26 .レルヘン防衛戦②
レルヘンの堀を挟んで、王国軍と対峙すること三ヶ月が経過した。
「俺の見立てでは、そろそろ奴らも疲弊している頃だろう。ゾンビ、敵の様子はどうなっている?」
「いや〜、ピンピンしてますよ」
「はぁ!?」
「旧魔王城からレルヘンの戦場にかけて、敵の補給部隊が何度も往復しています。物資が枯渇する様子は無いっすね」
「少し粘れば音を上げると思っていたが、見通しが甘かったか…… くそっ!」
読みが外れ、魔王は悔しさのあまり地面に拳を叩きつけた。
「そろそろ食べ物が少なくなってきたぞ。補給はどうなっている?」
ゴモラは近くにいる部下に尋ねる。
「滞りなく進んでおります。この調子であれば二日後には物資が届くかと」
「よろしい」
ゴモラは満足そうに頷いた。
「この戦い、エルフ達は持久戦に持ち込み、我々の兵糧が枯渇するのを待つのが狙いだろう。だが私は完璧な補給路を整えた。維持するには莫大な資金がかかるが、私がノスファルド様に頭を下げて、いくらでも金を使っても良い許可を取りつけた。五年でも十年でも戦線を維持できる。しかし、奴らは国の外へ出る道が塞がれており他所から補給をすることはできん。戦いが長引けば先に兵糧が枯渇するのは向こうの方だ」
「完璧な作戦でございます、ゴモラ様。しかし、心配なのは……」
「ああ、父上だな。また余計なことをやらかさなければ良いのだが……」
包囲されたまま更に三ヶ月が経過した。
「自称魔王よ。そろそろこちらもきつくなってきたぞ。矢も尽きかけているし、二万の兵を養う食糧事情もかなり厳しい。兵士達も戦意を挫かれつつある」
エルフの女王は苦々しい顔で言った。
「そんなことはわかってるよ! だけど、どうすれば良いんだ……」
「相手の補給を断ってみてはいかがでしょう?」
ゾンビが提案する。
「もう何回か試してるよ。敵の補給部隊を潰すために奇襲部隊を出撃させたけど、敵の遊撃隊に察知されて逃げ帰ってきた。遊撃隊を率いるマクサ男爵は意外と切れ者だ」
「大人数でいくからバレるんすよ。少数精鋭で行きましょう」
「少数って具体的にどれくらいだ?」
「私と魔王様の二人きりっす!」
「なるほどな。俺達二人だけならテレポートも使えるし、敵にバレにくい。補給部隊は非戦闘員ばかりだろうし、俺の力があれば何とかなるか。やってみる価値はありそうだな」
「あとはこの魔法の粉を使いましょう」
「魔法の粉? 何だそれ?」
「これを使うと、とても気持ちが良くなって……」
「薬物じゃねえか!」
「コカインっすよ。気持ちよくなった状態で作戦に臨みましょう!」
「何かあると薬物を提案するのやめろ…… ん? 薬物? それだ! ゾンビ、提案なんだが……」
魔王はゾンビに耳打ちする。
「それ面白そうっすね! ぜひやってみましょう!」
二人は作戦の準備に取りかかった。
「ゾンビ、いくか」
「はい!」
数日間かけて作戦の下準備を終えた。
二人は手を繋いだ。
「テレポート!」
光に包まれ、二人の身体はテレポートした。
「さて、狙い通りの場所に来れたな。タイミングもバッチリだ」
二人がテレポートした先は、敵の補給部隊の目の前だ。突然現れた二人に、兵士達は慌てふためく。
「サクッといくぞ!」
「はい!」
二人は炎の魔法を連発し、視界に入った物資を焼き払う。
「何だあいつらは!?」
「とてつもない魔力を感じる! 逃げろ!」
臆病な兵士達は荷物を捨てて一目散に逃げ出した。
「よ〜し、これだけやれば十分だ。戻るぞ」
「はい!」
「お〜い! 食糧が足りなくなってきておるぞ! ゴモラが手配しているのではないのか!」
キハラヤスはイライラして怒鳴り散らす。
「キハラヤス様! 申しあげます!」
「何だ!」
「補給部隊が謎の二人組の襲撃に遭い、壊滅した模様! 物資も焼き尽くされてしまいました!」
「な、何ぃ〜!」
補給部隊壊滅の情報は瞬く間に広がり、王国軍全体に動揺が走る。
それに対して、短期なサキュロスが行動を起こす。
「物資が届かない? ならば早く決着をつけるだけよ! 俺様に続け!」
「サキュロス様、兵士達が動きません!」
「何? 何故だ!」
「何かに取り憑かれたかのようにボーッとしておりまして、戦うことなどできない状況です!」
「腑抜けた奴らめ! 動ける奴だけ着いてこい!」
サキュロスは僅かな手勢を連れて、自ら先陣を切って突っ込む。
「あいつはつくづくアホな奴だな。弓隊、放て!」
敵兵に矢の雨が降り注ぐ。
「気合だ! 気合があれば矢など効かぬ…… うぐっ!」
サキュロスの眉間に矢が突き刺さる。即死した。
「魔王様、作戦成功っすね!」
「人間に変装して敵兵にコカインを配る。長期の戦争で娯楽に飢えた奴らは薬物に飛びつくだろう。敵の間で薬物が流行し、兵が使い物にならなくなる。そして、物資の枯渇で戦闘継続も困難。そうなれば、あの脳筋貴族は必ず自ら突っ込んでくる。何もかも俺の読み通りだ」
中国はイギリスのアヘンにより、国力が大幅に低下した。敵兵を薬漬けにすることが有効な作戦であることは歴史を見れば明らかである。
「さて、将を失ったことで敵は大混乱だ。一気に攻勢に出るぞ。女王様、ここはこの国のトップであるあんたが頼む」
「うむ、よかろう。総勢、かかれ!」
「「「うぉぉぉぉ!」」」
女王の号令でエルフ達が一斉に攻撃を始める。
大将を亡くしたサキュロス勢は瞬時に壊滅し、そのままゴモラの陣に攻め込む。
「ゴモラ様、敵襲でございます!」
「わかっている。迎え撃て!」
兵士達は応戦するが、勢いに乗るエルフの攻撃は防ぎきれない。
「このままでは壊滅する。我が隊が潰されれば父上が危ない! 後方に控えているマクサ殿に援軍を要請しろ!」
「そ、それが……」
「どうした? はっきり言え!」
「マクサ男爵の部隊が、無断で撤退を始めております!」
「何だと! いったいどうなっているのだ!」
ゴモラの顔はみるみるうちに青くなっていった。




