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37.魔王軍過去編

「魔王様、大変っす!」


 魔王がデスクワークをしていると、ゾンビが慌てた様子で部屋に飛び込んで来る。


「ん、どうした? またチャーハンに使う塩と砂糖を間違えたのか?」


「それもあるんすけど、他にもヤバいことが起こりました!」


「言ってみろ」


「国境を越えて、冒険者どもが魔族の領内に入ってきました!」


「ほお。数は?」


「十人規模のパーティーが十個ほどっすね。どれも名の知れた強豪パーティーばかりっす」


「たった百人かよ。その程度なら俺一人で十分だ」


「それは頼もしい」


「全員ぶっ殺してやるぜ! ただ殺すんじゃつまらねえから、最大限に苦しめてジワジワと命を奪ってやる。人間は皆殺しじゃーい!」


「それでは、冒険者達の現れた場所まで飛ばしますね」


「ああ、頼む!」


「テレポート!」


 魔王は冒険者討伐へ向かった。


「さ〜て、魔王様がいなくなりました。サボりましょう!」


 ゾンビは魔王のベッドに寝転がりながら、お菓子を食べる。


「あ、あの〜ゾンビさん……」


「うわ、ガイコツ君! いつからそこにいたんすか?」


「魔王様を送り出す時からずっと……」


「私がサボってたこと魔王様には言わないでください!」


「いつものことだから、バレても怒られないと思いますよ。それより、ゾンビさんに一つ聞きたいことがあるんですよ」


「なんすか? かわいい後輩君のためなら何でも答えるっすよ!」


「魔王様はどうしてあそこまで人間を憎んでいるのでしょう? 確かに自分も人間はあまり好きではありませんが、魔王様は度を越しています。良い人、悪い人、戦闘員、非戦闘員関係なく、人間という種族そのものを憎んでいるように感じられます」


「それは魔王様の過去を知ればわかります」


「魔王様の過去……」


「ちょっと待っててくださいね。え〜っと、この辺にあったかな……」


 ゾンビは物置き部屋をガサゴソ漁る。


「ああ、ありました!」


「それは?」


「先代の魔王様に関する記録っす。この前、遺品を整理していたら見つけたんすよ。魔王様にはまだ見せていないんすけどね」


「これを読めば、魔王様の過去がわかると」


「はい、読みますか?」


「ぜひ!」


 二人は先代の魔王の記録に目を通す。






 今から何百年も前の話。

 彼女はこことは違う世界で暮らしていたごく普通の人間であった。十六歳の頃、高校の帰り道に交通事故にあう。目を開けるとこの世界にいた。

 彼女が最初に見た景色は、広大な平原。そこでは多くの魔族が縄張り争いを繰り広げている。中でも一番目を引くのがドラゴンだ。


「え、何これ何これ何これ! あれは、ドラゴン……? いったい何が起こっているの!」


 突然、わけのわからない場所へ飛ばされ、彼女は混乱する。


「グォォォォォォ!」


 そんな彼女を目がけて、真っ赤なドラゴンが突撃してくる。


「キャァァァァ! やめて、やめて、やめて! こっち来ないで〜!」


 彼女は目を閉じて、両手を前に突き出す。


「グォォ………… グッ……」


 目を開けると、ドラゴンが黒焦げになって絶命していた。


「え、何!? 何なの、いったい!」


「いや〜。お姉さん、すごいっすね。あの凶暴なドラゴンを一撃で仕留めるとは」


 慌てふためく彼女に、一人の少女が話しかける。少女は緑色の肌にボロボロの服をまとっており、人間によく似ているが人間ではない。


「あなたは誰?」


「見ての通りゾンビっす。とてつもない魔力を感じたのでその正体を確かめにきたら、お姉さんが魔法でドラゴンを焼き尽くしたのを発見したんすよ」


「そもそも何でドラゴンがいるの? 魔法って何? 本当に私があいつを倒したの?」


「お姉さん、何も知らないんすか?」


「死んだと思って、気がついたら、ここにいたの! そんな馬鹿みたいな状況を飲み込めるわけないでしょ!」


「へぇ〜、そりゃ大変っすね。んじゃあ、無知なお姉さんのために天才ゾンビちゃんが色々と教えちゃります!」


「は、はぁ……」


 ゾンビはこの世界の基本的な知識を説明する。人間の他に魔族が存在すること。魔族にも様々な種族があり、それらは対立していること。魔法が存在し、その効果は使用者の魔力に依存することなどだ。


「どうっすか? だいたいわかりましたか?」


「現実としては受け止め難いけど、言ってることは理解できた」


「それなら良かったっす」


「私がこの世界で生きていくためにはどうすれば良いの? 周りに人間が一人も見当たらないけど」


「ここは魔族の領域の奥地の奥地。まともな人間は足を踏み入れませんよ。多分、一番近い人間の集落でも数百キロ、下手したら千キロ以上の距離があります」


「は? じゃあ詰みじゃん。人間がいないモンスターだらけの空間に一人で置き去りって……」


「それは流石に可哀想っすね。しばらくの間、私が面倒を見てあげます! 私が住んでいるお城に案内するのでついて来て!」  


 出会ったばかりのゾンビをいまいち信用しきれていないが、このまま何もしなければ野垂れ死ぬだけだ。他に頼れるあても無いので、仕方なくついて行くことにした。 






 しばらく歩いていると、森が見えてくる。木々が生い茂る自然の中を進むと、人工物が現れた。


「これが私のお城っす!」


「ただの掘っ立て小屋じゃん!」


 ボロボロの木でできた穴だらけの小屋。これがゾンビの住処である。


「掘っ立て小屋っすけど、食糧はたくさん蓄えてありますよ。生活には困らないっす」


「そう。それじゃあしばらく世話になるね」


 こうして二人の共同生活が始まった。


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