カルボナーラ 2
夜、レントは両親の元に向かう。足取りが重い。両親になんて言われるか分からない不安がレントの心を満たす。なんて言われるのだろう、両親がいる部屋に続く扉に手をかける。このまま逃げ出して夢だった、ということにしたい。だが話をすると決めたのは自分だ。息を吐き、手に力を入れる。
扉を開ければ両親が椅子に座っていた。鼓動が痛い。レントは緊張した顔で席に着くと、両親を見つめた。
「話ってなんだ」
父の声は固い。レントはこの声が嫌いだった。圧を感じるからだ。父はただ話しているだけだろうが、話を聞く立場になると畏怖してしまう。息子である自身がそうなのだから、他の人はさらに恐怖してしまうに違いない。視線を逸らしかけたが、父に咎められ戻す。こちらを見つめる父の目はなにを考えているか分からない。
「実は」
「ああ」
「その、さ……」
沈黙が痛い。言いたいことをまとめておいたのに、出てくるのは息ばかり。口を開いては閉じる姿を見て、父はため息を吐いた。
「話があると思って来てみたら、なんだその態度は。お前そんなんじゃ立派な大人にはなれないぞ。だいたいお前は……」
また始まった。レントは心の中でため息を吐く。いつもそうだ。父は頑固で気が短いのか、こちらの様子を見ずに会話の主導権を持っていく。そのためいつもレントは言いたいことが言えない。母も父に賛同しているのか、父の言葉に頷いてばかり。辟易しているこちらの様子に見向きもしない両親に呆れたことで少し余裕ができたのか、レントはあのさ、と声を掛ける。
「俺の話聞いてくんない?」
「またお前は……」
「いいから、聞いてよ」
レントの空気が変わったことに気づいたのか、父は不服ながらも黙り込んだ。今言わないと絶対後悔する。握りしめたこぶしを開き、レントは言った。
「俺さ、役者になりたいんだ」
その言葉に母親は目を開き、父はぎろりとレントを睨んだ。
「お前、自分が何を言っているのか分かってるのか?」
「分かって……」
「なんも分かってない!」
父親の怒号に肩が跳ねる。隣にいた母親も驚いて父を見つめるが、彼はレントをじっと睨みながら会話の主導権を奪った。
「いいか。大人はな、ちゃんとした生活を送るのが正解だ。安定した生活を送らんと生きていけないんだぞ。役者なんてちゃらちゃらしたものになるなんて俺は許さん!」
「そんなの、やってみないと分からんじゃねえか!」
「有名になれるなら誰だってするわ!」
父の言葉にレントは黙り込んだ。父親の言っていることは分かる。確かに厳しい道ではある。だがレントは諦めたくなかった。
「……いつも思ってたけどさ。なんで夢を追いかけたらいけないの?」
「そりゃお前、安定した」
「そうじゃなくて! 安定した生活とか関係なく、なんで夢を追うこと自体がだめなんだよ! 役者をやりながら生活を送ることだってできるじゃん! なんで俺だけこの宿を継いでいくために、諦めないといけないんだよ!」
母親はおろおろしながらレントの叫びを聞き、父親は怒りのあまり机を叩いた。ドン、と大きな音がひりついた空気に響く。
「いい加減にしろ! お前が夢を持ったところで結果は変わらないんだ! だったらお前が悲しまないようにこっちが導いているんだ」
「……そんなことしてくれって誰が頼んだんだよ!」
父親を睨みつけ、レントは言った。勢いよく立ち上がったからか、椅子が大きな音を立てて崩れ落ちた。
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