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19.宿敵との出会い

「光だ! 光が見えてきたぞ〜!」


 魔王達はついに洞窟の外へ出ることができた。行き道よりも帰り道の方が長く感じ、二人の顔は疲れ果てている。


「ここからフーコの街までは歩いてどれくらいかかるんだ?」


「このヘトヘトの歩行速度だと、歩いて五日くらいでしょうか」


「そんなにかかるのかよ! 最悪!」


「携帯食料はたくさん持ってきたんで、大丈夫っすよ」


「そういう問題じゃなくてさあ。早く家に帰って布団で寝たいんだよ!」


「そうやって騒ぐ元気があるなら大丈夫っすよ。さあ、歩きましょう」


「え〜、嫌だ……」


 二人でグダグダ話していると、「タタン、タタン!」という音が近づいてくる。


「おい、あれは馬か?」


「人間が上に乗っていますね。軽く三百騎はいるかと」


「明らかに俺達の方へ向かってくるぞ。気をつけろ!」


 騎馬隊は物凄い速度で走り続け、二人の目の前に到達した。

 先頭を走る白馬に乗った男が馬を下りて、魔王に近寄る。


「お前達は魔族だな?」


「そ、そうだけど…… あんたは?」


「私は王族に連なる公爵家の当主にして、王国軍の指揮官。ノスファルド・サフィアである!」


 男は高らかに名乗りを上げた。


「あの名門サフィア公爵家の当主か…… 情報に疎い俺でも知ってる名前だ」


「こいつはガチでヤバい奴っす。わずか一週間で魔王軍が壊滅したのは、ノスファルド公爵の力が大きいっす」


「え、そうなの!? 魔王軍の壊滅は、各地で冒険者が一斉蜂起したからでは?」


「それを裏で手引きしてたのがノスファルドなんすよ。この人は何故か冒険者達からの人気が高いんす」


「俺がこんなに大変な思いをすることになった元凶というわけか……」


 魔王とゾンビは小さい声でコソコソ話す。


「おい! 何をコソコソしている!」


「ひっ、許して! 殺さないで!」


 魔王は震えながら命乞いをする。ルシウスとの激闘を終えた直後に険しい洞窟の道を抜けてきたため、まともに戦える力は残っていない。


「安心しろ。キハラヤスみたいなクズとは違って、私は魔族だからという理由だけで無差別に殺戮をしたりしない」


「はぁ…… それは良かった」


「お前達に聞きたいことがあるのだ」


「何でも答えてやるよ」


「私は魔王を探しているのだ。何か知らないか?」


「ま、ま、魔王!? し、知らねえなぁ…… なんせ俺は雑魚雑魚の下級魔族だから魔王様と接点ゼロなんだわ〜」


「この近くで王国軍の兵士の焼死体が見つかった。私はそれを魔王の仕業だと思っている。死体の状態からして、まだ魔王は近くにいるはずだ」


 魔王が洞窟へ向かう途中で焼き殺した兵士のことだ。彼は冷や汗が止まらない。


「と、とにかく俺は何も知らないんだわ。役に立てずすまない」


「ふむ、そうか。こちらも時間を取らせてしまってすまなかった…… って、あれ?」


「な、何だ?」


「お前のその顔、どこかで見たことがあるような……」


「き、気のせいじゃないか? 俺とあんたは今回が初対面だぜ」


「それもそうか……」


「ノスファルドの旦那これを見てくれ」


 傍らにいた筋骨隆々のいかつい男が一枚の紙を見せる。

 もともと盗賊をしていた男だ。その腕っぷしの強さを買われ、今はノスファルドの部下として働いている。

 彼は身分に囚われず、優秀な者を取り立てているのだ。


「ほお。なかなか似ているな」


 彼が見ているのは魔王の似顔絵が描かれた手配書だ。魔王は城から逃走する際、多くの冒険者に目撃されており、その情報を元に似顔絵を描かれてしまった。


「いや、俺ってモブキャラみたいな顔してるじゃん? そんな顔した奴なんてこの世界に五万人くらいいるって!」


「めちゃめちゃ怪しいな、旦那。殺しちまってもいいか?」


「まあ、待て。人違いかもしれないであろう」


「そうだよ! 人違いなんだよ!」


「とりあえず王都まで来てもらえるか? そこでじっくりと話を聞こう」


「い、いやぁ…… 仕事の都合とかもありまして〜」


「もちろんただでとは言わん。疑惑が晴れたら一千万ゴールドをくれてやる。時間を取らせるのだから当然だ」


「くっ……」


 ことごとく逃げ道を潰され、王都に出頭する以外の選択肢が無くなる。しかし、そうなれば処刑以外の未来は無い。ならばとるべき手段はただ一つ。


「ゾンビ。せ〜のでいくぞ」


「ラジャー!」


「「せ〜の!」」


 二人は一目散に逃げ出した。


「旦那、逃げたってことはクロだよな?」


「ああ。殺してしまって構わん。絶対に逃がすな!」


 配下の騎馬兵達が魔王達を追いかける。必死に逃げるが、徒歩と馬。そのスピードの差は歴然ですぐに距離を詰められてしまった。


「くそったれ!」


「ヤバいっすね……」


 追いつかれてしまい、絶体絶命。しかし、そんな状況を覆す出来事が起こった。


「ぬわぁぁぁぁ!」


 ノスファルド配下の兵が、血を噴き出して絶命する。

 洞窟の外に飛び出してきた吸血コウモリに攻撃されたのだ。


「助けにきてくれたのか!」


「もし自分を倒す人物が現れたらそいつに力を貸してやれって、ルシウスさんに言われてたんだよ。今がその時よ!」


 吸血コウモリ以外にもたくさんのモンスターが洞窟から出てきて、次々と敵兵に襲いかかる。


「魔族共め…… 殲滅せよ!」


 ノスファルドの指示で騎馬兵達が魔族の集団に突撃していく。魔族が一人また一人と倒されていく。


「あんたらは早く逃げな。ここは俺達が食い止める」


 吸血コウモリが言った。


「だけど、このままじゃお前達が全滅だぞ」


「良いから逃げろ! 皆の死を無駄にするな!」


「クソっ! 魔族が命を張ってるのに、俺はなんて無力な……」


「魔王様行きますよ!」


「わかった。お前達、感謝するぞ!」


 二人は全力で走って、戦場を離脱する。


「逃がすか!」


 ノスファルドは弓を構えて引き絞る。狙いを定め、魔力を乗せて矢を放つ。

 魔力で加速した矢は、魔王に向かって一直線に飛んでいく。


「魔王様、危ない!」


 ゾンビが間に入り、矢を受ける。背中に深く突き刺さった。


「おい、ゾンビ! 大丈夫か!」


「大丈夫っす。私はアンデッドなのでそう簡単には死にません。私を盾にしてください!」


 ゾンビが魔王の背中にぴったり貼りつく形で、走り続ける。ノスファルドが矢で狙おうとしても魔王には当たらない。距離を詰めようとしても魔族達に阻まれる。


「おのれ…… 魔王!」


 魔王は後ろを振り返ることなく走り続け、追いつかれない場所まで逃げ切った。

 これが魔王の人生最大の宿敵との初邂逅となった。

 


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