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27.レルヘン防衛戦③

「さあ、皆の者! さっさと撤退しますよ!」


 遊撃隊を率いていたマクサは勝手に戦線離脱をする。そんな彼の元に、ゴモラの使者が駆けつける。


「マクサ様! ゴモラ様に加勢してください! 何故撤退されるのですか!」


「見ての通り、戦況は圧倒的劣勢。私が加勢したところで何も変わりません。もしかしたら私自身が討ち取られてしまうかも。キハラヤス親子のために命をかける義理はありません」


「そ、そんな……」 


「では、さようなら。あなたもお気をつけて」


 早期に見切りをつけたマクサは、ほとんど犠牲を出さずに撤退することに成功した。


 




「申しあげます! サキュロス・マキュロ子爵、戦死。マクサ・メラルド男爵の部隊が戦線離脱。ゴモラ・メラルド子爵の部隊は壊滅寸前。お味方、劣勢でございます!」


「…………」


 報告を聞いたキハラヤスは声も出せない程、絶望する。


「ゴモラ様より伝言があります!」


「申せ」


「もはや勝利することは不可能。自分が敵兵を食い止めている間に、伯爵は撤退するようにと」


 当主であるキハラヤスさえ生きていればメラルド家はどうにかなる。ゴモラはそう判断して、指示を出した。


「キハラヤス殿。俺もさっさと撤退するべだと思うぜ」 


 シグマも同調する。


「いや、ワシはここで退くわけにはいかん!」


「この戦いは相手が強すぎた。あんたに罪は無い。罰せられることは無いだろう。もしノスファルドの旦那がブチ切れたら、俺も一緒に謝ってやるさ」


「そういう問題ではない!」


「ん?」


「息子はワシを逃がすために死ぬつもりだ。ワシはクズである自覚があるが、自分の息子を見捨てて逃げる程落ちぶれちゃいない。いちいち意見してくる生意気な奴だが、大切に育ててきたワシの宝物なんじゃ!」


「キハラヤス殿……」


「ワシは息子を助けに行く! もう絶対に逃げたりせん!」


 彼の目には炎が灯っていた。


「キハラヤス殿の覚悟、見せてもらったぜ。それなら俺も付き合ってやるよ!」


「いや、お主は撤退しろ」


「何故だ?」


「お主の主君はノスファルドであろう。ならば、ノスファルドのために命を投げ出せ。いつかその時が来るはずだ」


「ふっ、格好いいじゃねえか。あんたの勇敢さ、旦那にも報告しておくぜ」


「ああ、頼んだぞ。あの若造を驚かせてやれ!」


「あばよ!」


 シグマは五千の兵を引き連れて、撤退していった。それを見届けたキハラヤスは指示を出す。


「全軍前進せよ! ゴモラと合流するぞ!」






 エルフ達の猛攻により、ゴモラ勢は突き崩されていく。遂にはゴモラ自身も剣を取って戦わなければならない状況となった。


「くっ、これまでか…… 父上は逃げられただろうか……」


「ゴモラ様! 後方より援軍が来ております!」


「何? 誰の部隊だ!」


「キハラヤス様の本隊でございます!」


「嘘だろ!?」


 父を逃がすために戦っているのに、その父が前線まで出張って来た。意味不明な状況にゴモラは理解が追いつかない。


「息子よ。加勢に来たぞ!」


「父上、何故ですか! さっさと逃げるように言ったはずなのに!」


「うるさい! 子が親より先に死ぬなど許さんからな!」


「父上……」


 キハラヤスの本隊はまだ薬物の影響を受けておらず、まともに戦える。押されていた王国軍だったが、徐々に体勢を立て直す。


「キハラヤスの本隊が前に出たことで王国軍の士気が上がったな。こちらも対抗するためには、大将が出る必要がある。女王ちゃん、行けるか?」


「もちろんだ。お前も援護を頼むぞ」


「おう!」


「私も戦うっす!」


 エルフの女王、魔王、ゾンビの三人が前線に躍り出る。それによりエルフ側も勢いづく。


「さ〜て、ゾンビ。一緒にぶっ放すか!」


「はい!」


 魔王は右手をゾンビは左手を前に突き出し、二人の魔力を合わせて放出する。

 

「「ヘルファイア!」」


 巨大な炎が多くの敵兵を飲み込み、炭に変える。


「やるではないか。私も負けていられんな。エルフの力を見るが良い! ホーリーライトニング!」


 敵兵に雷が降り注ぐ。炭が更に増える。


「女王様、強いっすね〜。流石、先代が頼りにしていただけのことはあります!」


 魔王達の参戦により、形勢は一気にエルフ族有利に傾く。


「あれがエルフの女王。強過ぎる…… 恐らく逃げようとしても、あの魔法からは逃れられないでしょう。このまま殺されるくらいなら、奴に一矢報いたい。私は女王に向かって突撃をしようと思いますが、父上はどうなさいます?」


「言うまでもないであろう」


「ですな」


 二人は少数の供回りのみを引き連れて、エルフ軍の奥深くまで切り込んでいく。


「おい、爺さん。お前がキハラヤス伯爵だな? んで、隣にいるのがゴモラ子爵」


 進み続ける二人の前に魔王が立ちはだかる。


「誰だ、お前は! ワシはエルフの女王と戦うのだ! 雑魚に用は無い!」


「おいおい、雑魚とは心外だな。エルフの女王なんかより俺の方が大物だぜ? なんたって、俺は魔王なんだからな」


「魔王!? ノスファルドの奴が目撃したと言っていたが、まさか本当に生きていたとは……」


「私の生涯最後の相手として不足は無い。いざ尋常に勝負!」


「まあ、待て。その前にキハラヤスと少し話させてくれ」


「ワシと話だと?」


「今回の戦い、だいたい俺の計画通りに進んでいたが、一つだけ想像もしなかったことがある。それはお前自身が進んで最前線に出てきたことだよ。正直、クズでゲスな臆病者だと思っていたから驚いたよ。今回の勇敢な行動は尊敬に値する」


「…………」


 敵に賞賛され、キハラヤスは反応に困る。


「だがな、お前がしてきたことを俺は許せねえ。お前のせいでどれだけの魔族が殺されたことか」


「ワシは許してもらおうなどとは思っておらん」


「そうか。では戦うとしよう。俺はお前への敬意を表して、全力で戦う」


 キハラヤス、ゴモラ親子と魔王が激突した。圧倒的な実力の差により、決着は一瞬でついた。

 その後、王国軍は散り散りになり逃げていき、エルフ族の勝利によって戦いは幕を閉じた。


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