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カツサンド 2

今回はお料理回。がっつり料理描写がしたかったと供述しており。

カツサンドとだし巻き玉子が食べたくなりました。みんなも食べよう。

「よし」


 カズヤは材料を取り出し頷いた。効率を考えれば、カツから作るのがいいだろう。先日買ってきたばかりの豚肉の筋を切り、ある程度切り込みを入れる。塩胡椒を軽く振り、味を付けて薄力粉を全体にまぶす。この時、余分な粉は払い落としておくと卵がなじみやすい。そして溶いておいた卵に肉を入れ絡ませた後、パン粉をまぶし手で軽く抑える。パン粉が落ちないのを確認してから、フライパンに事前に注いでおいた油の温度を確認するために手を洗う。菜箸の先を油に落とすと、しばらくして細かい泡が上がって来る。頃合いだな、カズヤは箸を戻しカツを油の中に入れた。途端ぱちぱちと爆ぜる音が厨房に響く。低温でじっくり揚げるため時折様子を見るくらいでいいだろう。


 その間にだし巻き玉子を作っておこう。ボウルに卵、自家製だしと砂糖を入れ混ぜ合わせる。沿岸国なだけあって魚介が豊富なのは助かった。その分こちらのだしに近い味を出せる魚を見つけるのは大変だったが、試行錯誤を重ねて納得のいくものができたと自負している。卵白を切るように混ぜ、目の粗いざるでこしておく。菜箸で掬いあげ、なめらかになったのを確認したら熱したフライパンに油を引く。油をなじませている間にカツの様子を見れば、程よいきつね色になっていた。油を溢さぬよう慎重にひっくり返し、しばらく放置しておく。後は焦げないように気を付ければいい。


 フライパンからかすかな煙が出たのが見え、慌てて戻る。だし巻き玉子はここからが本番なのだ。三分の一ほどの卵を流し込み、巻いていく。だがだしを多く含んでいるのと、丸いフライパンなのもあって上手に巻くことができない。


「あー……専用のフライパンがあればなー」


 この国に玉子焼き専用のフライパンはない。鍛冶屋に足を運んでもないと首を振られたことは記憶に新しい。予想はしていたがないのは正直つらい。今後のことを考えると作ってもらうのが手っ取り早い。だがオーダーメイドに当たるため、かなりお金がかかるらしい。もう少し欲を出しても良かったな、なんて後悔していたが時すでに遅し。ここら辺はまたあとで考えよう。目の前のことに集中するために思考を切り替える。くるくると巻かれていく卵の柔らかい黄色はふわふわしており、これだけでも美味しいそうだ。


 なんとか卵を巻き終えカツの方に目を向ければ、いい感じにきつね色にできあがっていた。火を止め、フライパンから取り出し油を切らせる。これで具材は完成だ。出来上がった具材たちを見て余熱で火を通している間にパンを取り出し、バターを塗っておく。カツサンドの方に千切りにしたキャベツ、カツの順番に重ねたあとにソースを塗り、パンで蓋をする。だし巻き玉子もパンで挟んだ後それらを一つずつ紙でくるみ、まな板を重しとして被せた。十秒ほど置いてパンと具材が馴染ませているうちに洗えるものを洗い、盛り付けようの皿を準備しておく。被せていたまな板を外してサンドイッチたちを置き半分に切ると、現れた断面図の美しさにカズヤは感嘆の声を上げた。


 時計を見れば十分くらい経っている。イリーナたちのお腹も限界かもしれない。サンドイッチを皿に載せ厨房を出れば。こちらに気づいた三人の目が輝いている。イリーナとレントはともかく、一度食べたことのあるエレインまで目を輝かせているものだから思わず笑ってしまう。


「おまたせ。こっちがカツサンド、こっちがだし巻き玉子ね」

「見たことないかも。この茶色いのがカツ?」

「確かに、見たことねえな」

「こっちには「揚げる」って概念がないから見たことがないのも仕方ないよ」

「あげ……?」

「高温の油で加熱する調理方の一つだよ。食べてみれば分かる」

「そう? じゃあいただきます」


 そう言われ好奇心が勝ったのか、イリーナは大きめにカツサンドを頬張る。サクッと小さく聞こえた音が新鮮でイリーナは目を開く。細く切られたキャベツが、衣の食感を助長しているのか、噛めば噛むほどザクザクして楽しい。

 味も申し分ない。果実の甘味が一瞬したあと、肉の旨味があとを追うようにやってきて馴染んでいく。ソースになにか入れているのだろうか。味が気にいったイリーナはソースだけを舌に載せ味わう。やはり始めは甘い。だが後からガツンと酸味がやってくる。肉の味がしないわけではないが、噛めば噛むほどソースの味が口いっぱいに広がり、叫びたい気持ちをぐっと堪えた。美味しい、ひねり出した感想はシンプルだった。

 食べ進めればすこしピリッと辛みが走る。これはバターに秘密があるのだろうとイリーナはひらめいた。カツがシンプルだからこそ、ソースたちが活きるように作られているのかもしれない。しかし肉も負けていない。柔らかくて食べやすいのに、衣のおかげで存在がしっかりしている。

 これが揚げる。イリーナは顔を上げ、レントの背中を叩いた。

 突然のことでレントは驚いたが、興奮しているイリーナを見て全て察した。


「良かったな」


 こくこく頷くイリーナをエレインはにこにこしながら見ている。そんな彼女の反応を見て、カズヤはほっと一息ついた。


「こんにちは、エレインはいるかい?」


 カランカランと鐘の音がして全員が顔を向ければ、ブランが帽子を上げて挨拶をしている。


「こんにちはブランさん。エレインはいますよ」

「どうかしたのお父様?」

「いや、様子を見に来ただけなんだ」

「ブランさんこんにちは」

「こんにちはイリーナさん。……なにを食べているのかな?」

「これですか? カツサンドです」

「かつ……?」

「すっごく美味しいのでおすすめです」

「ほう? マスター、私にもカツサンドを一つ」

「かしこまりました」


 カツサンドを作るためにカズヤは厨房に引っ込む。ブランはイリーナにを見ると調子はどうだい? と尋ねてきた。勉強の意味で聞いているのだろうと察したイリーナは一瞬だけ眉を下げる。


「なにかあったのかい?」


 ブランの問いに三人は顔を合わせる。


「どうしようこれ、話した方がいいかな?」

「言うだけ言ってみれば?」

「お父様ならなにか分かるかも?」


 こそこそ話す三人を、ブランは笑顔で見つめる。様子からしてなにかあったのだろうなとは思ったが、詳しく聞いてもいいのだろうか。そう思っているとイリーナがブランを見る。


「実は……」


 話された内容を聞いてブランは目を開いた。

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― 新着の感想 ―
作者様は料理を作る過程が好きなのですね。料理を作るという過程をここまで書き込むには、料理を知っている人物か、料理が好きな人物かと思われます。また『丸いフライパンなのもあって上手に巻くことができない』…
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