32.里帰り
王国軍の砦を次々と陥落させ、魔王軍の進軍は順調だ。ついに魔王城の直轄領にまで到達した。
「ああ、懐かしいぜ。もうすぐ俺の手に戻ってくるんだな」
「魔王様、油断は駄目っすよ。魔王城は今や王国の第二の首都。王国軍の主力を固めているに違いありません」
「わかってるよ。ちゃんと気を引き締めて行くさ」
魔王は自分の頬をペチペチと叩いて喝を入れた。
「お前ら、武器とか防具って結構高く売れるらしいぜ。敵兵を殺したらその持ち物は自分の物にして良い。だから一人でも多くの人間をぶち殺せ!」
その発言で士気が上がり、魔王軍は一気に魔王城に攻めかかった。
「男爵! 魔王軍が攻めてきました!」
「よし、わかりました。迎え撃ちましょう」
魔王城の守備を担当しているマクサ・メラルド男爵が指揮をとるため立ち上がる。
元々はキハラヤスの仕事であったが息子と共に戦死したため、臨時的に分家筋のマクサがその仕事を引き継いでいる。
「敵の数はざっと一万。こちらは二万います。一人一人が己の役目を抜かりなく全うすれば勝てるでしょう」
「そ、それが……」
「どうしました? 言ってご覧なさい」
「兵士達が戦うことなく、次々と逃げ出しています!」
「なん…… だと……?」
兵士達が不安を抱える要素は数多くある。
まず、レルヘンでのキハラヤス伯爵、ゴモラ子爵、サキュロス子爵の戦死。貴族が戦場で同時に三人も死ぬなどなかなかあるものではない。
そしてフーコの街でのノスファルドの敗北。王国のヒーロー的存在であるノスファルドが負けたということは、人々に大きな衝撃を与えた。
更に、魔王軍の凄まじい攻勢。砦が一瞬で落とされ、兵士達も皆殺しにされたという情報は、聞いた者を震え上がらせた。
そして何よりも、指揮官がマクサであること。キハラヤス達を見殺しにして敵前逃亡したことは末端の兵士にも伝わっている。自分のために味方を見捨てる人間に、誰がついていきたいと思うだろうか。
「くそっ…… かくなる上は!」
マクサは思い切った決断を下した。
「う〜む、敵が全然出てこないな」
魔王は目の前の魔王城を眺めながら呟く。
「士気の低い兵士達はとっくに逃げ出し、残った僅かな兵は徹底的に籠城する構えっぽいっすね」
「時間を稼いで、王都からの援軍でも待つ気か? だとしたら、あまり長引かせたくないな」
「いくつもの砦を陥落させたように、魔王城に向かって邪神器の力をぶっ放してみては?」
「アホかお前。魔王城を取り戻すための戦いで魔王城ぶっ壊したら意味無いだろ」
「あ〜、確かに。とりあえず、威嚇のために城の周りに黒い雷を落としまくってみては? ビビった相手が逃げ出すかも」
「逃げ出さずに今も城内に残っているのは意志の固い奴らだから、脅しは意味は無いと思うけど。まあ、ダメ元でやってみるか」
魔王は雷を引き寄せようと、天に右手を掲げる。その瞬間、城の方から一人の男が魔王に向かって走ってくる。
「お待ちください! あなたは魔王様ですね?」
「そうだが。お前は人間だな。名前は?」
「私はマクサ・メラルドでございます。現在はこの魔王城の管理を任されています」
「この戦いの大将というわけだな。そんなお前が何の用だ?」
「この戦い、もはや王国軍に勝ち目はありません。魔王城を明け渡しますので、私を魔王軍に加えていただけないでしょうか? これからはあなた様に忠誠を誓います」
マクサは媚びるように言う。
「自分が助かるために、人間を裏切ると?」
「きっとお役に立ちますよ。ですので、どうか……」
「魔王軍は常に人手が足りないから、新メンバーなら大歓迎だ!」
「そ、そうですか! ありがとうございます!」
「でも生憎、募集しているのは魔族だけなんだ。人間は全員殺すと決めているからな」
