Ⅷ.紅蓮を越えし深紅
※世界観の補足や設定まとめはnoteにあります(プロフィールから)
19.
礼拝堂は、邪悪なルミナにより深い闇と冷気に包まれていた。
「く……アク姉……」
意識を失い倒れた姉の元へ駆け寄りたい。しかし、宙に磔にされたオルディナは、己の紅蓮のルミナで黒炎の進行を食い止めるのに精一杯だった。
──その時、シスターが初めて、理解できる言葉を発した。
『この状況で、他人の心配とは……つくづく、お前たち人間は滑稽だな』
その声は、悪魔そのものだった。冷たく、ぞっとする不気味さに満ちている。
『安心しろ。お前を焼き尽くしたら、あの女も同じ目に遭わせてやる。すぐに“あの世”で再会できるさ』
「くそっ……」
内心焦りながらも、オルディナは諦めていなかった。そんなとき──
「オル姐!!聞こえる!?」
突然、頭の中に懐かしい声が響く。
「ラオ……!?」
辺りを見回すが、そこにいるのはシスターと倒れた姉だけだ。それでも確かに、声は聞こえた。
「ルミナを通して話してるんだよ!オル姐と私、生命のルミナで繋がってるから!」
ザンブロスで共に戦った《炎の環の守護者》ラオの声だ。そして、もう一つ──
『おぬしらしくもない、オルディナよ。珍しくやられておるのう』
猪の精霊・イグニファの声音も重なった。
「……そうね、今回はさすがに洒落にならないわ」
「オル姐、大丈夫!私たちの力を送るから、今度こそアイツをぶっ飛ばして!」
『心して受け取れ。わらわたちの“つながりの力”を──』
オルディナの胸元から、眩い深紅のルミナがあふれ出す。身体を包み込むその輝きは、スピネルのように紅く、強く、美しかった。
『な、なに……!?』
シスターが狼狽し、赤い双眼を光らせ黒炎を勢いづける。
だが──
「はぁっ!!」
オルディナが手を払うと、深紅のルミナが爆発的に広がり、黒炎をかき消した。
拘束が解け、オルディナは地へと舞い降りた。
『小癪な……!』
シスターが呻いたその瞬間、オルディナが呟く。
「落ちろ。《深紅ノ裁》」
頭上に八本の深紅の護封剣が現れ、円環を描きながらシスターの両翼を貫く。
「ぎゃあああああっ!!」
シスターは悲鳴を上げ、地へ墜落する。
「お返しよ──燃えなさい」
オルディナが囁くと、護封剣の刺さった両翼から深紅の炎が噴き出し、シスターを焼き尽くす。
『いぎぃやああああああああ!!』
シスターはのたうち回るが、炎は止まらない。
『オルディナよ、決めるのだ』
イグニファが告げた。
「ラオ、イグニファ──あなたたちのルミナ、ちょっと借りるわ」
オルディナの全身がさらに深紅に輝き、目はスピネルのように燃える。
「《命門・紅耀》!」
深紅のルミナが全開放され、力が爆発的に高まる。
「いくわよ……」
シスターが赤い目を光らせ衝撃波を放とうとするも──
「《ルミナ・レクイエム──巫女の遮手》!」
意識を取り戻したアクシオンが紫紺のルミナを放ち、衝撃波を遮断する。
『なにっ!?』
その隙に、オルディナが一瞬で間合いを詰め、手をシスターの腹に添える。
「終わりよ。《深紅ノ断罪》」
掌から衝撃が迸り、同時にシスターの背後に深紅刃のごときエネルギーが炸裂する。
『ば、ばかな……にんげんごときに……』
シスターの身体が崩れ落ち、音もなく消え去った。そこには修道服だけが残った。
「ふぅ……危なかったぁ……」
オルディナはその場に座り込んだ。
「お疲れさま、オルディナ」
ふらつきながら、アクシオンが隣に腰を下ろす。
「アク姉、大丈夫?」
「何とかね。でも……ロゴスたちの加勢は無理かも」
「大丈夫だよ、あの二人なら……少し休んだら、私も向かうよ」
「無理しないでね。でも……その深紅のルミナ、ラオとイグニファの……?」
「うん、二人が力を貸してくれたの」
「“つながりの力”、か……」アクシオンが静かに呟いた。
歪んだ礼拝堂に、静かに安堵の空気が満ちた──。
だが、その安堵の中にも、消えきらぬ痛みと、胸の奥に残る重たい感覚が、微かに漂っていた。
20.
ふと、オルディナは自分の胸元に視線を落とした。まだ、そこに宿る深紅のルミナのぬくもりが、かすかに揺れている。それは戦いの余韻だけではなかった。
「ねぇ、アク姉……」
その声は、どこか弱さと戸惑いを含んでいた。「私……ちょっと、泣きそうだった」
アクシオンがわずかに目を細める。
「……ラオと、イグニファと、あんな風に繋がれたとき……」
オルディナの声は、微かに震えていた。
「私たちって……ずっと、全部を、自分たち三人で背負うしかないって……そう思ってたよね」
アクシオンは静かに頷く。
「私も、ロゴスも、あなたも……“三姉妹”っていう肩書きのせいで、知らないうちに、誰にも頼れなくなってた」
アクシオンの表情に、苦笑が滲む。
「本当はずっと……怖かったのに」
「うん」
オルディナの目に、熱いものが滲む。
「でもね、ラオたちと繋がって……気づいたんだ。私たち、もう“孤独”じゃない」
彼女は強く拳を握った。
「私たちのルミナは、みんなのルミナと重なってる。誰かに頼っても、任せても、いいんだよね」
アクシオンも、そっと微笑んだ。
「……だから、怖いけど、少しだけ安心できたの」
彼女は窓の外を見やった。
「私たちの街や精霊たちを、ひとりで守らなくていい。任せられる人がいる。信じられる絆がある」
「中央とは違う、“つながりの輪”の世界」
オルディナが、まっすぐアクシオンを見つめる。
「誰かが頂点で全部を決めて、押しつけて、犠牲を強いるやり方じゃなくて、みんなで支え合う輪……きっと、それが、私たちの戦いの本当の意味なんだ」
アクシオンは、その言葉を噛みしめるように目を伏せた後、静かに言った。
「……その輪を、私たちで広げていこう。精霊も、賢者も、人間も……みんなで」
彼女は、ふっと微笑み、言葉を重ねた。
「そのためにも、ロゴスを助けなきゃね」
オルディナは大きく頷き、固く拳を握りしめた。「うん、絶対に」
二人の間に、確かな決意と、静かな温かさが広がった。
歪んだ礼拝堂に、再び、未来への小さな光が灯った──。
--つづく
ここまで読んでいただきありがとうございます✨
ブックマークで追ってもらえると励みになります!




