18.洞窟制覇
「勝った…… のか?」
魔王は戸惑いながら言う。
「戦う中でわかりました。あなたは間違いなく魔王様の後を継ぐお方だ。邪神器を差し上げましょう」
先程まで殺意に溢れていたルシウスが、魔王の前にかしずく。
「ルシウス。お前はめちゃめちゃ強かった。流石、先代に四天王に取り立てられただけのことはあるな」
「もったいなきお言葉!」
「でも、悪かったな。フェイントとか後ろからの不意打ちとか、すごい卑怯な勝ち方になっちまって」
「いえ、勝つためならばどんな手も使う。それこそ王者として相応しい姿勢でございます。あなたは最高の魔王だ!」
「そ、そうか……」
真正面から絶賛され、魔王は照れてしまう。
「ルシウスさん、私のこと覚えてます?」
「はて…… 緑色の小娘、どこかで見たことあるような…… あ! 魔王様のお気に入りのゾンビか! 一緒にお菓子とかよく食べていたな」
「そうっすよ。何回も会ったことあるのに、忘れちゃうなんて酷いっす!」
「なんせ数百年もの間、この洞窟に籠もっていたのだ。許してくれ」
「まあ私もルシウスさんのこと忘れてたんで、お互い様っすけどね」
「ハッハッハ! そうかそうか!」
お固い雰囲気だったルシウスが初めて笑う。その場には和やかな空気が流れていた。
「なあルシウス。俺は今、戦力を欲している。もう一度、魔王軍に仕えてみないか? ちょうど四天王の席が空いているぞ」
「嬉しいお誘いですが、我はこの場所を離れられぬのです」
「邪神器を守る使命があるからだろう? だけど、俺が譲り受けたことでその使命はもう終わりじゃね?」
「魔族の寿命はせいぜい百年。ですが我がこの洞窟での使命を受けてから数百年経っています」
「ということは…… もしかしてお前はもう既に……」
「ええ。本来ならば既に死んでいます。ですが使命を果たすため、先代の魔王様より強力な魔法をかけていただきました。寿命が尽きても、この部屋の中だけでなら存在することができるのです」
「なるほど…… 死してなお魔王軍に忠誠を尽くしてくれるのか。昔の魔王軍には本当に良い配下がいたのだなぁ……」
魔王は遠い目をして、しみじみと呟く。
「その口ぶりですと、今の魔王軍にはろくな人材がいないのですか?」
「いやあ、実は今の構成員が俺とゾンビの二人しかいないんだよ」
「な、なんと!? 天下の魔王軍が何故そのようなことに!」
全盛期の魔王軍を知っている彼からすれば、にわかには信じがたい。
「それがな、めちゃめちゃ強い勇者が現れてよ。そいつを封印するために俺の魔力のほとんどをつぎ込んだんだよ。そしたら俺が弱体化している間に人間共が一斉に攻撃をしかけてきやがって、魔王軍は壊滅状態になっちまった」
「そんなに大変なことが……」
「だが、俺は諦めない。必ず魔王軍を再興してみせる!」
「あなたならできるはずです。先代をも超える偉大な王になる。そんな気がしています」
「ああ、約束する。俺は必ず偉大な魔王になり、魔族達を守るんだ!」
「さて、邪神器の新たな持ち主が現れたので、我はその役目を終えました。そろそろ天に昇り、先代の魔王様と数百年ぶりの再開をしてくるとしましょう」
ルシウスの全身をまばゆい光が包み込む。天からのお迎えが来たのだ。
「この洞窟以外にも、邪神器は世界中の様々なところに隠されています。見つけ出して、魔王軍再興に役立ててください」
「その隠し場所を教えてくれ! 俺達が持ってる書物はページが抜け落ちまくってて、ここ意外の場所が載ってなかったんだ!」
「我は知っていますが、あえて教えません。それは魔王様自身の手で見つけてください。試練を乗り越えることで成長するのです」
「そんなケチなこと言わないで……」
「そろそろ時間なようです。さようなら……」
「おい、待てって!」
光とともにルシウスは消え去った。昇天して、完全にこの世に存在しなくなった。
「ああ。逝ってしまったか…… 俺もあんな忠臣が欲しいなぁ……」
「私がいるじゃないっすか! 今回勝てたのは、私と力を合わせたからっすよ!」
「でもお前、生意気だからなぁ……」
「そんなところも可愛いでしょう? ほら、せっかく勝ったんですから、宝箱を開けましょうよ!」
「そうだな」
宝箱の重い蓋を、二人で力を合わせて開ける。
中に入っていたのは紫色に輝く鎧。ただよっている禍々しいオーラは、これがとんでもない魔力を持っていることを確信させる。
「魔王様、邪神器ですよ! やりましたね!」
「いや、でもこれよ……」
念願の邪神器を手に入れたが、魔王はどこか不満気だ。
「どうみても女用の装備じゃねえか!」
彼の目の前にあるのは間違いなく邪神器の鎧だ。しかし、極端に面積が少ない。胸部と陰部を隠すだけの、いわゆるビキニアーマーというやつだ。
「邪神器っていうから期待してたのに、何で女用なんだよ! 俺、装備できないじゃねえか!」
「そりゃ先代が女性だったから、それ向けの装備に決まってるじゃないっすか」
「え、待て待て。じゃあ、俺の母親はこんなエッチな格好で戦場を飛び回っていたということか?」
「先代は可愛くてスタイルも良かったので、よく似合っていましたよ。魔族達からの人気も高かったっす」
「可愛いとかはどうでも良いんだよ。自分の母親がえちえちな装備をしていたのが嫌なの!」
「じゃあ、この装備どうします?」
「俺は着られないけど、捨てるのももったいないしなぁ…… とりあえず持って帰るか」
「うぃっす!」
ゾンビは鞄の中に適当に鎧を放り込んだ。
「もうここに用は無いし帰るか。ゾンビ、テレポートだ」
「さっきの戦いで魔力を使いきっちゃったので、無理っす」
「はぁ? じゃあどうすんだよ!」
「歩いて帰りましょう」
「あ〜、もう! 疲れてるのに〜!」
魔王達は疲れた身体を引きずりながら、洞窟の出口を目指した。