「そ、そんな……」
「俺はお前みたいな奴が大嫌いだ。消えろ」
魔王が手をかざすと、マクサはドス黒いエネルギー弾の中に閉じ込められる。
「うぎゃぁぁぁぁ!」
「その球体の中には、この世のありとあらゆる苦しみが詰まっている。どうだ、地獄だろう?」
「うぎぃぃぃぃ!」
「でも簡単には死ねねえよ。ゆっくり、ゆっくり痛めつけてじわじわ殺す。お前の用なクズにはお似合いの末路だな」
「んぐっ……! んぐっ……!」
マクサは球体の中でもがき苦しみ続ける。
「指揮官のいなくなった軍は脆い。ゾンビ、さっさと城を取り戻すぞ」
「あいあいさー!」
マクサが裏切ろうとして死んだという情報が伝わり、統率の取れなくなった王国軍は瞬く間に瓦解。魔王軍はほとんど損害を出さずに魔王城を奪還することに成功した。
「我らが魔王軍の勝利に乾杯!」
「「「乾杯!」」」
魔王城は、王国軍を追い出して魔族が完全に占拠した。その祝勝会が行われている。
「皆のお陰で俺はこの城で再び王として君臨することができる。ありがとうな!」
魔王は涙を堪えながら、感謝の気持ちを述べた。
「そして、活躍した者には約束通り褒美を与えよう。呼ばれた者は俺の前に来るように」
「いよっ!」
「待ってました!」
「俺を大金持ちにしてくれ!」
お待ちかねの時間が訪れ、魔族達から歓声があがる。
「まず、戦いの初期から果敢に戦ってくれたフーコの街の出身者からだ。サイクロプスのおっさん!」
「え、俺か?」
「最初にキハラヤスが攻めてきた防衛戦において、強固な砦を作って勝利に貢献してくれた。その功績は大きい。よって、褒美を与える」
金貨や宝石がパンパンに詰まった袋を手渡した。
「こ、こんなにもらって良いのか!?」
「ああ。これから王国軍と戦うにあたって多くの建物を建造することになるだろう。その時はまた頼っても良いか?」
「おう、任せておきな!」
魔王とサイクロプスは固い握手を交わした。
「そして、次。魔王軍が崩壊していた間もフーコの街の治安を維持し続けてくれた功労者、警察署長のワーウルフ!」
「いやあ、まさか犯罪者だった君が魔王になるとはね」
「おい、待て。犯罪者が魔王になったんじゃない。もともと魔王だった奴がたまたま犯罪者になっちまっただけだ」
「どちらでも良いけど。とりあえず、褒美はありがたくもらっておこう」
サイクロプスとは対照的に、ワーウルフの反応は薄かった。だが、心の中では魔王軍の復活を大いに喜んでいる。
「んじゃあ、次。エルフのルーシー!」
「はーい!」
「お前が連れてきてくれたエルフの戦闘員は、今回の戦いで大活躍してくれた。本当にありがとう」
「わぁー、金目の物がたくさん! これだけあれば……」
「ギャンブルは禁止な」
「は、はい……」
この後、魔王が裏で手を回してルーシーはカジノに出入り禁止になった。
「んで、同じくエルフ族のメル!」
「はい!」
「魔王軍がこうして復活できたのは、お前がくれた邪神器のお陰だ。メルこそ、この戦いの一番のMVPだよ!」
「そんな褒めていただけるなんて、嬉しいです。ありがとうございます!」
「さあ、お前には一番多い金額の財宝を用意しておいた。受け取ってくれ」
「財宝なんていらないです。お金が必要な時は自分で調達するので」
「え?」
「それより、魔王様と結婚したいです。私にとって、それが何よりのご褒美です」
「あ、えっ〜と。それはだな……」
「…………」
魔王が言いよどんでいると、メルは黙って短刀をちらつかせる。ものすごく怖い。
「そのことについては、また今度話し合おう。今日のところは、この財宝をもらってくれ」
「わかりました」
その後も、活躍した魔族達に褒美が与えられた。
この祝勝会は三日三晩続いた。




