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25.レルヘン防衛戦

「父上。レルヘンは、多くの木々に囲まれています。そして国の外は道の整備もろくに行われておらず、足場が悪くまともに歩けない。そんな中、南だけは広い平地が広がっています。南から攻めるべきかと。他の方位には一万程度の兵を送り、残りの四万は南側に固めましょう」


「うむ。ではそのようにしよう」


 ゴモラの進言通りに、王国軍の大半はレルヘンの南側に布陣をする。

 前線にゴモラ子爵率いる一万の部隊と、サキュロス子爵率いる一万の部隊の計二万。後方にはキハラヤス伯爵の本陣一万。更にその後ろに、シグマ・ガネット率いるノスファルド配下の部隊が五千でキハラヤスを監視するように布陣。遊撃隊としてマクサ男爵の五千の部隊が本陣と前線の間に陣取った。






「王国軍の布陣は終わったようだな。お前の読み通りの布陣だ」


 敵の動きを眺めていたエルフの女王が、感心しながら言う。


「このあたりの地形や、事前に調べておいた敵軍の情報を総合すればある程度は想像がつく。兵力のほとんどを南側に結集させておいたのは正解だったろ?」


「ああ。念の為、他の方位にも見張りの部隊を出している。攻め込まれるようなことがあればすぐに対応できよう」


「完璧だ。あとは敵さんの動きをのんびり眺めていよう」


 魔王は腕を組みながら微笑んだ。






「堀と土塁が張り巡らされている。迂闊に手を出せんな…… 慎重に攻め込まねば……」


 壮大な惣構を前にして先鋒隊を率いるゴモラは、頭を悩ます。そんな彼の元に伝令の兵がやってきた。


「申しあげます!」


「どうした?」


「サキュロス・マキュロ子爵の部隊が前進中! このまま敵に攻撃をしかけると思われます!」


「何!? まだ攻撃命令も出ていないのに何故だ!」


「あの方は考えることを知らない戦闘狂ですから……」


「くそ! 今すぐ攻撃を取り止めるように伝えるのだ!」


「ははっ!」


 ゴモラは苛立ちで頭を掻きむしった。






「ハハハハハ! エルフ共を血祭りに上げろ! お前ら進め!」


 惣構の向こう側へ進むため、サキュロスは兵士達を堀の中に飛び込ませる。

 そんな彼の元に伝令がやってくる。


「サキュロス様、申しあげます!」


「何だ? 俺様は見ての通り忙しいのだ!」


「ゴモラ様より、今すぐ攻撃を中止するようにと指示がでております!」


「攻撃中止だぁ? そんな弱気じゃ戦には勝てねえよ! 前進あるのみ!」


 忠告を聞かず、サキュロスは兵を前進させ続けた。


「おいおい、本気か? 何の考えもなく惣構に突っ込んでくるとは……」


 サキュロス勢の様子を見て、魔王は驚愕する。事前の情報収集により相手がバカだということは知っていたが、想定以上のバカ過ぎて、ドン引きしているのだ。


「まあ、チャンスだから遠慮なく攻撃させてもらうか。弓隊、放て!」


 堀の中の敵兵に向かって、エルフ達が一斉に矢を射る。狙いを定めて、弓を強く引き絞り、放つ。一連の作業を素早く、そして確実にこなしていく。エルフ族は皆、弓の名手なのだ。


「ぬわぁぁぁぁ!」


「ぐわぁぁぁっ!」


 堀の反対側に登るのを手こずっている間に、一人また一人と倒れていく。エルフの弓は百発百中。放たれた矢の数だけ死体が積み上がる。

 何とか反対側に到達することができた者も、剣を持ったエルフに狩られて絶命する。

 まさに鉄壁の守り。王国軍はレルヘンの土を踏むことも許されない。


「何をやっているお前達! こうなったら俺様が直接戦ってやる!」


「おやめください!」


 サキュロスは剣を抜いて、自身が堀の中へ飛び込もうとする。それを必死に部下達が引き止める。


「離せ! 離せ!」


「あなたは貴族です! ご自身の立場をわきまえてください!」


 部下達に羽交い締めにされ、サキュロスは部隊の後方まで引きずられる。そのまま配下の兵も後退し、攻撃を中止。

 この攻撃により、サキュロス勢は千人近くの死傷者を出す大損害を被る。

 初戦はエルフ族の勝利に終わった。


「よっしゃぁ! どうだ、見たか!」


「怪しい男よ。やるではないか。戦いの指揮をしていた姿は先代の魔王様に似ている気がする」


「いやいや。エルフ族一人一人の戦闘能力が高いお陰さ。よく訓練されているんだな」


「ああ。寿命が長いと、己の力を強化するくらいしか暇潰しの方法が無いのだよ」 


「同じくらい長い寿命を持っているのに、ずっと怠けていた自分が恥ずかしい……」


「さて、戦いはここからが長くなるぞ。気を引き締めて頑張れ!」


「ああ!」






「キハラヤス殿。軽率な行動を控えるよう、再三注意してきたのに、これはどういうことだ?」


 大敗したことを知ったシグマはキハラヤスに詰め寄る。


「こ、これはワシのせいじゃないぞ! サキュロス殿が勝手に!」


「配下の暴走を止めるのも大将の役割、違うか?」


「ぐっ…… それは……」


「ノスファルドの旦那曰く、同じ失敗を繰り返しておきながら改善しようとしない奴は生きるに値しない。これ以上、ミスを重ねるようならば……」


「わかっておる! 今後はもっと慎重に行動するよう、サキュロス殿にもきつく伝えておく!」


「頼みやすぜ。キハラヤス殿」


 ここから王国軍は一切動かず、堀を挟んでただ睨み合いを続けるだけになる。


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