……変な言い方だけど、記憶がぼやけてるっていうか、霧がかかってる感じ」




彼女は苦笑いしつつ、こめかみを押さえた。




「無理に思い出そうとすると、頭痛がするんだ。まるで、誰かがそこだけ蓋をしたみたいに」




ロゴスも、少し顔を伏せ、静かに言葉を続けた。




「私も同じ。記録係の私が言うのも変だけど……以前のこと、本で読んだような気もするのに、実感がないというか。言葉にしようとすると、霧が濃くなっていく」




「……アク姉は?」オルディナが問いかける。




アクシオンは目を閉じ、静かに息を吐いた。




「私も、ずっと考えてる。オルディナがイグニファたちの力を借りた瞬間を見てから、ずっと……でも、やっぱり思い出せないの」




彼女は瞼を上げ、遠くを見つめるような目をした。




「本棚に鍵がかけられていて、必要な本だけ、誰かに取り出せなくされている……そんな感覚」




沈黙が落ちた車内で、汽車の振動だけが静かに響いていた。




だが、オルディナがふっと微笑んで、言葉をつなぐ。




「でもさ……私たち、自分たちのルミナのことも、仲間や精霊たちのことも覚えてるよね。それに、なにより──」




彼女は両手を軽く広げて、二人を見つめた。




「私たち三姉妹のことは、忘れてない」




その言葉に、ロゴスも、アクシオンも、自然と頷く。




「ただの推測だけど、私たちが思い出せない“何か”は、今起こってるすべての謎を解き明かす、重要な鍵なのかもしれない。そして……少なくとも、その封印は──記録と安寧の象徴である精霊ツキハネの救出だけでは、打ち破れなかったということよね」




