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青木

私が初めてみた死体は、クラスメートのものでした。


死因は窒息死。お昼休みの教室のことでした。



私が『おかしい』と思って彼女に近づいた時には、

彼女は床で横になり、真っ赤な顔で、真っ赤な目と口を大きく開いて、手で自分の首を絞めてました。


私が『おかしい』と感じたのは、

あと10分で5時間目が始まると言うときだったと思います。


特別親しかったわけではないので、

彼女と私は別々のグループで談笑しながらお昼ご飯を食べていたのですが、

側にいたので聞こえてしまったんです。


「だぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶ」


「ちょっと、いきなりどうしたの?」


「だぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶ」


「やめて(笑) ウケるんだけど」


「だぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶ」


「……ねえ?大丈夫?」


「(机を叩く)だぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶ

 (腕を振り回す)だぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶ」


「え!ねえ!大丈夫!?」


『おかしい』と思った私たちは全員で暴れる彼女を抑えようとしました。

彼女は……息が吸えないようで、ひたすら『だぶ、だぶ』と繰り返します。


床に横になり、虫の最期のように足をバタつかせながら、自分の首をしめ『だぶ、だぶ』と繰り返します。

教室にいた私たちは、全員、意味がわからずただ、呆然とみてるしかありませんでした。

そして……


「だぶだぶ、だぶ、だぶ……(だ)……」


何が起きたのか、全く理解が追いつきませんでした。

教室にいた全員が彼女を囲んで、どうしたらいいのかわからず、ただ、みてました。






「なんだったんです?原因は」


青木美樹が窒息死して、2週間が経とうとしていた。


C組の担任、猪俣は、青木を病院まで付き添った養護教諭、櫻井に聞いた。


「うーん……お医者さんの言ったことをそのまま言うと、『どちらかといえば脳梗塞』だそうなんです」


「なんですかそれは……」


ここ2週間の記憶がない。何から何までが前代未聞のことで、どこの誰に何を聞いて、どこの誰に何を説明しなければならないのか、誰にもわからなかった。

C組の生徒の中には、目にしたものからの衝撃が強すぎて、未だに立ち直れないものもいる。


疲弊しているのは櫻井も同じで、病院と生徒の親たちの橋渡し役をしなければならなくなり、目に見えてやつれていた。


「わからないんですよ。病理解剖の結果、死因は窒息だったみたいなんですけど、気管や肺に何か詰まってたわけでもなく、

 その肺からも異常は認められなかったみたいなんです。だから神経的なことが疑われるみたいなこと言われたんですけど……」


「で、脳に異常が?」


「異常……と言う異常もないみたいなんですよね。症状としては『うなずき症候群』に似ているみたいなんですけど。」


「じゃあ奇病ってことですか?」


「奇病にしたって、健常者がいきなりかかるケースは稀ですから。だから現状『どちらかといえば脳梗塞』なんですよ。」


猪俣は頭を抱えた。


「困ったなあ……」


「まあ、ウイルスとかじゃないみたいなんで、まだだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶ」


「……?なんです?」


「だぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶ」


櫻井は、自らに何が起きたのかわからず混乱し始めた、そして突然立ち上がる。

もはや立っている方が楽なのだ。


「櫻井さん!?」


「だぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶだぶ」


「ちょっと!!今!救急車呼びますから!!」


「(腕を振り回す)だぶだぶだぶだぶだぶ(倒れる)だぶだぶだぶ(足をバタつかせる)だぶだぶだぶだぶだぶだぶだ、ぶ、だ、ぶ、だ、ぶ

 だ…………」


「櫻井さん!?いま救急車呼びましたから……櫻井さん!?櫻井さん!!」







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