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30.邪神器お披露目

「そうか。返答は無しか」


「はい。総攻撃を始めますか?」


「気は進まないが、仕方ないな。総攻撃を始めよ!」


 王国軍が続々とフーコの街に突入していく。


「もう、戦うしかねえか!」


「どうにでもなれ!」


 迎え撃つ魔族達はヤケクソ気味だ。がむしゃらに武器を振り回している。

 両軍が激突する直前、そこに救世主が現れた。


「テレポート成功っす!」


「うわ、王国軍の奴らすぐ目の前にいるじゃん!」


 戦場のど真ん中に、魔王とゾンビがテレポートした。突然、現れた二人に、魔族も人間も強く驚く。


「ノスファルド様! 不審な二人組が突然現れました!」


 ノスファルド公爵が、軍の最前列に姿を現す。


「久しぶりだな。イケメン貴族さんよ」


「おお、お前は魔王ではないか。そして、お供のゾンビ。最上級の魔法使いでも使いこなすことが難しいテレポートを使えるとは驚きだ」


「え? テレポートってそんなにすごいの?」


「そうっすよ。私、めちゃめちゃ練習したんすから!」


 ゾンビはドヤ顔で胸を張る。


「私の前に現れて、わざわざ殺されにきてくれたのか?」


「つまらない冗談はやめようぜ。死ぬのはお前の方だ」


「そうか。その言葉がどれほど本気なのか試してみるとしよう」


 ノスファルドは魔力で矢を増殖させ、魔王に向かって矢の雨を降らす。


「さ〜て。邪神器のお披露目会といこうか」


 魔王が矢の雨に向かって手をかざす。すると、ペンダントの宝石が激しく発光し、矢の雨はきれいさっぱり消え去った。


「な、なかなかやるではないか…… これならどうだ?」


 今度は放った矢を巨大化させる。そしてそれを連射し、魔王を確実に仕留めにいく。


「多分、結果は同じだと思うけどな」


 魔王が手をかざすだけで、全ての矢が消滅する。


「な、何!?」


「防御性能はよくわかった。次は攻撃性能を確かめるとしよう」


 天に向かって拳を突き上げると、黒い稲妻が発生する。ノスファルドは咄嗟の判断によりギリギリで避けることができたが、多くの兵士達に命中してしまい、命を落とした。


「前回、会った時よりも明らかに魔力が増幅している。そのペンダントのせいだな?」


「その通り! こいつがある限り、俺は無敵なんだよ!」


「全軍撤退せよ!」


 ノスファルドの判断は素早かった。たった一発の攻撃を見て、今の自分達に勝ち目が無いことを察したのだ。

 王国軍は反転して、撤退を開始した。しかし、ノスファルドと直属の家臣達はその場に留まり続ける。


「ノスファルド。お前は逃げなくて良いのか?」


「バカ言え。私が逃げたら、誰が撤退の時間を稼ぐのだ」


「兵を逃がすために、大将自らが殿軍を買って出るとは面白い。自分の命と引き換えに少しでも多くの命を救う決断をするとは泣けるじゃないか」


「勘違いするな。私はこんな所で死ぬつもりは無い。兵を逃した上で私自身も生還する」


「人生はそんなに甘くないぜ」


「どうかな」


 ノスファルドは矢を連射する。しかし、それらはすぐに消滅させられる。


「お前の攻撃は俺に届かねえんだよ! さっさと死にな!」


 魔王は黒い稲妻を落とす。


「セイントプロテクト!」


 ノスファルドは防御魔法を唱え、バリアを張る。しかし、バリアを貫通して攻撃が命中してしまった。


「ぐわぁぁぁぁぁ!」


 苦しさのあまりうめき声を上げるが、地面に膝をつくことはない。とっさに防御したことで、少しだけダメージを軽減することができたのだ。


「ふっ…… 魔王の攻撃も所詮そんなものか。大したことないな」


「強がりやがって。先代から受け継いだ最強の力だぞ?」


「私の華麗な弓には遠くおよばんよ」


 ノスファルドはまたもや矢を連射する。当然、邪神器の力で消し去られる。


「バカの一つ覚えみたいに弓ばっか撃ちやがって! そんなんで俺を倒せると思っているのか?」


「ここでお前を倒さなくても、兵を無事に帰還させられれば私の勝ちだ。私の目的はあくまで時間稼ぎである」


「お前なんか、この稲妻がまともに当たれば一撃で死ぬんだぞ!」


「その割には全然攻撃してこないではないか。さてはお前、防御している最中には攻撃できないのでは?」


「…………」


「図星のようだな。ならば、常にこちらが攻撃し続け反撃の隙を与えなければ良いだけのことよ」


 魔力でとにかく矢を量産し、魔王に向かって撃ち続ける。常に矢を増殖させ続け、途切れないように攻撃する。


「くそっ! 攻撃できねえ! ハァハァ……」


