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三姉妹とリユニエの星環  作者: ケミパパ
第2章 月華に失われし記憶

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Ⅶ.月華の霧

※世界観の補足や設定まとめはnoteにあります(プロフィールから)

16.


礼拝堂の隠し扉を抜けると、地下へと続く、冷たい石造りの階段が現れた。


狭く湿った空気の中、ロゴスとモナは警戒を解かず、静かに階段を下りていく。


やがて、階段の先に──重厚な、厳かな扉がひとつだけ佇んでいた。


扉には、奇妙なことに鍵も魔方陣も施されていない。まるで、招き入れるかのように、不気味な静寂だけが満ちていた。


互いに視線を交わし、ロゴスが慎重に扉へと手を伸ばす。


冷たい石扉が、重々しい音もなく静かに開いた。


──その瞬間、目の前に、信じがたい光景が広がった。


青白い燐光が、ゆらゆらと漂う広大な地下室。


天井は高く、石壁には古代の魔法刻印がかすかに浮かび、冷気とともに、どこか異様な気配が満ちていた。


その中央に据えられた、巨大なカプセル型の装置。


中には、精霊ツキハネが、薄青い液体に浸された状態で囚われていた。


カプセルの外側には、無数の管が絡みついている。


その一部は不気味な黒紫色に染まり、闇のルミナが絶え間なく注ぎ込まれていた。


さらに、カプセルの上部からは、青碧のルミナと黒紫のルミナが混じり合った不気味な液体が、ゆっくりと抽出されている。


その混合されたルミナは別の装置へと運ばれ、そこに備えられた透明の貯蔵槽で攪拌された後──


また別の管を通じて、蒸発装置のような機構へと流れていく。


そこから伸びる太い配管は、地下室の天井を突き抜け、礼拝堂の上空へと続いていた。


おそらく、この配管は教会の屋根、あるいは尖塔を経て、街全体へと“霧”のように邪悪なルミナを滲ませているのだろう。


知らぬ間に、人々の夢と理性を侵食する、静かな毒霧として。


この仕組みこそ、ツキハネの《月環幻暦げっかんげんれき》──時間と幻覚を操る大幻術を基に、黒紫のルミナを混ぜ合わせて作り出された、集団睡眠と洗脳の装置。


ロゴスは瞬時にそう理解し、端的にモナへと伝えた。


「まさか……教会の地下にこんなものが……ツキハネ様を《媒介》に、なんてことを……」


モナは悲痛な声をあげた。


「ツキハネを救出しよう。この装置を停止する制御盤のようなものがあるはずよ」


ロゴスは青碧眼の《オラクル・アイ》を発動し、装置全体を鋭くスキャンし始めた。


その時──


「ふふ、さすがですな……」


背後から、乾いた拍手と共に、冷ややかな声が響いた。


振り返ると、そこに──


銀白の法衣を纏い、顔の上半分を白磁の仮面で覆った人物が、静かに佇んでいた。


仮面の下、唯一露出した口元には、不自然な微笑が張りついている。


その背後には、月光を模した巨大な輪──まるで異質な月の残像、あるいはこの世ならぬ次元の入口のような光輪が、ぼんやりと揺らめいていた。


「三姉妹の賢者、ロゴス殿。素晴らしい理解力だ……実に誇らしい」


月光を浴びながら、教祖はゆっくりと歩み寄ってくる。


その笑みの裏に隠された、底知れぬ邪悪を滲ませながら──。



17.



「三姉妹の賢者、ロゴス殿。素晴らしい理解力だ……実に誇らしい」


銀白の法衣をまとい、仮面の奥から静かに笑む教祖が、月光に照らされながら、ゆっくりと歩み寄ってくる。その笑みの奥底に滲むものは、誇りではない。底知れぬ邪悪と、冷えきった優越感だ。


「精霊ツキハネとの、感動的な再会を果たせましたかな?ロゴス殿。そして──あなたは……たしか、中央図書館の司書のお嬢さんでしたな」


「モナよ。ツキハネ様を今すぐ、この《最低》な装置から解放しなさい!」


珍しく声を荒らげるモナ。その青碧の瞳が怒りと涙に濡れていた。


「最低、とは……」

教祖は肩をすくめ、笑い声を漏らす。

「偉大なるルナエールの司書にして、その程度の理解力とは。残念ですな」

指先で、黒紫の配管を示す。


「あの“お方”に認められし女王アマリリス陛下の叡智、精霊ツキハネの知力と霊力、その全てを余すことなく注ぎ込んだ結晶──《月華之霧げっかのきり》の美しさを、あなた方はまだ、理解していない」


