6.労働
「そこの片方の角が折れた青年と、緑色のお嬢ちゃん」
「「はい!」」
魔王とゾンビはサイクロプスに呼びつけられる。
「二人はここの仕事は初めてだな。体力に自信は?」
「病み上がりだが、平均よりは上だと思うぜ」
「私は体動かすの大好きっす!」
「それなら、良かった。では、二人には運搬作業をお願いしよう。あの倉庫の中に木材や石が入っているから、山の上の建設現場まで運んでほしい」
「任せてください!」
「おっさん。魔族の未来は俺が守ってやる。安心しろ!」
「この街に、君のような頼もしい若者がいてくれて嬉しい。頑張ってこいよ!」
「おう!」
二人は魔族を救う使命を胸に、運搬作業に従事するのだった。
「うげぇぇぇぇぇ! きつすぎるぅぅぅぅぅ!」
建材を運んで山道を登る途中、魔王の苦しそうな声がこだまする。
「何で、こんなに重いんだよ!」
「見栄張ってそんなにたくさん持つからっすよ」
魔王が引いている荷車には山のように建材が乗せられている。とても一人で運べるような量ではない。
「お前もちょっと手伝えよ!」
「私は私の分の荷物を運ばないといけないので」
「くっそ〜。もっと軽い荷物にしとけば良かったなぁ〜!」
「サイクロプスのおじさんに約束したじゃないっすか。そんな軟弱な魔王じゃ、魔族は救えませんよ」
「そうは言われても…… きついものはきつい…… ぬわぁぁぁぁぁ!」
顔からは汗が吹き出し、全身が真っ赤に染まっている。限界の一歩手前といった様子だ。
「あっ。ほら、ゴールが見えてきましたよ!」
懸命に登り続けていると、砦の建設現場が見えてくる。
「お〜、やっと…… やっとたどり着いたぞ!」
「お〜、運搬班の人か」
作業員が二人を出迎える。
「そうだ。苦労して運んだこの荷物、お前に預けるぜ!」
「ありがとうよ!」
「いやぁ〜、一仕事終わった!」
建材を託すと、魔王はその場に座り込んだ。
「魔王様、立ってください。次行きますよ」
「は? 次? まだやるのか?」
「当たり前でしょう。一周だけで終わると思ってたんすか? 日が暮れるまで運び続けますよ!」
「え、嫌だ。今日はもう終わりで……」
「ほらほら、行きますよ!」
「いやだぁぁぁぁ!」
ゾンビに引きずられ、魔王は二周目の作業に連れて行かれた。
「ぜぇぜぇぜぇ…… あぁ、マジ疲れた……」
「お疲れ様っす! 文句言いながらも、なんだかんだ頑張りましたね!」
倉庫と山を往復すること数回。日は沈み、空は真っ暗になっていた。
「明日の朝、絶対筋肉痛だわ」
「まあ、その分たくさんお金もらえるから良いじゃないっすか」
終業時間が訪れ、作業員達に給料が配られる。二人がその列に並ぶと列はどんどん進み、二人の番がやってくる。
「新人さん達、お疲れさんよぉ!」
サイクロプスは給料を渡しながら、二人に労いの言葉をかける。
「よっしゃ、一万二千ゴールドゲット!」
魔王は封筒の中身を確認すると、ガッツポーズする。今まで他者を束ねる立場だった彼が、初めて他者の下で働き、初めて得た給料だ。それだけに思い入れは強い。
「わ〜い、お給料もらえたっす! 安い給料でこき使ってくる魔王様と違って高収入っす。サイクロプスのおじさん、ありがとう!」
「こちらこそ、助かった。緑のお嬢ちゃんはよく働いてくれたよ。動くは機敏だし、力持ちだし、素晴らしい人材だ!」
「ありがとうございます!」
サイクロプスの言葉に嘘は見られない。お世辞ではなく本気でゾンビを絶賛している。彼女はそれだけ有能な人材なのだ。
「あの〜、俺は?」
「ああ、君か。君もよく頑張ったな。ちょっと、へっぴり腰だっかもしれんが…… まあ、一生懸命やってくれた。これからの成長が楽しみだ」
「どうも、あざっす!」
サイクロプスの魔王に対する評価はあまり芳しくないようだ。だが彼はそれに気づかず、サイクロプスからの言葉を素直に喜んだ。
「じゃあ、おっさん。また働かせてもらうぜ!」
「バイバイっす!」
「おう! また待ってるぞ!」
魔王達はサイクロプスに別れを告げると、街へと戻って行った。
「ふぅ〜、食った食った」
「労働の後の飯は格別っすね〜!」
街に戻った二人は夕食を簡単に済ませた。ゾンビが街の住人にコスパの良い店を聞いたため、安い金額で満腹になれた。こういう時に、コミュ力があると得である。
「さて。後は寝るだけだが、肝心の寝床はどうしようか」
「家無いんで、どこかに泊まるしかないっすね」
「この辺に宿屋とか無いか?」
「う〜ん…… 無いっすね」
ゾンビは周辺の地図を見ながら言う。仲良くなった住人からもらった物だ。
「あ、宿屋は無いですがあれならどうっすか?」
ゾンビは少し離れた位置にある、大きめの建物を指差す。
「やけにギラギラしてるな。何だあれ」
「快活っすよ。漫画喫茶の」
「こりゃまた、えらい現代的だなぁ! おい! 世界観どうなってんねん」
「まあ、偉大な魔法の力で営業されてるんでしょう。多分」
「いくら魔法が万能といってもこれはあかんぞ。だいたい中世ヨーロッパに漫画は存在しな……」
「嫌ですか? 嫌なら野宿になりますけど」
「全然嫌じゃない! むしろ大歓迎だ!」
「じゃあ、快活に泊まりましょう! ソフトクリーム食べ放題っすよ!」
「味が薄めであっさりしたアレな。たま〜に食べたくなるよな」
「楽しみっす〜!」
辺りの風景にそぐわない現代的な施設で二人は夜を過ごした。
大量の漫画を読んだり、ソフトクリームを食べまくったりするなどして、必死に元を取ろうとした。