3.中世ヨーロッパ?
「あぁぁ…… もう駄目だ。死ぬぅぅ〜!」
ゾンビの超高性能レーダーに従い、魔王達は三日三晩歩き続けた。大麻以外飲まず食わずなため、餓死寸前だ。服はところどころ破れて、身体には泥が付着している。とても魔族の王には見えない。ただの浮浪者のようだ。
「あ〜、終わった。もう人生終わった……」
「魔族の王なんだから、もっとしっかりしてください」
「お前は余裕そうだな……」
「ゾンビは何があっても死なないっすからね」
「いっそのこと今この場で自殺して、俺もゾンビになろうかな……」
「そんなこと言わないで、元気出してくださいよ〜! あ、何か見えました!」
二人の視界の先に、集合した建物が見える。そこそこ栄えた街だ。
「久しぶりの人工物! ずっと木と草しか見てなかったから昂るぜぇぇぇぇ!」
「やっほ〜い!」
「久しぶりの飯にありつける! そしてフカフカのベッドで寝られる!」
魔王は残った全ての力を振り絞り、街に向かって走る。
「待ってください!」
「ふげっ!?」
ゾンビは全力疾走中の魔王の首根っこを掴み、動きを止める。
「何すんだよ!」
「あれが魔族の街なら良いんですけど、人間の街だったらどうします? 煮て焼いて食われますよ」
「あ〜、それはまずいな…… ゾンビ。お前、偵察に行ってこいよ。死なないんだろ?」
「普通の攻撃じゃ死にませんが、浄化魔法をくらったら除霊されちゃうんで。人間の街だったら、普通に僧侶とかいるでしょ」
「なら、どうするか…… あ、良いこと思いついたぞ!」
「何すか?」
「人間のふりしようぜ!」
「私ら魔族っすよ? 人間のふりなんてできますか?」
「よく考えてみろ。俺は角と尻尾が生えてるだけで、お前は肌が緑なだけ。人間とあまり見た目変わらんだろ。魔族コスプレしてる人間ってことで突き通そう」
「そんなんでいけるんすか?」
「もう腹減って死にそうなんだよ。イチかバチかいくしかないだろ」
「わかりました!」
二人は全力で人間っぽい雰囲気を醸し出しながら、街に近づいていく。そして、入口の目の前に誰かが立っているのを発見する。
「あっ。あれ、オークじゃね? てことは、モンスターの街だ。やったな!」
「いや、安心するのはまだ早いっす。オークのような見た目をした醜い人間かも」
「すげえ失礼なこと言うんだな、お前。とりあえず話しかけてみよう。ども〜、こんちは〜」
魔王は親しみを持ってもらいやすいよう、都会の陽気な兄ちゃん風に、オークに話しかける。
「ここはフーコの街です」
「あ、そうなんだ。この辺で飯が食える所ってあるか? 腹減って死にそうで」
「ここはフーコの街です」
「それはもうわかったから。飯食える場所は?」
「ここはフーコの街です」
「いや、だから! 飯食いたいんだけど! あと道具屋の場所とかも知りたい!」
「ここはフーコの街です」
「おい、こら! 俺のことを馬鹿にしてんのか?」
魔王はブチギレて、拳を振り上げる。
「魔王様、何言っても無駄っすよ。このオークさん、同じことしか喋れない呪いにかかってます」
「何だって? 本当か?」
オークはコクコク頷く。
「にしても、何で呪いなんか」
「街や村の入口には、必ずそこの名前を告げる人がいるじゃないっすか。その人員は呪いによって確保されているっす」
「はえ〜、残酷だな」
「この街をチラッと覗いた感じ、モンスターの街であることは間違い無さそうっす。とりあえず腹ごしらえに行きましょう!」
「そうだな」
呪いにかかったオークをスルーして二人は街の中に入る。石畳の街並みに西洋風の建物、まさに中世ヨーロッパのような世界が広がっている。
「あそこのレストラン入ってみようぜ」
「うっす」
街中をぶらぶら歩き、最初に目についた飲食店に入った。
ランチタイムは既に終わっているため、店内に客はあまり入っていない。今すぐ何かを食べたい魔王にとっては好都合だ。
「いらっしゃいませ。何にしますか?」
魔王達がテーブル席に着席すると、店員のゴブリンが注文を取りにくる。
「う〜ん、とりあえず山盛りポテトフライで。餓死しかけてるから、なるはやで」
「かしこまりました」
それからほんの数分で店員はポテトフライを持ってきて、魔王達の席に置いた。
「いただきます!」
魔王はポテトフライをむさぼり食う。フォークを使わず、手づかみで原始人のように食べまくる。
「あ〜! うめえなぁ! 久しぶりの食事は五臓六腑に染み渡るわぁ〜!」
「魔王様、ポテトフライなんて食べていいんすか?」
「え、駄目なのか?」
「いや、一応中世ヨーロッパが舞台なんですし、ジャガイモがあったらまずいでしょう。ジャガイモがヨーロッパに伝わったのは近世っすよ」
「そんな細かいこと気にすんな。うまければ何でも良いだろ」
「確かにそうっすね。私にもわけてください」
「ほらよ」
二人はあっという間にポテトフライを平らげた。
「あ〜。まだ食えるな。次、何頼もうか」
「ん〜。じゃあ、このチーズインハンバーグっていうの食べたいっす!」
「品揃えが完全にガストじゃねえか」
「店員さ〜ん。チーズインハンバーグ二つ」
「かしこまりました〜」
店員は厨房に引っ込むと、数分後にはチーズインハンバーグを運んでくる。
「やけに早いな。ちゃんと料理してるのか?」
「多分、レンチンっすよ」
「ええ…… 中世ヨーロッパなのに?」
「細かいことは気にしないんじゃないんすか?」
「ジャガイモは細かいことだけど、流石にレンジはあかんやろ」
ちなみにこの世界には水洗トイレがあり、普通に水道が使える。窓から大便を投げ捨てる実際の中世ヨーロッパよりも衛生的だ。
「電気の力じゃなくて、魔法の力で動かしてるんですよ。多分」
「まあ、そういうことにしとくか。魔法は万能だもんな。食おう、食おう」
「はい!」
疑問を解消すると、二人はチーズインハンバーグをまたたく間に完食する。
その後も色々な商品を注文し、旅の間取れなかったカロリーをしっかり回収した。