「息が上がってきているぞ。圧倒的な魔力を使う分、体力の消耗も激しいようだな」


「なんの! 俺がこの程度でバテるわけがないだろ!」


「さて、そろそろ兵も引き上げた頃だな。私もここらでお暇しよう。さらばだ」


「待ちやがれ! ダークネスヘルファイア!」


 黒い炎がノスファルドに向かって飛んでいく。


「セイントプロテクト! ぐわぁっ!?」


 バリアを使いダメージを軽減するが、それでも身体に大きな負担がかかる。ノスファルドは振り返ることなく、全力で走って撤退した。


「くそ! 待て! 逃げるな!」


 魔王は叫ぶだけが精いっぱいで追いかけることができない。初めて手にした圧倒的な魔力に、身体の方がまだ慣れていなかったのだ。


「畜生! せっかく最強の力を手に入れたのに、どうして!」


「手に入れた初戦で完璧に使いこなせるわけないっすよ。これから少しずつ慣らしていきましょう。ノスファルドの首は取り逃がしましたが、街を守ることができました。それで良いじゃないっすか」

 

「まあ、そうか。チャンスはこれからいつでも訪れるからな。今は街の皆を守れたことを素直に喜ぼう」

 

 とりあえずの勝利を噛みしめる二人の元にフーコの街の住人が駆け寄ってくる。警察署のワーウルフ達、サイクロプスを始めとする作業員のメンバーなど、見知った顔がたくさんだ。


「お前すげえな!」


「見どころのある奴だとは思ってたよ。俺だけは最初からお前の才能を見抜いていた!」


「流石この街の英雄だ!」


 住人達は円を作り、魔王を胴上げする。


「どうだ見たか、お前達! この俺の力を!」


 皆から賞賛され、魔王はすっかり有頂天になっている。


「それにしても、あんた。常人には扱えないとてつもない魔力だな。何者なんだ?」


「よくぞ聞いてくれたな! この俺の正体はな……」


 少し溜めた後に、高らかと名乗りを上げる。


「我こそは魔王である! お前達、魔族を救うため再び立ち上がったぞ!」


「…………」


「…………」


「…………」


 その場にしばらく沈黙が流れる。魔王は不安になって、動悸が止まらない。


「「「うぉぉぉぉ!」」」


「あの実力は間違いなく魔王だ!」


「我らの魔王が帰ってきたぞ!」


「魔王、ばんざ〜い!」


 住人達はついに魔王が魔王であることを認めた。魔王は胸を撫で下ろした。


「俺は魔王軍を再興する! お前達、ついてきてくれるか!」


「「「おう!」」」


 魔王軍は大きく躍進した。






「ハァハァハァハァ…… やっと、帰って来られた……」


 ノスファルドはボロボロの姿で、王都の自邸に帰還した。邪神器の圧倒的なパワーにより大ダメージを受けたその体。あと一撃でも食らえば死んでいただろう。


「旦那! よくぞ生きて帰って来た!」


 側近のシグマがノスファルドを迎え入れると、急いで応急処置を行い、身なりを整えさせる。


「旦那、すまねえ。俺がついていながら、レルヘン王国の侵攻は失敗した。大将のキハラヤス殿と息子のゴモラ殿を失う大敗北だ。どんな罰も受ける覚悟がある」


「聞いた話では、お前達はよく戦ったそうではないか。エルフ族の実力を見誤った私の責任だ」


「それが、相手がエルフ族だけならどうにかなりそうだったんだ」


「何? エルフ以外にも何かいたのか?」


「生き残った兵士達から、角と尻尾の生えた不審者と、テレポートを使いこなすゾンビが現れたとの目撃情報がいくつも上がっているんだ。補給部隊を壊滅させたり、キハラヤス殿を殺したのも、そいつらだと」


「そいつは恐らく魔王だろう。フーコの街で私も遭遇した」


「奴らは恐ろしく強い上に、テレポートでどこにでも現れる。奴らを倒さない限り、人間に平和は訪れない」


「この前、会った時より何倍も強くなっていた。恐らく、紫色のペンダントの影響だ。魔力を増幅させるペンダント、あれは何なのだろうか」


「それは恐らく邪神器と呼ばれる物かと」


「邪神器?」


「俺は元盗賊だから、特殊な情報網を持っている。旦那が言っているペンダントは、邪神器の特徴によく似ている。先代の魔王が使っていた装備の一つらしい」


「一つということは、他にもあるのか?」


「ああ。邪神の鎧、邪神のペンダント、邪神の腕輪、邪神の剣の四つらしい」


「一つでもあんなに凄まじい魔力だったのに、四つ揃ったとなればいよいよ人類は終わりだな。魔王よりも先に、我々が残りの邪神器を確保しなければ。シグマ、邪神器のありかを探っておけ」


「御意」


 指示が下るとすぐに、シグマは館から飛び出して行った。



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