ミックスジュース 4
お久しぶりです。おまたせして申し訳ございません。実生活が忙しく、なかなか執筆ができませんでした。
今回から異世界喫茶は不定期更新になります。ご了承ください。
気長にこの物語を見守っていただけますと幸いです。
「あんたに手紙だよ」
母親から差し出された手紙をレントは黙って受け取る。あれから両親は、自身のことに口を出さなくなった。なんというか、少し寂しい。廊下に出れば静かで、レントの心情を示しているように見えた。手紙をポケットに入れ階段を下りていけば、いつもより活気がないように感じる。降りた先では父親がいつもと変わらず仕込みをしていた。挨拶をしようとして、口を閉ざす。レントは父の背中をじっと見つめたあと、その場を後にした。
「マスター!なんかいいもんない~?」
小さな鐘が鳴る。カズヤはやってきたレントに優しく微笑むと、席に促した。案内された席には、エレインとイリーナがいる。二人はレントが来たことにニヤニヤしながら彼を出迎えた。そんな二人の態度にレントは疑問に思いつつも、席に着いた。
「ねね、今日手紙届いたの?」
「手紙?」
「オーディションよオーディション!」
「……なんで二人が知ってるんだよ」
ニヤニヤしていた理由が分かりため息を吐いていると、二人は顔を見合わせながら言う。
「今日お兄さんと同じオーディション受けた人がここに来たの」
「その人は落ちたって言ってたからレントのことが気になって」
「要するに結果が知りたいと」
レントの言葉に二人はもちろんと言いたげに頷いた。無粋じゃないかとレントは思ったが、ここにいる三人には伝えたほうがいいと考えなおし、ポケットから手紙を取り出す。途端、二人の目が輝いた。
「これがその手紙?」
「結果は!?」
「今から見るから静かに」
なんで二人の方が楽しそうにしているのか。レントは結果を待っている二人に思いながら封を開く。一枚の便箋を取り出し、深呼吸してから勢いよく開いた。ビリ、と小さな音がしたが、レントの意識は目の前に書かれた言葉に向かっていた。
「ごう、かく?」
「えっ! ほんと!?」
「すごいじゃんレント! 何の役? やっぱり希望してたウィル?」
「いや……」
言いづらそうにしているレントに首を傾げる。手紙と天上の間を行ったり来たりしていた瞳が二人を捉えると、彼は小さな声で言った。
「……エキストラで合格した」
静かな空気が流れる。エレインとイリーナはなんと声を掛けたらいいのか分からずカズヤを見る。カズヤは拍手をして、嬉しそうに声を掛けた。
「合格するなんてすごいじゃないか」
「ありがとう。……でも俺、ほんとはウィルがやりたかったな」
小さく零すレントの肩をカズヤが優しく叩く。彼は顔を上げ、カズヤの顔を見つめた。
「悔しいかもしれないが、まずは夢に大きな一歩を踏み出せたんだ」
「……」
「今回は縁がなかっただけだ。次がある。その時が来るまで実力を身に着けないとな」
「……うん。ありがとう」
空気が柔らかくなったのを見て、様子を見ていた二人もレントに祝いの言葉を贈る。
「おめでとうお兄さん!」
「頑張ったじゃん」
「うるせー、さっきまでなんて言えばいいか分からなかったくせにー」
「誰だって言葉に悩むときはありますーだ!」
「そーだそーだ!」
「はいはい、今日はそういうことにしといてやるよ」
いつもの調子に戻った子供たちを見て、カズヤは微笑ましくなる。三人分のグラスにジュースを注ぎ、目の前に置く。淡い黄色のようで、乳白色ともつかないそれに三人は興味深そうに見つめたあと、カズヤに視線を向けた。
「ミックスジュース」
「ミックス?」
「飲めばわかるさ」
「ジュースなの?」
彼の言葉に真っ先反応したのがエレインだった。彼はグラスを手に取り、グラスを回しながらジュースを見つめたあと、ゆっくりと口に運ぶ。
「ん? んんー? んー?」
眉毛が悩まし気に動いたのを見て二人はエレインに質問した。
「どんな味?」
「甘いし美味しいんだけど、なんかたくさんの味がする?」
「どういうこと?」
「お姉さんたちも飲んだら分かるよ!」
飲んでとせがむエレインに言われ二人も口に運ぶ。甘い。確かにエレインの言う通り甘いのだが、少し苦さもある。舌触りも独特だ。まるでいろいろなものをすりつぶしたようなざらざら感。味に既視感はあるのにピンとこない。だが美味しい。答えが浮かばず降参と言わんばかりに手を上げた三人にカズヤはひとしきり笑ったあと、カウンターに材料を置いた。
「バナナとオレンジに……りんご?」
「牛乳もあるよ」
「あっ、ミックスってそういう!」
「そういうこと」
「美味しいけど、変な感じ」
「でも美味しいだろ?」
「まあね」
笑顔で答えるエレインの頭を撫で、カズヤは材料たちを片付けるために屈む。すぐにカウンターから顔を出し、レントを見て言った。
「で、聞きたいことは?」
「これを出した理由」
「簡単だよ。腐らずやっていけ。それだけ」
「……ふーん」
そっぽを向く彼の耳は赤い。カズヤは彼の青さにかつての自分を思い出し、小さく笑ったあと、カウンターから立ち上がる。
「……ありがとう。マスター」
「どういたしまして」
二人にしかわからない会話を、エレインとイリーナは不思議そうに見つめていた。
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