シフォンケーキ 1
すみません、遅刻しました。
そして今更ながらですがこの世界の説明回です。
2回に分けようと思います。
「えー!? 嘘だあ!?」
突然の大声に何人かがこちらを見る。大声を出した本人──イリーナは恥ずかしそうに咳払いをしごまかすと、カズヤに聞こえるくらいの声量で話す。
「本当なの? この国のこと何も知らないなんて」
「この国に住むまでは旅をしていたからってのもあるけど、歴史とか地理とかなにも……」
「意外。こんなに美味しい料理を作るから知識は豊富なのかと思ってた」
「はは、そう言って貰えて嬉しいけど、人間誰しも完璧なわけじゃないだろ? 俺だって分からないことはあるよ」
「それはそうだけど……でもなんで私に?」
あの日からイリーナは時間さえあれば店に足を運んでいる常連だ。初めは敬語を使っていた彼女も、気を許したのかかなり砕けた口調になっている。カズヤは空いたグラスに水を注ぎながら理由を話した。
「教師を目指してるなら練習台にぴったりじゃないかと思って」
「……確認のために聞くけど、本当に何も知らないのよね?」
「ああ」
肯定するとイリーナの瞳はやる気に満ちたように爛々と輝く。
「いいね、教えがいがありそう。いつからやる?」
「いつでも構わないよ」
「なら明日とかはどう?店もおやすみだしちょうどいいんじゃない?」
「じゃあそれでお願いしようかな。明日からよろしく頼むよ、先生」
「へへ、マスターに先生って言われるのちょっと照れるかも。こちらこそよろしくお願いします」
明日の準備するから今日は帰るね、とイリーナは代金をカウンターに置き店を出る。頼られて嬉しいのだろう。彼女から花が舞っているような気がした。
「マスターおはよう!」
「おはようさん。今日からよろしくな」
「こんにちはお姉さん」
「あれ、エレインもいるの? 学校は?」
「今日は休み。何枚か絵を描き終えたから見せようと思って来たんだ」
「え、もう描いたの? 早いね」
「へへ、筆が進んだから」
「エレインの絵は休憩時間にでも見よう。それじゃ先生、ご教授のほどお願いします」
「先生? お姉さん先生になったの?」
「マスター専属のね」
資料を広げながらイリーナは得意げに言う。広げられたそれらを、エレインは不思議そうに見ている。
「国の地図?」
「マスターにこの国のことを教えるの」
「だから先生って呼んだんだね」
「ああ」
「それじゃ授業をはじめよっか。エレインは絵を描いててもいいよ」
「僕も復習兼ねて聞くよ」
「いい子〜! お姉さん頑張っちゃうもんね! んん、それじゃまずこの国の名前からいこうかな」
そう言ってイリーナは鉛筆の先で地図をとんとん叩く。二人が視線を向ければ「カルディス」と記されていた。
「私達が住んでいる国はカルディス王国。王国の名の通り政治体制は王政。地図を見たらわかるけど沿岸国で漁業が盛んなのが特徴ね」
「結構大きい国なんだな」
「昔は今よりもう少し大きかったよ。140年前に隣国のメーレ帝国と小競り合いをしてから今の大きさに落ち着いたみたいだけど」
「へぇ」
「カルディス王国は信仰している宗教が主に二つあって。一つはこの世界を作ったと言われている女神マーシャを信仰している女神教。二つ目は海と音楽を司る男神トレモンを信仰しているトレモン教。この世界にはたくさんの神がいてその分宗教もあるけど、とりあえずこの二つを覚えてくれたらいいかな」
「沿岸国だから海を司る神様を祀ってるって感じだな。分かりやすいな」
「本当! わかりやすいなら良かった。カルディス王国は全部で五つの都市に分かれていて、一つは私たちがいる王都。皆は中央って言うかな。その北側に進んだところにあるのが商業都市アレイヤ。貿易港があるから世界中の商人たちがここに集まってくるよ」
イリーナの説明を聞きながらカズヤはノートにメモをする。学生時代を思い出し懐かしむ。彼女の説明は分かりやすく、何も知らないカズヤからしたら大助かりだった。
「……うおあああ! やっと書けた〜! こんなに文字を書いたの久しぶりだよ」
ノートを見返し、大きく伸びをしながらカズヤは言う。どんな風にまとめたんだろう。気になったエレインはノートを見るとわぁと感嘆な声を上げた。
「分かりやすいね」
「だろ〜? まとめるのは得意」
「どれどれ?」
イリーナがノートを覗き込む。今日習ったことが書かれていたノートはなかなか愉快だった。
面白い、続きが気になるという方は高評価、いいねをよろしくお願いします。
感想もいただけると嬉しいです!
また誤字を見つけ次第ご連絡下さい。すぐに修正いたします。