28.邪神器
王国軍を撃退し、レルヘンでは国中がお祭りムードになっていた。
魔王とゾンビは、ルーシーと共に繁華街を回っている。
「君、本当は強かったんだね! 見直しちゃった!」
ルーシーは魔王と肩を組む。
「お前も食糧や武器の用意、敵兵の偵察など、目立たない所でよく働いてくれたよ。これは皆で掴みとった勝利だ!」
「いい事言うじゃん! 君も今日から私の親友だ!」
「うぇ〜い!」
「ちょっと、魔王様。やめてください! ルーシーちゃんは私の友達なので、奪わないで!」
「んじゃあ、三人で肩を組もう!」
「「「うぇ〜い!」」」
三人はとてつもないハイテンションになった。
「気分が良いからゴブリンの串焼きを奢ってあげるよ!」
「ありがとよ!」
魔王は長きにわたる滞在でエルフの食文化に慣れ、あんなに嫌悪していたゴブリン肉を食べられるようになった。フーコの街に戻り、ゴブリンに会ったらとてつもなく気まずくなるだろう。
「いや〜、美味かった。ごちそうさま!」
「ルーシー様!」
一人のエルフがルーシーの元に駆け寄り、耳打ちする。
「そうか、そうか。伝えてくれてありがとうね!」
「ん? どうしたんだ?」
「女王様が君を呼んでるってさ。話したいことがあるみたい」
「何だろう。愛の告白かな」
「それは無いよ。君は女王様のタイプとは真逆だからね。戦争に勝ったお礼とかじゃない?」
「そうか。それは楽しみだ」
魔王はウキウキしながら城へ向かった。
城につくと、魔王は玉座の間に通される。
「女王様。俺がわざわざ会いに来てやったぜ!」
「来たか、魔王よ」
「え…… 俺のこと今、魔王って……」
「戦いぶりを見て確信した。お前は紛れもない魔王だ」
「やっと認めてくれたか……」
魔王は目から涙が落ちそうになる。
「お前のお陰で我が国は窮地を脱した。感謝する」
「へへっ。ご褒美とかくれちゃっても良いんだぜ?」
「金ならいくらでもやろう。そういえば、お前は捜し物があってこの国に来たらしいな?」
「そうそう。骨董商のエルフを探してるんだよ。確かメルとかいったかな」
「彼女なら今日ちょうど商売の旅から帰ってきたぞ」
「お、マジか! 早く会いたい!」
「ここに呼び出してやるから少し待っていろ」
「サンキュー!」
しばらく待っていると玉座の間に骨董商のメルがやってくる。青い髪を持つ、丸眼鏡をかけた小柄で可愛らしいエルフだ。
「どうもこんにちは。メルって言います」
「俺は魔王だ。よろしくな!」
「よろしくお願いします。私に用があって、わざわざお越しくださったとか。どんなご用です?」
「この古文書に見覚えはあるか?」
ドワーフからもらったボロボロな本を見せる。
「はい。もともと私が所有していた物です。重要そうな書物ですが、解読はできませんでした」
「実はこの書物な、邪神器の隠し場所が書いてあったんだよ」
「なんと! 邪神器の!?」
「ああ。この情報に従って、邪神器の一つである鎧を手に入れた。女性用の装備で使い道が無かったから、今はアパートのオブジェになってる」
「なんてもったいないことを……」
「それで、別の邪神器が必要でな。古い物をたくさん持っているあんたなら、他の邪神器に関する書物も持っているんじゃないかと思って会いにきたんだ」
「残念ながら邪神器に関する書物はありません……」
「そうか……」
魔王は落胆する。邪神器が無ければノスファルドに勝てない。それは魔族の衰退に繋がる。
「でも邪神器そのものなら持っていますよ」
「ふ〜ん…… って、ええ!? 今、何て言った?」
「今回の旅では商売のついでに世界中のダンジョンに潜っていまして。とある幽霊船を探索していたら、先代の魔王の時代の四天王を名乗る幽霊が現れたので、倒したら邪神器を譲ってもらえたんです」
「あんた見かけによらず、武闘派なんだな……」
「骨董品を集めるのは常に命がけです」
「良かったら、邪神器を売ってくれないか? 女王様が俺にお金をたくさんくれるらしいから、それで買い取らさてもらおう。いくらだ?」
「百兆ですね。邪神器にはそれだけの価値があります」
「ふぁっ!?」
魔王は腰を抜かす。
「ですが、あなたは祖国を救った英雄だと伺いました。そんな方からお金は取れません。無料で差し上げます」
「む、無料で!? 良いのか?」
「その代わり、その邪神器を使って魔族を守ってくださいね」
「ああ、約束する! でも無料でもらうのはなんか悪いな。何かしら恩返しをしたいんだけど」
「う〜ん…… それなら、私をギュッと抱きしめてください!」
「え? ん?」
「ひと目見た瞬間キュンときちゃって…… あなたみたいな人がタイプなんです」
「え、あ、そう。そりゃ、どうも」
照れながら、魔王はメルを抱きしめてあげた。
「魔王様が好きだなんて、メルさんって男性の趣味悪いっすね……」
「あんなきしょい男に惚れるとはな……」
抱き合う二人を、ゾンビと女王は冷ややかな目で見つめていた。
「ありがとうございます。邪神器をお渡ししますね」
メルは宝箱を差し出す。
「装備する資格の無い者が触ると天罰が下るそうなので、箱ごとのお渡しになります」
「開けてみても良いか?」
「はい。あなた程の実力を持つ方ならきっと大丈夫でしょう」
魔王は宝箱を開ける。中に入っていたのはペンダントだ。ぶら下げられた紫色の宝石からは禍々しいオーラが漂っており、常人が触れれば間違いなく死に至る。
「よし。いっちょ、やったるか」
魔王は目を閉じて大きく息を吸って、覚悟を決める。もしかしたら邪神器は自分に適合せず死ぬかもしれない。それでも、強くなるためには必要な物なのだ。
箱からペンダントを取り出し、首にかけた。
「うぁっ! うぐわぁぁぁぁ!」
黒い稲妻が全身を駆け巡り、魔王は地獄の苦しみにのたうち回る。
「ぬわぁぁぁ! うぎぃぃぃぃ!」
「魔王様、大丈夫っすか…… うわぁっ!?」
ゾンビが心配して駆け寄ろうとするが、邪悪な力により弾き飛ばされてしまった。
「ぐぎぎぎぎぎ…… はぁっ!」
魔王は己の持てる全ての魔力を放出する。すると、黒い稲妻が一瞬にして消え失せた。
「ハァハァハァハァ…… 適合…… したのか?」
「やりましたね! 魔王様!」
「力がどんどんみなぎってくるぜ! これで俺は無敵だ!」
「女王様、大変です!」
最強の装備を手に入れて盛り上がっていると、玉座の間に慌てた様子のエルフが飛び込んできた。
「申せ」
「王国軍のノスファルド公爵が二万の兵を率いて出陣。目にも留まらぬ進軍スピードでフーコの街に攻撃をしかけ、陥落寸前だと」
「それはまずいな……」
「おい、女王様! 俺はフーコの街に戻る! あそこの奴らには日頃から世話になってるんだ。どうにかして守ってやりたい」
「ああ。絶対死ぬなよ。お前は魔族を束ねる王なのだから」
「任せとけ! 死ぬのはノスファルドの方だ! ゾンビ、行くぞ!」
「はい! テレポート!」
二人は急ぎ、フーコの街へ向かった。




