カツサンド 3
「なるほど、そんなことが……」
ブランはイリーナの話を聞いて顎に手をやる。イリーナは困った顔をして話を続けた。
「一応この件を調べてくれる人がいるんですけど……正直不安で」
「それは不安にもなあるよ。……確認のために聞くけど、関係者の人も把握してなかったんだよね?」
「私が受験票を見せたら困惑していたので、知らなかったとは思うんですけど……。なにが怖いって、試験でも同じことが起こるんじゃないかってことなんですよね」
そう不安げに話すイリーナをエレインとレントは心配そうに見ている。無理もない。自身の実力とは別の理由で落ちてしまう可能性があるのだ。このままでは試験時がどうなるか分からない。俯くイリーナを見つめながら、ブランはなにかいい方法がないか考える。しかし自身の管轄外なため、いい案が浮かばない。優秀な彼女をこのまま腐らせるのはもったいないとは思う。彼女の夢を応援したいがいったいどうしたら……、考えていると息子と目が合った。
ふとブランの中で案が閃いた。彼女の理想とは違うかもしれないが、諦めてしまうよりはいい。それに今後のことを考えれば、彼女のキャリア形成にいい効果をもたらすだろう。ブランは一度エレインを見た後、イリーナに微笑んだ。
「君が良かったらだけど、うちで家庭教師にならないかい?」
イリーナは首を傾げる。
「家庭教師に、ですか?」
「ああ、君みたいな優秀な子を見逃すのは惜しいからね。と、言ってもエレイン専属になりそうだけど」
「そのお誘いは嬉しいんですけど……私でいいんですか?」
「ああ、実は君のおかげでエレインの成績が上がったのを思い出してね」
「お父様!? えっ急になに! 変なこと言わないでよ!」
「事実だろう? テストで高得点が取れた時、教えてもらったからできたんだーって話していたじゃないか」
「そ、そうだけど……」
「君ならエレインも慕っているし、どうかな? なにも悪い話じゃない。教師になった時に貴族の子を相手にするかもしれないだろう? その場面である程度の作法を学んでおいたら対応もできるからいいことだと思うからね」
先行投資だよと笑うブランにイリーナとエレインは互いに顔を合わせ、目を瞬かせた。予想外の言葉に驚いたのもあるが、ここまで気に掛けてもらえるとは思っていなかったのだ。理想とは違うが、これもありかもしれない。目から鱗というべきか、教師の道は一つではないことに気づけた瞬間だった。
だが理想を諦めようとは思っていない。イリーナの理想は「あまねく人に学問の楽しさを広めたい」のだ。一人一人に向き合い、個人に合った勉強を教えるのもいいが、やはりイリーナは学問の扉を叩いた人を師として迎えたいのだ。
「ありがとうございますブランさん」
イリーナは笑う。
「でも今は試験に集中したいので、返事は終わってからでもいいですか?」
「ああ、構わないよ。私としても君には教師になって欲しいからね」
「ふふ、ありがとうございます」
「それにしても、やはり不思議だね。試験までに理由が分かればいいけど……」
ブランの言葉にイリーナは困った顔をし、頷く。しかしどう対処したらいいのだろう。クレストが調べているとはいえ、不安は残る。当日に受験資格がないので受けられません、なんてことにはなりませんように。イリーナは祈った。落ちるなら実力不足で落ちたい。
和やかだった空気がまた重くなるのを感じ、エレインは父親に非難の目を向けた。せっかくいい空気だったのになんでそんなこと言うの。と言いたげにこちらを見る息子の目つきにブランは焦り、申し訳なさそうに頬を掻く。レントは親子が出す空気にいたたまれなくなったのか、少し距離を開けた。
「お待たせしま……え、なにこの空気」
カツサンドを作り終えたカズヤが困惑した様子でブランにカツサンドを差し出す。ブランはカズヤに感謝してカツサンドを一口、頬張った。
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