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33.再スタート

 王国軍との戦いが一段落し、魔王は日常を取り戻していた。魔王城の自室で悠々自適に暮らしている。


「やっぱり、自分の部屋が一番落ち着くな〜。あのアパートは地獄みたいに狭かった」


「私は狭い家も好きだったんすけどね。押し入れの中ってすごく落ち着くんすよ」


「なら、俺の部屋のクローゼット貸してやるよ。今日から毎日そこで寝れば良い」


「やった〜!」


「アンデットって、本能的に暗くて狭い所が好きなのかな……」 


 ゾンビはクローゼットの中に飛び込む。早速、キラキラにデコって、自分好みの空間を作り上げる。そして、その中に布団を敷いてゴロゴロして過ごす。


「魔王様、失礼します」


 扉をノックして、一人のスケルトンが室内に入ってくる。魔王軍に新たに加入した下級戦闘員だ。


「お〜、ガイコツ君! こんにちはっす!」


 ゾンビはクローゼットから飛び出して、スケルトンに飛びつく。同じアンデットモンスターなので、ゾンビはスケルトンに親近感を持っている。


「何の用だ、ガイコツ。俺は疲れてるから、手短に話せ」


「王国軍を追い出したことで、魔王城の城下町にもともと住んでいた者達が戻ってきました。彼らから色々な要望が届いているのて、目を通しておいてください」


 城下町に住んでいた者は、王国軍により町を占拠している間、近くの森や洞窟で息を潜めていた。殺されてしまった者も多くいる。魔王が戻ってきたことで、久々の帰郷となる。


 スケルトンは書類の山を机に置くと、そのまま退室していった。


「いつまでもダラダラはしていられないっすね。魔王様、仕事しましょうか」


「いや、無理だけど」


「え、無理?」


「だって何百年も生きてきた中で、魔王としての仕事なんて一度もしたことねえぞ。全部、幹部達に丸投げしてたからな」


 魔王はほぼニートに近い生活をしており、たまに行われる会議の時以外は、部屋に籠もってずっとゾンビと遊んでいた。だが、それでも優秀な部下が多くいたため、何とかなっていた。


「よくよく考えたら、魔王様って無能っすよね」


「トップが無能でも組織がしっかり回るしくみを作ってくれた先代を敬え」


「魔王軍が一度崩壊したせいでそのしくみはパーになったので、これからは魔王様が先頭に立つ必要がありますよ」


「うわぁ〜、マジか」


「ほら仕事、仕事!」


 魔王は長年放置されて埃をかぶっていた仕事机の前に座り、書類とにらめっこする。すぐに睡魔が襲ってくるが、全力で目をカッ開いて何とか起きている。

 眠気と奮闘すること丸一日、魔王はなんとか全ての書類に目を通すことができた。


「あぁ〜、疲れた! もう寝る!」


 こんなにストイックにデスクワークに取り組んだのは初めてだ。溜まった疲れが一気に全身を襲う。


「何言ってるんすか。まだ書類を読んだだけじゃないっすか。せめて一つくらいは解決案を出さないと」


「ああもう、めんどいな〜! 母さんは、どうやって乗り切ってたんだよ!」


 先代の魔王はこれくらいの仕事はそつなくこなしていた。魔王は改めて母親の偉大さを思い知った。


「寄せられた書類には、どんなことが書いてあったんすか?」


「内容の大半を占めていたのが、もっと生活環境を改善して欲しいとの意見だ。今の状態じゃ、まともに暮らすこともままならないらしい」


「城下町は完全に荒れ果てていますもんね〜」


 王国軍は魔王城を放棄して撤退する直前に、城下町をことごとく破壊した。どうせ敵の手に落ちるなら、再利用不可能な程にぶち壊してやろうという思考である。


「とりあえず、第一が食糧と水の確保だな。生物が生きるために欠かせないから」


「水は魔王様の魔力でどうにかなりますよね? 川を氾濫させられるほどの力があるっすから」


「そうだな。今は邪神器の力があるから、もっと多くの水を生み出せるぞ」


「問題は食糧っすね。食糧庫の中は空っぽ、畑も牧場も破壊されているので、この場で調達するのは無理っす」


「とりあえず魔王軍が兵糧として貯め込んである分を放出しよう。それでも足りない分は他の町から輸送する。フーコとかレルヘンは、まだ余裕がありそうだからな」


「住む場所はどうします? 家屋もぶち壊されて、帰る場所を無くした魔族が多くいます」


「サイクロプスのおっさん達に依頼して、仮設住宅を造る。とりあえずしばらくの間はそこに住んでもらって、少しずつ家を修復していく形になるな。ゾンビ、手配できるか?」


「わかりました。作業員の皆に頼んでおきます!」


 ゾンビは部屋の外へ飛び出して行った。仮設住宅の建設や食糧の確保について、担当者に細かい指示を出す。


「ただいま戻りました!」


「うわ、早いな。一瞬やんけ」


「私、できる子なんで」


「これでとりあえず住人の安全は確保できたな。これでようやく眠れる……」


 魔王はベッドに横たわると、すぐに眠りに落ちる。


「寝るなー!」


「うわっ!?」


 思い切り頬をビンタされて、ベッドから飛び起きる。


「何で起こすんだよ!」


「今やったことはその場しのぎにしかなりません! 継続的に生活環境を整えられないと、結局は意味無いっすよ!」


「それはおいおい考えていくさ。だから今日はもう寝かせてくれ」


「おいおいっていつっすか?」


「え〜、う〜ん…… 明日! 明日から取り組んでいくよ!」


「絶対っすね?」


「ああ、絶対やる。約束する!」


「それなら眠ってよ〜し!」


「よっしゃ!」


 魔王はベッドにダイブして眠りについた。

 翌日から、地獄のような激務に襲われるようになる。


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