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三姉妹とリユニエの星環  作者: ケミパパ
第2章 月華に失われし記憶

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Ⅹ.青碧の約束、羊の都へ

※世界観の補足や設定まとめはnoteにあります(プロフィールから)

24.



地下室に差し込む光が、次第に広がっていく。


純白の毛並みに淡く輝くツキハネが、ぽつんと佇んでいた。その小さな身体に、かつての透明な青碧のルミナが、微かに揺れている。


「ツキハネ……」


ロゴスが駆け寄り、膝をつくと、ツキハネもふわりと飛び上がり、彼女の胸元に小さな体を預けた。


『……ごめんね、ロゴス。また、あなたを困らせた』


その言葉に、ロゴスはかぶりを振った。


「困ってなんかない。ただ……あなたが無事でよかった」


そのとき、階段の方から聞き慣れた声が響いた。


「やっぱり、無事だったわね!」


「ロゴス、モナ、やったのね!」


礼拝堂の地下へ、オルディナとアクシオンが駆け込んできた。二人の身なりはボロボロで、シスターとの激戦の爪痕が色濃く残っていた。


だが、その背後から差し込む礼拝堂の光は、すでに穏やかで──闇は、もう消えていた。


「……ツキハネも、戻ったのね」


アクシオンが微笑む。


オルディナはツキハネを見下ろし、小さく頷いた。


「ルミナも、もう問題ない?」


ツキハネは、ロゴスの腕の中からそっと降り立つと、オルディナに向けて、わずかに揺れる声で言った。


『うん……ありがとう、みんな……』


そして、ツキハネは視線をロゴスへ戻した。


『でも、ロゴス、今回は……あなたとじゃないんだよね』


ロゴスは微笑んで頷く。


「ええ。ルナエールの未来は、モナに託したいの」


ツキハネは一歩、ロゴスから離れ、モナの前に静かに進み出た。


『モナ、あなたは……私と契約し、この街と共に歩んでくれる?』


「もちろんです」


モナは跪き、胸に手を当てて、静かに誓った。


「精霊ツキハネ。このモナ、あなたと契約し、共にルナエールを護る《月華の記録者》として、ロゴス様とこの街に尽くすことを、ここに誓います」


その言葉と共に、ツキハネの身体から青碧の光があふれ、二人の間に輝く環が結ばれていく。


『ありがとう、モナ……これから、よろしくね』


ツキハネがそっと微笑み、モナに小さな前脚を差し出す。


『さあ、すぐに共同のお仕事よ。私の手を握って。あとは、わかっているよね?』


「はい、ツキハネ様」


モナはツキハネの手を優しく握り、静かに詠唱した。


「《月環幻暦・解除》」


二人の青碧のルミナが夜の帳を裂くように輝き、地下室全体を包み込んだ。


──その瞬間。


ルナエールの空に、青碧の光柱が立ち昇った。


静寂だった街が、ふと、息を吹き返したように揺らぎ始める。


閉ざされていた窓が、ひとつ、またひとつと開き──


呻き声、戸惑い、そして次第に、目覚めた人々のざわめきが広がっていった。


長い夜が、終わったのだ。



25.



街の上空に立ち昇った青碧の光柱は、まるで夜明けを告げる鐘の音のように、ルナエール全体を包み込んでいった。


教会内を巡回していた修道士やシスターたちはいつの間にか姿を消していた。あれすらも、教祖の幻術の残滓だったのだろう。


だが、あの“白いシスター”

