39.魔王軍過去編③
その後、魔王は各地で数年間に渡って戦いを続け、多くの種族を従えていった。いまだ従属していない種族はあと一つである。
「ここまで本当に大変でしたね〜!」
「そう? 私的には楽勝だったけど」
「じゃあ最後もバシッと決めてください!」
「よ〜し、レルヘン王国へ侵攻開始!」
魔族統一の総仕上げとして、魔王軍はエルフ族に対して攻撃を開始した。
およそ一万の兵で防衛にあたるエルフ軍に対し、魔王軍は十万を超える大軍勢でレルヘン全体を隙間無く取り囲む。
「さて、魔王様。どう攻めます?」
「エルフ族は最強の種族とも言われる戦闘のエキスパート。十倍の兵力を持っているからといって、真正面から全力でぶつかればこっちの損害はエグいことになる。だから、最初だけ猛攻をしかけて短時間で魔王軍の力を見せつける。そして相手をビビらせ、適当なところで和睦をする。もちろん和睦の条件には、魔王軍への従属を盛り込むよ」
「良い作戦だと思います。この数年間で、すごく賢くなりましたね」
「この世界は馬鹿でも生き残れる前の世界ほど甘くないようだからね。さて、作戦の第一段階といこうか」
「うちの主力部隊を出しますか?」
「そうだね。ルシウスに攻撃の合図をしておいて」
「わかりました!」
ルシウス率いる悪魔族の部隊が、エルフに向かって一斉に襲いかかる。エルフ達は必死に応戦し、序盤こそ戦いを有利に進めるが、ルシウスが前線で自ら剣を振るって戦い将兵を鼓舞すると、悪魔達の士気が爆増し、徐々に戦況は逆転していく。
魔王軍の強さを目の当たりにして、前線から逃げ出すエルフがちらほら見られ始める。一人逃げるとそれを見た別の一人が逃げる。それが全体に波及して、もはや止めることはできない。
「敵の前線が崩れていきます! 追撃しますか?」
「地の利が相手にある以上、無理な深入りはしない。一旦、兵を下げるようルシウスに伝えて」
「了解っす!」
魔王の指示通り、ルシウスの部隊は攻撃を中止して後退する。初戦ではまずまずの戦果をあげることができた。
その後、両軍は互いに動くことなく睨み合いを続ける。そのまま時だけが過ぎていく。
「私の見立てではそろそろのはずなんだけどね」
「魔王様。レルヘンからエルフ族の使者が送られてきたっす!」
「お、来たね! 早く通して!」
魔王の前に、金髪の可愛らしいエルフが通される。
「レルヘンの使者、ルーシーと申します」
「私は魔王だよ。要件を聞こうか」
「魔王軍の圧倒的な強さ、この目にしかと刻み込まれました。このままでは、我らエルフ族に甚大な被害がもたらされる。即座の停戦をお願いしに参りました!」
「良いよ。平和的に戦いを終わらせるのは良いことだからね」
「ありがとうございます!」
「ただ条件がある」
「条件?」
「停戦の条件はただ一つ。エルフ族が魔王軍に従属すること」
「従属とはいったいどのような…… レルヘンを植民地にして、エルフを奴隷にしたり……」
「そんな酷いことはしないから安心して。誰の命も取らないし、自由も奪わない。女王様によるレルヘンの自治権は今まで通り保証する。ただ魔王軍に一定額の納税と、戦争の時には兵を出してほしい」
「私は女王様に、停戦交渉に関する全権を委任されています。その停戦条件、受け入れさせていただきます」
ルーシーはその場で、停戦合意書にサインをする。これにより、エルフ族は魔王軍の傘下となり、魔王軍による魔族統一がなされた。
「寛大な処置、感謝します。早速、女王様に報告して参ります!」
「女王様に会うならこれを渡しておいてよ」
魔王は紙の束を手渡す。
「これは?」
「レルヘンの改良案。城はこんな感じに拡張して、この周りをグルっと大きな堀で囲って惣構を作ると良いよ。その方が防衛力が上がる。設計図もつけておいたから参考にして」
「魔王様がご自分で考えられたのですか?」
「私の地元、小田原って場所なんだけど。町全体が惣構に囲まれてて、それを参考にしたんだ。昔は戦に使われていたらしいけど、今はランニングコースになってる」
「オダワラ…… 聞いたことのない場所ですね。魔王様の出身地だというのだから、きっと大規模な軍事都市なのでしょうね」
「軍事都市か…… まあ、間違いではないかも。北条っていう最強の戦闘集団がいたから」
「それでは、女王様へ報告して参ります」
「うん、よろしく」
ルーシーはレルヘンの城に急ぎ戻る。女王は彼女の決定を追認し、魔王軍の一員となった。
「いや〜、やっと終わった! これで一安心!」
エルフ族との戦いを終えた魔王は、城の中でくつろぐ。魔王軍の規模が拡大するにつれて資金が潤ってきたので、誰も住んでいない寂れた大きな平原に城を建て、そこを本拠地として開発したのだ。
「これで戦争は無くなりますね」
「いや〜、本当だよ! やっと、平和を手に入れた!」
玉座にもたれかかり、達成感を存分に味わう。そんな彼女の元にトテトテという可愛らしい小さな足音が近づいてくる。
「ママ〜!」
魔王の胸に、小さな子供の魔族が飛び込んでくる。
「久しぶり〜! 長い間、留守にしててごめんね!」
子供の正体は魔王の息子だ。彼女は魔族を統一する戦いを続ける中で一人の下級魔族と恋に落ち、子供を宿した。相手の男は彼女が妊娠している間に急病で死んでしまったため、この世界で息子だけがたった一人の家族ということになる。
「ママとずっと離れ離れで寂しかった!」
まだ三歳にも満たない小さな息子は、泣きながら母親を抱きしめる。
魔王は戦いが忙しく、城を留守にすることが多かった。甘えたい盛りの子供時代に、母親と離れ離れで暮らすのはとても辛いことだ。
「もう戦争は終わったから、城を空けることは無くなるよ!」
「本当? ママと一緒に暮らせる?」
「うん!」
「やった! ママ大好き!」
「私も!」
親子は強く抱きしめ合い、互いの愛情を伝え合った。
ここからしばらくの間、平和で幸せな時間が続く。




