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アイスクリーム 1

キャラの名前を間違えておりました。


レスト→レント 

レントが正しいです。

修正はしておりますが間違ったままだった場合、ご連絡いただけますと幸いです。

 作戦会議をしてから数日、イリーナの生活に大きな変化があったかと言われたらそうでもない。しかしレントが付きまとう頻度は下がったように見えた。これもカズヤとエレインの協力のおかげだ。隣を歩くエレインに目をやれば、彼は何を題材に描こうか悩んでいるようだ。


 この間カズヤから提示された案は二つ。

 一つ、なるべくカズヤたちのそばにいること。

 二つ、一人で行動せざるを得ない時はあらかじめ二人に共有しておくこと。


 一見幼子にする約束に見えるが、これが意外と功を奏していた。レントに絡まれたときは近くを歩いていた二人が助けてくれたし、どちらかが自身のそばにいる日はこちらにやってこない。ほぼ毎日絡まれていた当事者としては、今の環境が非常にありがたかった。図書館に一人でいても、彼は絡んでくる様子が見えない。


 この状況が続けばいいのに、絵を描き始めたエレインのつむじを見ながらイリーナは本を開く。邪魔されない空間というものがいかにありがたいか痛感したイリーナであったが油断は禁物。気を緩ませた時が一番危ないのだから。


(いけない、集中しないと)


 本の内容が入ってこず、頭を横に振る。どうしても読みたかった本を借りることができたのだ。早く読んで内容をノートにまとめたい。イリーナは本に視線を落とし、知識の世界に飛び立った。


 エレインは納得のいく線画が描けて満足していた。顔を上げ大きく伸びをし固まっていた筋肉をほぐす。ふと視線を感じて顔を動かすと、レントがこちらの様子を窺っていた。

 まただな、エレインは画材をトランクケースに収めながら様子を見る。ここ最近はイリーナに話しかけることはせず、こうやって遠くから様子を見ている程度だ。何か心境の変化があったのだろうか、カズヤに相談した時様子見をしようと決めてからずっとこの調子だ。

 隣にいるイリーナに目をやれば、彼女は真剣な顔をして本を読んでいる。彼女もエレインと同じで一度集中し始めたら周りが見えなくなるらしい。最近はレントに妨害されてそれどころではなかったようだが。

 イリーナとレントを交互に見やり、エレインは物音を立てぬようその場から離れる。ずっと気になっていた。彼が黙ってこちらを見ている理由を。レントがいる方向に足を動かせば、彼はやべっといった顔をして立ち去ろうとした。


「こんにちは」

「お、おう……」


 しかし動き出しが遅かったのかエレインが話掛けるのが早く、レントは困惑した様子でエレインを見つめた。

 人にはそう行動する理由がある。これはエレインがカズヤたちと交流して新たに得た知見だ。なら目の前にいるレントもきっと、何か理由があるに違いない。エレインはそう、確信していた。


「ねえ、どうしてお姉さんの後を追うの?」

「……」


 彼は答えない。なんていえばいいのか分からない、そんな目でエレインを見つめていた。エレインは質問を変える。彼を逃がす気はないらしい。


「お姉さんのことが好きなの?」

「それはどういう意味で?」

「んー、じゃあ恋愛」

「はっ、あんな嫌味な女のこと、恋愛の意味で好きになるわけないじゃん」

「でも追いかけてるよね」

「そうだけど、恋愛とは別」

「好きじゃないなら別に追いかける必要なくない? 嫌いなら関わらない、それが一番だと思うけど」


 チクリ、母親のことを思いだしてエレインの胸が少し痛む。正論なのか、レントは言葉を詰まらせていた。


「……お前さ、口が達者とか言われない?」

「ううん。お兄さんが初めてだよ」

「そっか……」

「それで?」

「まだ続くのこれ?」

「お兄さんが話してくれたらね」

「しつこい奴は嫌われるぞ」

「それはお兄さんも同じじゃない?」

「このガキ……! はぁ、分かった分かった。話すよ」

「やった」


 レントは頭をかきながらその場にしゃがみ込む、エレインも隣に座り、彼の言葉を待った。


「あいつのことは別に嫌いじゃねえけど……、腹立つんだよな」

「腹が立つ? どうして?」


 彼の視線の先を追う。真剣に本を読むイリーナの姿があった。彼女を見る彼の瞳はまぶしいものを見るようで。エレインは首を傾げる。


「だってさ、この国で仕事を好きに選べるようになったって言っても、結局選べる仕事は決まってるじゃん? あいつが教師になりたいって言った時、バカだなって思ったんだ」


 レントはイリーナから視線を外す。その瞳には諦観の色が溶け込んでいる。同じだ。エレインはかつての自分と重ねる。


「なのにあいつは絶対教師になるって言って毎日勉強してさ。無意味だってのになんでここまでやるか分かんねぇ」


 それが腹立つんだよな。そう話すレントにエレインはじっと見つめる。今の話を聞いて一つ、思うところがあった。


「お兄さんはさ、お姉さんのことがうらやましいの?」

「はぁ!? なんでそうなる!」

「だって僕にはそう聞こえたよ」


 レントはきっと、イリーナみたいになれないのが悔しいのだろう。やりたいことが分かっているのに、何かしら理由を付けて諦めているのだろうなとなんとなく思った。


「ね、お兄さんはしたいこととかあるの?」

「だから!」

「ちょっと、何してるの!?」


 思った以上に話し込んでいたらしい、イリーナの声が聞こえ二人は顔を上げる。彼女は驚いた顔をして、こちらを見ていた。怒りに満ちた顔しているので、エレインは冷や汗を流した。


 あ、これどう説明しよう、と。

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― 新着の感想 ―
 エレインが話しかけるだなんて、度胸がある一部分が垣間見れました。「ガキ」と言っていることから、レントは15~18歳くらいの青年くらいかなと想像できます。言葉遣いで年齢を把握することは、あまり得意では…
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