──影の者の使徒だけは、確かに存在していた。


この地に潜む異端と、影の勢力。その一端が明るみに出たのだった。


教会の扉が開かれ、まばゆい朝日が差し込む。


洗脳にかかっていた市民たちが、ひとり、またひとりと目を覚まし、戸惑いと安堵が入り混じった声が、街のあちこちから響き始める。


「ここは……?」


「私は、いったい……」


月華教団の旗は、すでにその光を失い、代わりに、古き良きルナエールの象徴──青碧の紋章が、街に戻りつつあった。


ツキハネとモナの契約により、ルナエールを覆っていた《月環幻暦》──幻術と洗脳の結界は、完全に解除されたのだ。


やがて、ルナエール中央図書館から、重厚な鐘の音が街に響き渡る。


それは、街の知と誇りを象徴する音だった。


教会前の広場に、見覚えのある人物がゆっくりと歩み出てくる。


銀灰の髪を後ろで束ね、簡素ながら気品を纏った長衣。


青碧の刺繍が施されたその衣には、知の守護者を象徴する《双輪の紋章》が輝いている。


ルナエール学術院、最高責任者──学院議長セレノ・アークライト


その姿を見た市民たちは、自然と膝をつき、静かに頭を垂れた。


「……学院議長様が、直接……」


セレノは静かに人々を見渡し、穏やかな声を発した。


「民よ、安心なさい。今宵を覆っていた虚構の霧は、完全に晴れた」


「これは、ツキハネ様、そして勇敢なる賢者たちの力あってこその勝利だ」


そう言うと、セレノは三姉妹とツキハネ、モナに歩み寄り、ゆっくりと右手を掲げる。


「モナ。精霊ツキハネと正式に結びし《月華の記録者》として、私は貴女をここに認め、祝福する」


「また、ロゴス、オルディナ、アクシオン。貴女方三姉妹の働きに、ルナエール学術院を代表して、深く感謝を捧げます。ありがとう。」


モナは驚き、戸惑いながらも深く頭を下げた。


ロゴスもまた、礼儀正しく微笑みを返す。


「……ありがとうございます、学院議長様」


セレノは僅かに微笑み、群衆を振り返った。


「この街は、知と記録と自由の都だ。中央の影に屈することなく、これからも皆で歩んでいこう。共に」


拍手が、ざわめきが、次第に祝福の熱を帯びて広がっていく。


冷え切っていた街が、ようやく本来の温もりを取り戻したのだった。


 

26.


 

ルナエールの宿屋《月光の庭》は、古書と石造りの落ち着いた佇まいが特徴の老舗だった。そのカウンターバーで、オルディナたちはようやく、安堵と静けさを取り戻していた。


テーブルに並ぶのは、ルナエール名物の「ブルーラーテ」。青碧色の層が輝き、ほのかにミントと柑橘が香る幻想的なカクテルラテである。


「……久しぶりに、ゆっくりできるわね」


オルディナが、グラスを傾けながら微笑んだ。


「ルナエールの人たちも、だいぶ安心したみたいだしね」

ロゴスはカウンター越しに街の灯りを見つめながら続ける。


「もっとも、モナは相変わらず大忙しだけど」


「……あぁ、《月華の記録者》として、そして《大司書》としての務め、か」


アクシオンが小さく笑う。


「集団睡眠にかかってたとき、図書館の蔵書も幻術で書き換えられてたみたいだけど、今は元に戻ってる。けど……中身が本当に正常か、図書館の司書たちが総出で確認してるんだって」


「モナが、その指揮を?」


「ええ。それに……ツキハネも、ね」


オルディナが目を丸くした。


「精霊が、人間の仕事を?」


「学者気質のツキハネらしいわよ。本とこの街を、本気で愛してるの」


アクシオンの声に、静かな敬意が滲んでいた。


そこへ、背後から柔らかな声がかかる。


「──ここにおられましたか、三姉妹の方々」


振り返ると、セレノ学院議長が立っていた。手には新聞が折りたたまれている。


「議長様?」


アクシオンが問いかけると、議長は微笑みつつ隣に腰掛け、マスターに「この方々と同じものを」と注文を入れる。


「まず、はっきり申し上げましょう。七ヶ月前、あなた方が王国の“神器の定期調整”と銘打った儀式を最後に姿を消した件──私は、あなた方がこの地を裏切ったとは、微塵も思っていませんでした」


三姉妹は、静かに頷いた。


議長の目が鋭く光る。


「リユニエ王国は、焦っています。各地の声を無視して、中央集権と十二精霊の一元管理を強行。『裏切りの三姉妹』というレッテルを使って民心を揺さぶり……だが、結果は逆です」


