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ガトーショコラ 2

お待たせいたしました。本編再開です。

「『相変わらず元気だねリュカ』」

「『だって今日は戴冠式だよ! ずっと楽しみにしてたんだ! だって王家の冠って……』」

「『はいはい、その話はまた後でね』」


 淡々と会話が続いていく。レントは手ごたえを感じず一人焦っていた。浮いている。レントが二人と演じて思ったことはそれだった。読み上げるセリフも棒読みで、感情が分からない。二人に視線を向ければ、彼らはなにも言わずただただ確認をしているだけ。


 どうしよう、レントは場違いなところに来てしまったことに気づく。河原で練習していたが、結局は自己満足だと言うことが分かってしまい、顔から火が出そうだ。


「次」


 スタッフに呼ばれ三人はヴィクトリアの元に向かう。レントは緊張で考える余裕を失っていた。このままではまずい。彼女がここにいるのに、早くなる鼓動に意識が向かってしまい、喉が渇く。息が上手くできない。黙っていると彼女は分かっていると言いたげに優雅に微笑み足を組んだ


「では台本読みをどうぞ」


 彼女の声が静かに響く。三人は台本を手に取り、セリフを読み始める。文字として認識できるのに、言葉の意味を捉えることができない。上手く言おうとしても出てくる感情は先ほどから変わっていない気がして、レントは正解が分からなくなった。その様子を彼女は黙って見つめている。碧い瞳がレントを射抜いているような気がして、気が気でない。あの時見た彼のように何も答えられないかもしれない。そう思うと憂鬱に思えた。質問された瞬間に頭がパンクして、しどろもどろになってしまう。台本を読み終え一気に静かになったというのに、緊迫感は消えてくれない。レントはヴィクトリアに一度だけ視線を向けたあと、気づかれる前に逸らした。自分の努力の一部ですら彼女に伝わってない気がする。こんな状態で役者になれるのだろうか。誰だって始めは拙いものだと理解していても、レントのプライドが許せなかった。分かっているのだ、自身があまりにもお粗末な演技を彼女に見せてしまったことが恥ずかしい。きっと失望されたに違いない、諦めかけていると彼女はレントに声を掛けた。


「ねぇ、あなたは彼のことをどう思っているの?」

「……え?」


 質問の意図が分からず目を瞬かせる。彼女の瞳はこちらを捉えており、逸らすことができない。レントは緊張で固まった頭をほぐすように言葉を選んだ。


「えっと、そう、ですね……」


 ウィルはどんな子だろう。本を読んだ時を思い出す。共感できる子ではあると思っていた。


 ──どこに?


 心が折れやすくて、いつも夢を諦めていて、それで……。レントはウィルのことを考えれば考えるほど、自身のことが浮かんでしまい顔をしかめた。彼のことを聞いているのに、自身のことしか浮かばない辺り、役者として良くないのではないか。そう思ってしまい口を閉ざしてしまう。


「どうしたの?」

「……自分のことしか浮かばないんです」


 彼女は目を細める。


「詳しく教えてちょうだい?」

「……」


 隣にいる二人を一瞥し、様子を見る。ノマは楽しそうに笑い、もう一人は何とも言えない顔をしていた。レントは彼女に顔を戻し話を続ける。


「ウィルはなんていうか……余裕がない子だなって」

「……余裕」

「いつも二人の後ろにいて、でも取り柄がなくて何もできない。そんな自分を嫌ってる、人間味があるキャラだと思ってます」

「それが自分に当てはまると?」


 レントは頷く。


「俺、ここに来てから余裕なんてなくて、自分のことで精一杯なんすよ。だからセリフ合わせしようとか、軽い雑談とか俺から振ることはできまでんでした」

「……」


 彼女は口元に手をやり考える仕草をしてレントを見つめている。彼女の気を障ったか分からないが、今できることをやるしかない。レントは深呼吸をし、言葉を続けた。


「だから余裕がない子だなって思いました。俺からは以上です」


 そう笑うレントをヴィクトリアは黙って見つめ、微笑んだ。


「ありがとう、私からの質問は以上よ。あなたはもう帰っていいわ」

「わ、分かりました」


 レントは一礼し部屋を後にする。この競争社会で生き残れるか分からないが、やり切れたとは思う。真っ先にカズヤの顔が浮かび、レントは喫茶店に足を運ぶことにした。

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