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櫻井

「何かわかっていることはあるのかね! 逆にね!」


M東高校校長、増川は、C組の担任猪俣に声を荒げた。


増川は、人生で怒鳴ったことなどない。


非行を行った生徒にも穏やかに懇々と諭す。つたあだ名が「仏の増川」。


その仏の増川がついに怒鳴った。


生まれてこの方聞いたこともない、


広辞苑、医学辞書を何周しても出てこない、


そんな事態に苛立っていた。


青木の死因がはっきりしない中、養護教諭の櫻井まで『感染』したことによって事実上の学級閉鎖を余儀なくされたわけだが、


如何せん肝心な死亡原因が、『だぶ』を言いすぎたことによる窒息死意外わからず、


保護者、報道関係になんと説明すればいいのか。


学級閉鎖もいつになれば解除できるのかの目処すら立たず、見通しもつかず。


特にC組の生徒、その保護者には自分達は、本人たちが安全なのかどうかすら自信を持って説明できず、八方塞がりだった。


それは、担任の猪俣にしても全く同じ悩み恨みでもあり、理不尽な不条理と、如何ともし難い合金製の現実のは座間でもがいていた。


「……すみません」


「……君に怒鳴ったって仕方ないって、理解した上で言ってるよ。

 ……私にはわかってることが一つある。それはね、このままでは世界中に、この出来事のことを『M東校だぶだぶ病』とかいう名前がつくことがね!

 猪俣くん!頼む!もう頼むよ!

 これ以上の騒ぎが広まんよう皆を落ち着けてくれ」

 







患者氏名: 櫻井 美穂年齢: 45歳性別: 女性職業: 養護教諭来院日: 〇月〇日受診時間: 13:45

診察所見

•呼吸: 呼吸停止。気道内異物なし。肺音正常。胸部X線にて気管狭窄や異常陰影なし。

•循環: 心拍停止。初診時心電図は無脈性電気活動(PEA)を示していた。

•神経: 痙攣様動作あり(四肢の不随意運動)。瞳孔散大(両側6mm)、対光反射消失。

•血液検査: 酸素飽和度0%、pH 6.8(アシドーシス)。血液ガス分析では重度の低酸素血症を確認。

•その他: 皮膚に紫斑は認められず、外傷なし。



解剖結果(簡略版)

死因: 窒息死所見:

•肺および気管支内に異常所見なし。

•喉頭部や気管支に炎症、浮腫、閉塞を認めない。

•脳に微小血栓を疑わせる痕跡あり(左中大脳動脈領域)。

•心臓の冠動脈および主要血管に異常なし。

病理学的診断:

1急性神経障害による呼吸中枢の抑制が主因と推測。

2死後、脳内における酸素不足による壊死が進行。

3発声筋の不随意収縮が見られるも「だぶだぶ」と発話する異常行動は、現段階では不明。



•本症例は通常の窒息死や脳卒中のパターンと一致しない。

•血液検査で特定の毒素や感染性因子は検出されず。

•心停止に至る直前の音声異常(「だぶだぶ」の繰り返し)は、運動性言語中枢の異常活動に起因する可能性。

•他の発症例(青木美樹)との関連性を疑い、詳細な疫学調査を推奨。


結論と提案

•病態は急性の神経系異常によるものと推測されるが、具体的な原因は不明。

•同一施設内での複数症例の発生を踏まえ、環境要因(空気感染、毒物、心理的ストレス)を含む包括的な調査を推奨。

•厚生労働省および感染症対策機関への報告を検討する必要あり。


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