5.職探し
「あ〜、酷い目にあったっすね」
「お前が大麻なんか渡してくるせいだ」
ゾンビと魔王は街の中をぶらぶら歩く。
薬物所持のせいで牢屋にぶち込まれたが、色々あって釈放された。
「私達、何もかも失ったわけですがどうします?」
「新しい魔王城が欲しいところだな。城が無いと王とは呼べないだろ」
「城建てるのにいくらかかると思ってるんすか? 一食の飯代も払えない私達に城が建てられるとでも?」
「ここの街の民衆から税を取り立てればあっという間よ」
「でも魔王様が本人だって証明できる物が何も無いじゃないですか。そんなんで民衆が税を納めますか?」
「じゃあ自力で稼ぐしかないか…… でも、どうやって?」
「商売でもしませんか?」
「商売か。一流の商人は超大金持ちなイメージあるし、良いかもしれないな。でも何を売る?」
「これっす!」
ゾンビは得意気に布の袋を掲げる。
「何だそれ」
「どうぞ。中身を覗いて見てください。結構な上物っすよ」
「白い粉…… 嫌な予感しかしないけど、一応聞くぞ。これは何だ?」
「コカインっす!」
「バカかてめえは!」
魔王はゾンビの手からコカインの入った袋をはたき落とす。袋から溢れたコカインを蹴飛ばし、その場から消失させる。
「あちゃ〜、もったいない! これを売れば何万になったことか」
「さっきしょっぴかれたばかりだろ! 二回目は流石に許されんぞ!」
「じゃあヘロインにします? それともMDMA?」
「アホ!」
ゾンビはまたもや違法薬物の入った袋を取り出すが、魔王はそれを即座に始末する。
「どうしてお前はそんなに違法薬物を持ち歩いているんだ!」
「友人に違法薬物のバイヤーがいるっす」
「そいつとはもう縁を切れ! 良いな?」
「うぃっす。でも、どうするんすか? 私、薬物しか売れそうな物持ってないっすよ」
「どこかで調達するしかないな。手に入れるのにコストがかからず、そこそこ高く売れる物。う〜ん、思いつかんな……」
魔王は腕を組みながら頭を悩ます。
「それなら良い方法がありますよ!」
「どうせお前はろくなことを考えないだろうけど、言ってみ?」
「民家に押し入って、壺を割ったりタンスを漁ったりするっす! たま〜に、高級な装備品が……」
「窃盗じゃねえか、タコ!」
「痛っ!」
魔王は勢いよくゾンビの頭をしばく。
「お前は犯罪のことしか考えられんのか?」
「いや、多分大丈夫っすよ。民家の私物を拝借するのは、主人公にだけ許された特権っす。魔王様ならいけます!」
「言ったな? お前のこと信じるからな?」
「はい!」
「よし、じゃあ行くか!」
魔王達は一番近くの民家に押し入ると、家中をひっくり返して様々なアイテムをゲットした。
当然、住人に警察を呼ばれ、二人は再び豚箱行きになった。
「いや〜、また大変な目にあったっすね!」
「全部お前のせいだぞ!」
二人はなんやかんやあって、また釈放された。懲りずに犯罪を続ける二人に、警察官達は呆れ返っていた。
「私達は絶望的に商売に向いてないことがわかりましたね。どうやって稼ぎます?」
「誰かに雇ってもらって、地道に労働するしか無いだろうなぁ……」
「雇われになるんすか? 魔族のトップなのに?」
「不本意だが仕方ないだろ。生きていくためなんだから」
「まあ、そうっすね。今の魔王様は一般人と変わらない存在ですし、それも仕方ないっすね」
「そうと決まれば仕事探しだ!」
仕事を探すため街をうろついていると、大きくて目立つ掲示板を見つける。
「ここの掲示板、求人がたくさん載ってるぞ。何か良いのないかな」
「これなんかどうっすか?」
ゾンビは工場の求人票を指差す。
「何だこれ?」
「刺し身にタンポポを乗せる仕事っす。一日中、朝から晩までひたすらタンポポを乗せ続けて時給千ゴールド」
「あかんわ。そんなの一日中やってたら気が狂っちまう」
「なら、こっちはどうすか? 老人からお金を受け取るだけの簡単なアルバイト。一回二十万ゴールド」
「どう考えても闇バイトだろ! これ以上、罪を重ねるわけにはいかないからやめろ!」
「じゃあ、どんな仕事なら良いんすか?」
「う〜ん…… お、これちょっと気になるな」
一枚のチラシに注目する。役所が行っている公共事業の求人だ。
「山の上に砦を作ります。緊急で作業員募集中。一日八時間労働で日給一万二千ゴールドだってよ。けっこう給料良いんじゃねえか?」
「他のアルバイトよりも儲かりそうっすね。応募してみましょうか」
その後、二人は役所に行ってアルバイトの応募をすると、履歴書の提出も面接も無く、その場で即採用された。
アルバイト初日、二人は集合場所に指定された街外れの倉庫前で、開始時間を待っている。
「まさか、身分証も無いのに採用されるとはな」
「役所の仕事なのにそんなガバガバで大丈夫なんすかね? あ、全国の役所を統括する魔王様がガバガバだからか!」
「誰がガバガバじゃ、タコ!」
しばらく駄弁っていると、始業時刻がやってくる。
「諸君、よく集まってくれた。俺は責任者のサイクロプスだ!」
集められた作業員達の前で挨拶をしたのは、一つ目の巨人モンスターだ。とても筋肉質で、力仕事のために生まれてきたかのような見た目をしている。
「皆も知っての通り、魔王様が行方不明になってから冒険者達の動きが活発になっている」
「おい。俺って行方不明ってことになってるのか?」
「そうみたいっすね」
「こら、そこ! 勝手に喋るな!」
「はい! さーせんした!」
サイクロプスに一喝され、魔王は頭を下げる。とても王者の姿には見えない。
「フリーの冒険者だけでなく、王国が正規軍を派遣するとの噂もある。そうなれば、魔族と人間の全面戦争だ。しかし、魔族の戦力である魔王軍は壊滅状態。戦争になれば苦しいのはこちら側なのだ!」
「今、そんなにヤバい状況なんだな…… 俺が勇者に勝てさえすれば……」
魔王は己の不甲斐なさに打ちひしがれる。
魔王軍を失うということは、現代日本が自衛隊を失うことに等しい。それだけ状況は最悪なのだ。魔王達が簡単に採用されたのも、少しでも多くの人手が欲しいからである。
「だが、我々魔族は黙って殺されるわけにはいかん! 皆で人間共を迎え撃とうではないか! そのために砦を作るのだ!」
「「「「うぉぉぉぉぉぉ」」」」
作業員達は雄叫びを上げると、各々の持ち場へ向かい、業務を開始した。