ロゴスが静かに言うと、アクシオンの目がふと大きく開かれた。




「アク姉?」




オルディナが不思議そうに声をかける。




「……そうか、そういうことだったのね。次の街、トゥリムで待つ精霊と賢者が、この記憶の封印に関わる“もうひとつの鍵”を、きっと与えてくれるわ」




「え……どういうこと?」




オルディナが首を傾げると、今度はロゴスが静かに微笑んで答えた。




「金毛の羊精霊──《ソレーユ》。現実と夢想、記憶と忘却の狭間を行き来する、幻想の守護者」




「記録と知識のツキハネが、表層の真実を紡ぐなら……ソレーユは、私たち自身の心の奥、忘れてしまった“内側の記憶”と向き合うための、案内人よ」




アクシオンが静かに言い添える。




「きっと、ソレーユとその賢者に会えば、私たち自身の“深層”に踏み込む手がかりが見つかる。──今度こそ、この霧を晴らす鍵が」




「……なら、行かない理由はないね」




オルディナが力強く頷き、視線を窓の外に向けた。




いつの間にか、世界はすっかり夜の帳に包まれていた。




汽車は、静かに、月光を映すレールの上をトゥリムへと走り続けていた。



汽車は月夜を切り裂きながら、トゥリムへと進んでいた。




「ふぁあ……さすがに、眠気が限界……」


オルディナが座席に身を沈め、欠伸を漏らす。




ロゴスも隣で頷き、ブランケットをかけながら、窓の外の月を見つめていた。




「少し、休みましょう。明日の朝にはトゥリムに着くわ」




アクシオンがそう告げると、三人は静かに目を閉じていった。




──まどろみが、訪れる。




* * *




いつしか、アクシオンは薄闇に包まれた不思議な空間に立っていた。


目の前に広がるのは、どこまでも続く白い霧と、ゆらめく青紫の光。




「ここは……?」




ぼんやりとした月光が差し込むその空間に、細い声が響く。




『許して……許して、アクシオン』




振り返れば、そこにアマリリス女王の姿があった。




だが、その瞳は虚ろで、青白い唇は微かに震えている。




「アマリリス……?」




戸惑いながら近づこうとした瞬間、彼女の背後に、不気味な影が現れる。




仮面の下から嗤う影の者。




『哀れだな、女王様。お前の“絆”も“理想”も、すべて砂上の楼閣だ』




「あなたは……!」




アクシオンが構えようとする間もなく、影の者はアマリリスの肩に手を置き、彼女を脅えるように揺らす。




『助けて……アクシオン……』と、掠れた声が零れた。




「やめてッ!」




アクシオンが駆け寄ろうとしたその瞬間。




影の者が冷笑し、闇より黒紫のルミナの刃を繰り出す。




『思い出すがよい……貴様らの“空白”が誰の意志によるものかを』




刃がアクシオンに向かい、振り下ろされた、その刹那。




濃紫の光が霧を裂き、鋭い翼の影が間に割り込んだ。




『──焦るな、我が娘よ』




大きな身体と優雅な鱗を持つ、竜精霊アメジスがアクシオンを庇って立つ。




「アメジス……!」




『一歩ずつでいい……お前たちの絆は、急いで築くものではない』




影の者が忌々しげに唸る中、アメジスの身体が徐々に霧散していく。




「いや、待って、行かないで!」




アクシオンは手を伸ばすが、指先は虚しく宙を掴む。




最後に残ったのは、霧の中にほのかに揺れる黄色い光。




まるでトパーズのような暖かい輝き。




──金毛の羊の輪郭が、淡く姿を現す。




『目覚めのときは、近い。……アクシオン、まだ、終わりじゃない』




それは、金毛の羊精霊──ソレーユ。




だが、確かめる間もなく、光は霧を裂くように広がっていった。




* * *




「……アク姉?」




オルディナの声で目を覚ます。




「大丈夫?うなされてたよ」




ロゴスも心配そうに覗き込む。




「うん……大丈夫、ちょっと不思議な夢を見ただけ」




外を見れば、夜明けが迫り、汽車はトゥリムの影へと差し掛かっていた。




金色の朝日が、城の背後から静かに昇ろうとしている。




──目覚めのときは、近い。




その言葉が、アクシオンの胸に静かに残っていた。




汽車が揺れるたびに、夜の帳がわずかにほどけていく。




車窓の外、空は淡い青紫から、ゆっくりと金色の光を帯び始めていた。遥か地平から昇る朝日が、眠りから覚めた世界を優しく照らし出す。




「……もう、すぐそこね」




アクシオンが窓際に立ち、静かに呟いた。紫紺の瞳に、朝焼けの輝きが映り込む。




三姉妹が身を寄せて覗き込む先――その丘陵地帯の向こうに、広がっていた。




波打つ草原と、黄金色に染まる牧草地。その先、まるで空へと伸びるように、白亜の城がそびえ立つ。




丘の上に築かれた巨大な城砦――トゥリム城。




朝陽を受けて輝く石造りの壁面と、尖塔の先端に煌めく金羊の紋章。その背後に、まだ名残る淡い霧がたなびき、まるで幻想の中に城が浮かんでいるかのようだった。




「……すごい、本当に、金色に輝いてる……」




ロゴスが思わず息を呑み、胸元のペンダントを指でなぞった。




「派手な城だなぁ。でも、嫌いじゃないかも」




オルディナは腕を組み、どこか誇らしげに微笑む。




「ここが、私たちの次の舞台。忘れかけた“記憶”と、“鍵”が待つ場所」




アクシオンの声は静かだが、確かな決意が宿っていた。




汽車はゆっくりと、トゥリムの街へと差し掛かる。




草原を駆ける羊の群れ、朝市に向かう人々、石畳の道、そして、丘の上の城。




まどろみの夢は終わり、目覚めのときが、確かに近づいていた。




そして、三人の胸には、確かに響いていた。




──金羊の輝きのもと、失われたものを取り戻す旅が、また一歩、始まろうとしている。



ーーつづく

ここまで読んでいただきありがとうございます✨

ブックマークで追ってもらえると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