35.魔王軍の軍事力
満月が輝く夜。魔王は机に向かって、一生懸命仕事に取り組んでいる。山積みの書類をサクサクと高速で処理していく。
「おちんちん」
「急に何言ってるんすか!」
何の脈絡も無く急に下ネタを言った魔王に対して、ゾンビは鋭いチョップを入れる。
「ずっと仕事してると、ストレス溜まってくるんだよ。ストレス溜まると、下ネタ言いたくならないか?」
「う〜ん、まあわからなくもないっす」
極度の疲労状態に陥っている時、とんでもないことを口走ってしまうのはあるあるだ。特に深夜だと、その傾向が強い。
「すげえ疲れてきたなぁ…… このままじゃ下ネタ言い過ぎてノクターン送りになるぞ」
「そろそろ寝たらどうっすか?」
「珍しいこと言うな。最近、寝ないで仕事しろってうるさかったのに」
「明日は、朝早いので」
「明日、何かあったっけ?」
「魔王軍の戦力がどれ程になったか視察に行くんすよ。王国軍といずれまた衝突することになるでしょうし、その時のための備えっす」
「あ〜、そうだったな。んじゃあ寝るわ」
「私も寝ます!」
「今日は静かに寝ろよ。最近、お前のいびきがうるさいせいで、よく眠れないんだよ」
「わかりました!」
二人は寝所に入って、目を閉じた。
「なんて爽やかな朝! 今日は視察日和っすね!」
「…………」
ゾンビと魔王は、目的地を目指して町中を歩く。
「魔王様、なんか元気ありませんね。嫌なことでもありましたか?」
「ああ、あったよ! ついさっきまでな!」
「え、なんすか?」
「お前のいびきがうるさすぎて、結局ほとんど寝られなかったんだよ!」
「大げさっすよ。言うほど、私のいびきはそこまで大きくないでしょう」
「お前、ふざけんなよ! 今度いびきかいた時に録音してやるわ。それを一晩中お前の耳元で流してやる。気が狂うぞ」
「良いっすよ。受けて立ちましょう。自分のいびきがどんなものか興味あるんで」
「絶対、後悔するからな」
いつも通りのアホな会話をしながら歩き続けていると、ついに目的地に到着した。
「よし、練兵場についたな」
練兵場とは、その名の通り兵士を鍛える場所である。戦闘員を大量に雇ったが、数だけ揃えても意味は無い。一人一人の強さを極限まで引き出さなければ、王国軍には勝てないのだ。
魔王は練兵場の中へ足を踏み入れた。魔族達は武器の素振りをして、戦いの訓練をしている。
「お前ら、やってるか〜?」
陽気に呼びかけてみるが、返事はいっさい帰ってこない。わざわざ雇い主が視察に来ているのにだ。
「おい、ゾンビ。俺って、そんなに嫌われてたか?」
「無視してるわけじゃないと思いますよ。皆の目を見てください」
がむしゃらに武器を振るう魔族達の目は真剣その物だ。武器以外のことは目にも耳にもを入らない。ただ強くなるためだけに精進している。
「あいつらガチだな」
「彼らは家族や友人を王国軍に殺されていますからね。人間を殺したい思いは皆一緒っす」
怒りより強い原動力は無い。怒りは生物の力をどこまでも引き上げる。
「注目!」
教官が声を上げると、戦闘員達は練習をピタリと止めて注目する。魔王への対応とは大違いだ。
「次の訓練だ! まずは二人組を作れ!」
魔族達は近くにいる者と二人組を作るが、奇数なので一人だけ余ってしまった。仕方が無いので教官と一緒に組むことになった。余り者の目は死んでいる。
「あれマジでやめてほしいよな。学生時代のトラウマが蘇るわ……」
「魔王様、組む相手がいないせいでメンタルやられて、一時期不登校になりましたもんね。毎晩泣くので、よく膝枕してあやしてあげてました」
「んぐぅぅぅぅ……」
魔王は黒歴史を思い出してしまい、胃痛に襲われ腹を押さえる。
「これから実戦訓練を行う。はじめ!」
二人組になった戦闘員達は武器を振り回して戦う。お互いが相手を殺すつもりで戦っているので、どのペアも白熱している。
「これだけ強ければ、王国軍に負けることは無さそうっすね」
「ここの視察はこれくらいで良いか。次はどうする?」
「兵士の次は、武器じゃないっすか?」
「でも武器工場はこの前、見に行ったよな」
「じゃあ最新兵器でも見に行きません?」
「最新兵器?」
「先代が生前作ろうとしていた物らしいんすけど、完成前に死んじまったんすよ。手帳にその作り方が書いてあったのでその通りにやってみたら、最近完成したらしいっす」
「それはぜひとも見てみたい!」
二人は兵器の保管場所へ向かった。
「この倉庫に保管してあるっす!」
「早く見せてくれ!」
「ではご対面しちゃいましょう! ポチッとな」
ゾンビがボタンを押すと、倉庫のシャッターがゆっくりと開く。中の兵器が姿を現す。
「じゃじゃーん!」
「うわ、何だこれ!」
車輪と大砲がついた巨大な塊が視界に飛び込んでくる。初めて見る代物に魔王は度肝を抜かれた。
「魔王軍の最強兵器、戦車っす!」
「戦車!?」
「動きながら高火力で砲撃できるめちゃめちゃ強い乗り物っす!」
「うひょ〜、かっけ〜! 乗っていい? ねえ、乗っていい?」
「動かすのに莫大な魔力が必要なので、本来は複数人で操縦するんすけど、魔王様なら一人で大丈夫でしょう。乗っていいっすよ!」
「よっしゃ!」
二人で戦車の中に入る。
「えーっと、どうすればいいんだ?」
「このレバーが前に進む。こっちが右折で、こっちが左折。これがバックっすね」
「ほうほう。動かしてみるか」
「それでは、ここのエネルギー炉に魔力を注入してください」
「うぉぉぉぉ!」
魔王が力を込めると、魔力が機体を駆け巡り、戦車がガタガタと音を立て始める。
「よ〜し、出発進行!」
レバーを倒し、戦車は動き出す。町中を走り回り、人々の注目を浴びる。
「このまま魔王城まで帰ってみましょうか」
「おう!」
操縦にすぐに慣れ、戦車は滑らかに進んで行き、魔王城の目の前に到着した。
「なかなか面白いな!」
「他にも色々な機能があるんすよ!」
「へぇ〜、ちょっといじくり回してみるか」
「あっ、その赤いボタンだけは押しちゃ駄目っすよ!」
「え、押しちゃった……」
次の瞬間、周囲に爆音が響き渡る。そして、目の前の魔王城から火の手が上がった。
「あれ? 俺また何かやっちゃいました?」
「なんて安直な爆発オチ……」