「ふざけないで!!」


モナが叫び、抜き放った双剣の片方を握りしめたまま、教祖に飛びかかろうとする。


「挑発に乗らないで、モナ」


冷静な声で、ロゴスが制する。その声は静かだが、内には冷徹な怒りが滲んでいた。


「挑発など?私は、ただ事実を語っているまで」

教祖は薄笑いを浮かべたまま、目を細める。

「ロゴス殿ほどの者ならば、この装置の意義と完成度を理解できるはずだ。そうでしょう?」


「悪いけど、私にはただの悪趣味なガラクタにしか見えない」

ロゴスは吐き捨てるように言い、睨み据えた。「こんなもの、今すぐ片付けてあげるわ」


「……ガラクタ、ですと?」


教祖の口元から、ゆっくりと笑みが消える。その代わりに、静かな殺意が満ちていく。


「どうやら、これ以上言葉を交わしても、平行線のようだ」

教祖は一歩踏み出し、不穏な月光が背後の光輪を強く照らす。

「ならば──あなたも、姉上方の後を追っていただこう」


沈黙が走る。


「ロゴス様……」

モナが、かすれた声で問いかける。

「礼拝堂の方面から、強大な禍々しいルミナを感じます。お二人は、大丈夫なのでしょうか……」


ロゴスは目を閉じ、静かにルミナの気配を探る。


「まだ、二人のルミナは確かに感じ取れる。でも、正直──良くない状況ね」

青碧の瞳が鋭く細められる。

「シスターのルミナ……常軌を逸してる。あれはもう、この世界の理では説明がつかない。《影の者》の次元から来た、異質な存在よ」


「その通り、さすがはロゴス殿ですな」

教祖がくぐもった声で言う。

「ただ、一つだけ誤算があった。それは──あなた方が、ふた手に分かれたことだ」


教祖の口元が、またしても不気味に歪む。


「三姉妹が揃っていれば、僅かな勝機もあったかもしれません。しかし、今ごろ紅蓮のお嬢さんは焼かれていることでしょう。紫紺の姉君も、時間の問題だ。ははは……まったく、計画通りとは、このことを──」


その言葉を言い終わるより早く、教祖の頬に血が滲んだ。


「ぐ……っ!?」


いつの間にかモナが間合いを詰め、双剣の片方──ダガー型の刃を教祖の顔面に斬りつけていた。


「あなたのことは、絶対に許さない!」


怒りと悲しみが入り混じった声と共に、モナの青碧の瞳から涙が流れる。


こいつ……まさか、あの三女と同じ系統のルミナを……


教祖の思考が一瞬揺らぐ。


空間ごと記録し、歪みを読み取る……“ジルコンの刻印”か……厄介な能力だな


「モナ!!」ロゴスの叫びが響く。


「見た目によらず大胆なお嬢さんだ。しかし、これしきで満足なさらぬことだ」


教祖の傷口が、黒紫のルミナに包まれ、瞬時に修復されていく。


「モナ、落ち着いて!」

ロゴスが鋭く言い放つ。

「奴はもう幻術を展開してる。そこにいるのは、本体じゃない!」


怒りに飲まれかけていたモナは、深く息を吸い、震える呼吸を整えた。


「……申し訳ございません、ロゴス様。わたくしとしたことが」


「大丈夫よ。あなたの気持ち、痛いほどわかる。私だって、同じよ」


教祖は、不敵な笑みを張りつけたまま、じっとロゴスを見据えた。


「さて、どうするおつもりで? 三姉妹の賢者といえど、幻術を見破れる保証は……」


「私の眼を、なめないで」


ロゴスの青碧の瞳が強く輝き、次の瞬間──


「《オラクル・アイ》」


一陣の光が地下室を駆け抜け、ツキハネを囚えた装置を包む邪悪なルミナが、吹き飛ぶように消し飛んだ。幻術の層が剥がれ落ち、装置の前に、教祖の本体が静かに現れる。


「もう、幻術は通じないわ」


ロゴスは冷たく言い放った。



18.



「そのようですな……ふふ、これは私にとっても想定外でした。しかし、想定外があるからこそ、この世界は美しい……そうは思いませんかな?」


教祖の笑みが深まった、その刹那。


「だが、それはあなた方にも言えることだ」


不気味な囁きと共に、教祖の背後で異音が響いた。


──ゴウン、ゴウン──


ツキハネが囚われていた巨大なカプセルの蓋が、ゆっくりと開いていく。


同時に、黒紫と青碧が混ざり合った不気味な液体が、カプセルの縁を越え、教祖の頭上から降り注いだ。


闇色の雫が、彼の銀白の法衣を汚し、その身体ごと包み込んでいく。


「まさか……自らを、“器”にするつもり……?」


ロゴスが息を呑む。


黒紫のルミナと、ツキハネの青碧のルミナが絡み合い、地下室の空間が不吉に脈動する。


──ズシン、と地響き。


その中心から、闇が弾け飛び、そこに現れたのは──


巨大な“ウサギ”のような、だが、決して愛らしさを感じさせぬ異形の存在だった。


耳は異様に長く尖り、身体は部屋を埋め尽くすほど肥大化し、毛皮のように見えた表面は、液体とルミナが混ざり合った不気味な紋様で覆われている。


その額には、ロゴスとモナが持つものと同じ、青碧色の“第三の目”が輝き、しかし、その瞳には黒紫の螺旋が刻まれていた。


『ぐふふふふ……これで私も、あなたたちと同じ、いや、それ以上の力を得た……』


異形の口から響く声は、教祖のものと完全に重なっていた。


『ツキハネの知力と霊力、黒紫のルミナ、そして我が意志……この《融合》こそが、月華に選ばれし者の進化の形だ。ここからが“本番”だ、愛しき賢者殿』


モナが、わずかに震えた声で叫ぶ。


「ロゴス様……ツキハネ様を、一刻も早く、あの化け物から救いましょう……」


その声には、恐怖と、しかし揺るぎない意思が宿っていた。


ロゴスは、そっとモナの手を握り返す。


その手は、確かに震えていたが、決して逃げようとはしていない。


「ええ、必ず──」


青碧の双眸が、さらに深く輝きを増していく。


「私たちで、ツキハネも、この街も、必ず救いましょう」


その決意と共に、ロゴスの眼差しは、異形へと鋭く向けられた。


──地下室に、再び静寂が満ちる。


だが、それは、戦いの前の、一瞬の静寂だった。


つづく──

ここまで読んでいただきありがとうございます✨

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