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7.家探し

 砦作りの作業に従事してから、かなりの時が経った。


「ふぅ〜、こんなもんかな!」


 魔王は打ち終わった釘を誇らしげに見つめる。

 魔王は山の上の建設現場で、砦の建設に携わっている。ある程度、物資の運搬が落ち着いたため、建設作業に加わることになったのだ。


「どうだ、ゾンビ。だいぶ上手くなっただろう?」


「確かに上達していますね。私の方が上手いっすけど」


「うわ、ムカつく。お前、なにげに器用なんだよなぁ〜」


「これでも魔王軍の雑用係なんで、一通りのことは何でもできるっす!」


「その才能が羨ましいよ……」


 魔王はぼやきながら釘を打ち続ける。


「終業時間だ! 皆、給料を渡すから取りに来い!」


「よっしゃぁ! 今日の仕事終わった〜!」


 魔王達はサイクロプスの元へ駆け寄り、今日の分の給料をもらう。中身を確認すると魔王は笑顔になる。やはり何度体験しても、働いた対価としてお金をもらうのは良いものだ。


「さ〜て、今日も快活に泊まるか」


 魔王は漫喫暮らしに慣れきっていた。


「ねえねえ、魔王様」


「どした?」


「お金も溜まってきましたし、そろそろちゃんとした家に住みません? 漫喫でずっと寝泊まりしてると、背中が痛くなってくるんすよ」


「あ〜、わかる。ちょっと身体にガタが来るよな。それにソフトクリームもいい加減に飽きてきた。それじゃあ、明日は家探しでもするか」


「はい!」


 そのまま二人は漫画喫茶に直行し、労働の疲れで即寝落ちした。






「いらっしゃいませ〜!」


 翌日、二人は物件探しのために街の不動産へやってきた。


「我が魔王軍の新たな拠点を探しにきたのだが」


「は、はぁ……」


 店員のゴブリンは、変な客が来たなと、不安な気持ちになる。


「二人暮らし用のお部屋を探しに来たということでよろしいですか?」


「ああ。第二の魔王城に相応しい派手で豪華なやつで頼む」


「か、かしこまりました…… では詳しい条件などをお聞かせください」


「う〜ん、そうだな。立地は街の中心部に近い方が良いかな。店とか娯楽施設とか色々揃ってて便利だし」


「ふむふむ。部屋の間取りは?」


「これが前住んでた場所の間取り図なんだが、なるべくこれに近い物が良いな」


 机の上に魔王城の間取り図を広げる。魔王が自分で描いた手作りの間取り図だ。


「こ、これは……」


「どうだ? 行けそうか?」


「普通に億単位のお金がかかりますが」


「嘘だろ! この作りってそんな高いの!?」


 魔王城は先代の魔王から受け継いだ物なので、彼はその価値をよく理解していなかった。要は世間知らずなのだ。


「先にご予算の方を伺っておきましょうか。それに合わせた間取りの物件を紹介させていただきます」


「予算かぁ。生活費もかかるし、魔王軍の軍資金のために貯金もしなきゃいけないよなあ…… 五万ゴールド台でどうにかならんか?」


「なるほど。街の中心部で、五万ゴールド台の物件となりますと…… あっ、こちらになりますかね」


「お、あるのか!」


「内見に行ってみますか?」


「行く行く!」  


 店員に連れられ、魔王達は内見に向かった。




 


 魔王達は街の中心部にやってきた。飲食店や道具屋や武器屋などあらゆる店が揃っている。ここに住めれば何不自由なく暮らすことができそうだ。


「いや〜、魔王城の直轄地ほどではないが、ここも結構栄えてるなぁ〜!」


「こっちの道になります」


「あれ? そっち行ったら中心部から外れね?」


「流石にど真ん中だと家賃が高過ぎるので、ちょっと離れた場所になります。ついてきてください」


 そう言うと、店員は狭い路地に入っていく。そして歩くこと数分、目的地に到着した。


「ここですね」


「お〜、そこそこでかいし、部屋たくさんあるじゃん。これまるまる全部、月に五万で借りられるのか?」


「いえ、一部屋だけですよ。当たり前じゃないですか」


「はぁ? 一部屋だけだと?」


「アパートってそういう物ですから」


 魔王は絶望的に世間知らず過ぎた。先代の魔王の息子だからという理由で後を継いだだけで、本人は大した苦労をしたことが無い。だから、このような性格に育ってしまったのだ。


「まあ、もしかしたらその一部屋がめちゃめちゃすげえのかもしれない。とりあえず中に入ってみるか」


 扉を開けて部屋の中に入る。その瞬間、魔王は言葉を失う。


「…………」


「お客様、いかがしました?」


「…………」


「お客様?」


「狭い! ボロい! 日当たり悪い!」


「ひえっ!?」


 急に大声を上げる魔王に、店員は腰を抜かす。


「魔王城のうさぎ小屋の方がもっと広くて立派だったぞ! 何だ、ここは! 人が住むところではなぁぁぁぁい!」


「そ、そう言われましても、やはりこの街で五万ゴールドで住むならこのレベルの物件しかありません」


「それガチで言ってんのか?」


「はい。どこの不動産で探しても同じような物件しか見つからないと思います」


「う〜わ、マジかぁ……」


 魔王は地面に両手両膝をついて落ち込む。


「まあまあ、魔王様。とりあえず住んでみましょうよ。住めば都かもしれませんよ?」


 ゾンビは魔王の背中を撫でながら言う。


「まあ、仕方ねえか。活動拠点が無いことには始まらないからな。よし、ここを新たな魔王城とする!」


「それでは、お客様。契約ということでよろしいですか?」


「おう! 契約だ!」


 魔王達は契約の手続きを済ませ、ワンルームアパートという新たな拠点を手に入れた。


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