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36.車を売るなら?

「いや〜、やっと魔王城に戻ってこれた! イヤッフゥ〜!」


 魔王は久々に帰ってきた自室で、大声で叫ぶ。


「前回のラスト、戦車で城を吹き飛ばしたせいで大変でしたよ。修理が終わるまで野宿して、本当にきつかったっす」


「だいたい俺が野宿しないといけないって、おかしいだろ! 俺はここの王様だぞ!」


「誰も泊めてくれなかったんだから、仕方ないじゃないっすか!」


「何でだよ! 何で皆、俺の扱いが酷いんだよ!」


 初めは尊敬されていた魔王であったが、民衆と接する内にだんだんと舐められるようになっていった。今ではすっかりいじられキャラで、野宿している姿もエンタメとして消費されていた。


「恐れられる君主よりも、民から親しまれる君主の方が良いって言うじゃないっすか」


「これは親しまれていると言えるのか?」


「ほら、つべこべ言ってないで仕事仕事! 魔王様が野宿している間にも業務はどんどん溜まっていくんすから」


「わかった、わかった」


 魔王は机に座り、書類とにらめっこする生活に戻る。

 しばらくの間、バリバリ働くと、休憩に入る。


「はぁ〜、疲れた。戦車を乗り回してリフレッシュしたい気分だわ」


「今、整備中なので乗れないんすよ」


「え〜、早く乗りたい、乗りたい!」


 子供のように地面に寝そべってだだをこねる。


「業者の方を訪ねてみますか? 魔王様が直々にお願いすれば、早く整備を終わらせてくれるかもしれません」


「お〜、行こう行こう!」


 二人は仕事をほっぽり出して、城の外へ飛び出した。






「ゾンビ様、魔王様、ようこそいらっしゃいました」


 整備工場の作業員のゴーレムが二人を出迎える。


「なかなか立派な工場だな!」


「魔王様が多額の寄付をしてくださったお陰です」


「あれ? 俺、整備工場に寄付なんてしたっけ?」


 耳打ちでゾンビに確認する。


「適当に仕事してるから忘れちゃうんでしょ! ハンコを押す前に書類にはしっかり目を通してください!」


「ちゃんと全ての書類に目を通してるつもりなんだけどなぁ……」


 魔王は不思議に思いながらも、自分がミスをしたのだと納得した。


「それでお二人は今日はどういうご要件で?」


「俺の戦車をここの工場に預けてるはずなんだけど、あとどれくらいで終わりそうだ?」


「予定では三日後となっております」


「もう少し早く終わらせられないか? 乗りたくて乗りたくてウズウズしてるんだ」


「上の方に確認してきますので少々お待ちください」


 ゴーレムは工場の奥の方へ引っ込んで行った。しかし、何分待っても戻ってこない。


「時間かかりそうっすね」


「そうだな〜。何もせず待っているのも暇だよな」


「それなら工場の中を見学していきませんか?」


「勝手に良いのか?」


「最悪バレたとしても、魔王様の権力でどうにかなりますよ」


「そうか、そうか。それなら少しお邪魔しよう」


 二人は勝手に工場の作業スペースへと足を進める。魔王の権力があるとはいえ、不法侵入がバレると色々と面倒くさそうなので、こっそりと歩く。


「見てください。あそこに魔王様の戦車がありますよ!」


「本当だ!」


 作業員の鬼型モンスター、オーガが腕を組みながら戦車を見つめている。


「どんな感じに整備するんだろうな」


「じっくり観察してみましょう!」


 二人は物陰に隠れ、戦車の様子を見る。


「ふむ…… アレでいくか……」


 しばらく考えごとをしていたオーガであったが、結論が出たようだ。戦車の目の前に立つ。


「ついに始まるみたいだな」


「ワクワクっすね!」


 オーガは右足を大きく上げる。そして、戦車に向かって勢いよく下ろす。


「おい! 何やって……」


「魔王様、大きい声出したら見つかっちゃいます」


「でもあいつ、戦車を蹴ったぞ!」


「きっと何かの間違いっすよ! 普通に考えて整備士が戦車を蹴るはずないっす!」


「ふ、普通はそうだよな?」


 二人は目を閉じて深呼吸をして落ち着くと、再び戦車に目を向ける。


「おらおらおら! 俺のキックを喰らいやがれ!」


 オーガは戦車を何度も何度も蹴り続ける。車体が少しずつへこみつつある。


「おい。あいつ、『俺のキックを喰らいやがれ』って言ったぞ」


「言いましたね」


「明らかにおかしいだろ」


「おかしいっすね」


「止めに行かないと!」


 魔王が物陰から飛び出そうとしたその瞬間、別の魔族が作業場に入ってきた。小さなホビットの魔族だ。魔王は慌てて物陰にとんぼ返りする。


「おい、こらお前! 何をしている!」


「ふ、副社長!?」


 オーガはキックを中断して、固まってしまう。


「あのチビ、副社長らしいっすよ」


「上司が来てくれて良かった。オーガの野郎をさっさとクビにしちまえ。あと弁償もさせろ」


 副社長はオーガに掴みかかる。


「ふざけんな、てめえ!」


「も、申し訳ありません!」


「その程度じゃ生温いんだよ! 俺が手本を見せてやる!」


 副社長は靴下にゴルフボールを入れて、それを戦車に何度も叩きつけ続ける。


「教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育!!!!」


「副社長、お見事です! 素晴らしい!」


 戦車はもうボコボコだ。


「おい、どうなってんだあれ! 副社長もキチガイじゃねえか!」


「ゴルフを愛する人に対する冒涜っす!」


「もう我慢ならん! おい、てめえら!」


 魔王は遂にブチ切れて、文句を言いに行く。


「ま、魔王様!? どうしてこんな所に!? あわわわわ……」


 副社長はわかりやすく狼狽える。


「俺の戦車に何してくれてんだ!」


「こ、これは特別な整備方法でして……」


「特別な整備方法?」


「一度ボコボコにすることで、より高度な整備をすることができるのです」


「ゾンビ、どう思う?」


「戦車をわざと破壊して、その後それを修理。もともと壊れていたことにして、高額な修理費用を騙し取ろうとしていたのでしょう」


「俺を騙そうとしていたのか? 魔族の王であるこの俺を?」


「そ、そのようなことは決してしておりません! 我がビックリモーター社は清廉潔白です!」


「社名からして胡散臭いんだよ! 周辺に除草剤を撒いたりはしていないよな?」


「ギクッ!」


「図星かよ!」


 周りの道は緑が豊かなのだが、この工場の周辺だけ綺麗サッパリあらゆる植物が消え失せている。

 あまりにも杜撰な経営体制の会社に対して、魔王はある決断をした。


「これは犯罪だな。お前ら、出てこい!」


 魔王はパンパンと手を叩く。すると、それを聞きつけた首狩り族達が工場内に押し寄せる。


「やれ!」


 首狩り族は副社長を始めとする社員の首を根こそぎ狩り取った。


「次はもっとまともな整備工場を探しますね」


「頼むぞ、マジで」


 一連のトラブルで身も心も疲れ果てた二人は、魔王城に戻って泥のように眠った。


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