議長は新聞を広げた。


《青月日報》──ルナエール最大の新聞の、誇り高い紋章が紙面に刻まれている。


「あなた方が築いてきた平和と信頼は、王国の浅はかな策を凌駕しました。民も、精霊も、まだ……希望を捨ててはいません」


三姉妹の胸に、じんわりと熱いものが広がった。


「ありがとうございます、議長様。私たちも、その声に応えるため、各地を巡るつもりです」


議長は頷き、広げた新聞を指差す。


【号外】

 星環大展覧会エクスポジション・デ・ザノー・ステレール開催正式決定

 豊穣と信仰の象徴、羊のトゥリムにてアマリリス女王、凱旋ご臨席

 リユニエ各国および関係都市の文化・精霊文明を世界へ発信する国際博覧会「星環大展覧会エクスポジション・デ・ザノー・ステレール」が、トゥリムにて開催決定。

 王国広報省は、同展覧会を統一文化政策の一環と位置付け、各国王公・賢者・精霊代表者の公式訪問を予定。さらに、アマリリス女王陛下の公式凱旋および開幕式典へのご臨席が正式に確認された。開催期間、展示内容、交通規制、治安措置等の詳細は続報を待たれたい。


 青月日報



「……アマリリス、トゥリムに来るのね」


オルディナが低く呟く。


「トゥリムは、ノアグリフ地区の一角に位置する、南部の草原が広がる羊の郷よ。トゥリム城の背後から昇る朝日は、まるで金毛の精霊そのものだわ」


アクシオンが目を細める。


「羊の精霊、確か《ソレーユ》……」


「ええ。金色の毛並みに包まれた、豊穣の守護者」


議長が静かに付け加える。


「トゥリムへはここ、ルナエールから汽車が通っています。行かれるなら、便利でしょう。ただ……お気をつけを」


「……警戒、ですね」


ロゴスが真剣な面持ちで頷く。


議長は鋭い視線を三人に向けた。


「この大展覧会は、羊の皮を被った“罠”の気配がする。リユニエ王国の本心が見えない以上、慎重に動くべきです」


オルディナが拳を握りしめる。


「行って、直接聞いてみるわ。アマリリスに」


「無謀はやめて。私たちはまだ、追われる身と変わらない立場よ」


アクシオンが窘める。


ロゴスが静かに結論を下した。


「まずは、トゥリムへ向かいましょう。情報を集めて、アマリリスの“真意”を確かめるために」


青碧のラーテが、淡く揺れた。


新たな戦いと邂逅への汽笛が、もうすぐ鳴り響こうとしていた。



27.



翌朝、ルナエールの空は淡い青碧に染まり、雲の合間から柔らかな朝日が差し込んでいた。


ルナエール中央駅──街の外れにある、古びた石造りの駅舎のホームには、長距離汽車がゆっくりと蒸気を吐きながら停まっている。


「もう行く時間、ですね」


モナが、名残惜しそうにロゴスたちを見つめた。肩には小さなツキハネがちょこんと乗っている。


「うん……次はトゥリム、羊の都」


オルディナが大きな荷物を背負い、振り返る。


「……大丈夫、ルナエールは、私たちに任せてください。」


モナの言葉に、アクシオンは微笑んだ。


「頼もしい《月華の記録者》と、その相棒がいるものね」


ツキハネは胸を張り、ふわりと尻尾を揺らす。


『モナは優秀だからね。私も全力でサポートするよ』


「ありがとう、ツキハネ」


ロゴスはふと、ツキハネと視線を合わせると、冗談めかして言った。


「あなた、本当に精霊? もう、ルナエールの学者か司書にしか見えないわ」


『学びは好きだけど、ちゃんと精霊だよ!!』


くすりと笑い合う一同。


ふいに汽笛が響いた。発車まで、あとわずか。


「ロゴス様、オルディナ様、アクシオン様──」


モナが、まっすぐな目で三人を見つめる。


「必ず、無事に戻ってきてください。そして、また……この街で、会いましょう」


「……約束するわ」


ロゴスが力強く頷くと、ツキハネも、ぽんっとモナの肩から飛び降り、三姉妹の方へ駆け寄った。


『……ありがとう、三人とも。本当に、ありがとう』


そして、ツキハネはそっとオルディナの手にふわりと触れた。


「……うん、私たち、もう“孤独”じゃないから」


オルディナが微笑む。


ツキハネは最後に、アクシオンの方を見上げ、静かに頷いた。


「気をつけて」


「そっちもね」


三姉妹が乗り込むと、汽車はゆっくりと動き出す。


モナとツキハネは、ホームから手を振った。


離れていくルナエールの街。駅舎の向こう、図書館の塔が、朝日を浴びて青碧に輝いている。


オルディナたちは、次なる地──トゥリムへ向けて、静かに旅立った。


街と、精霊と、つながりを胸に抱いて──。



──第2章 完。

ここまで読んでいただきありがとうございます✨

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