17.最深部での決戦
今まで狭い洞窟の通路を進んできたが、扉の先には大きな空間が広がっていた。そして、その中心にはキラキラと輝く宝箱が置いてある。
「あの箱の中に邪神器があるんじゃないでしょうか?」
「あからさまな罠にしか見えないんだけど」
「細かいこと考えずにゴーゴー!」
ゾンビにグイグイ押されて、魔王は渋々ながら宝箱へ近づいていく。目の前に到達した時、背後から「ガタン!」という物音が聞こえた。
「何だ!?」
慌てて振り返ると、扉が閉まっているのを発見する。
「やべぇ。閉じ込められちまったぞ!」
しかし、そんなことに驚いている暇は無い。二人の目の前に、突如として黒い影が発生する。その影は徐々に人のような形を作り、全身に黒い鎧を装備した騎士が現れる。
「侵入者よ。お前達は邪神器を狙ってここに来たのだな?」
「ひいっ……」
鉄仮面のわずかな隙間から覗く鋭い眼光が恐ろしすぎて、魔王は震え上がってしまう。
「我は黒騎士ルシウス。魔王様の命に従い、侵入者を排除する」
「ルシウス!?」
その名前にゾンビは強い反応を示す。
「おい、あいつを知っているのか?」
「先代の頃の四天王っすよ! 魔王様が後を継いだ時に引退して、ちょうど入れ違いなので、魔王様との面識は無いはずっす」
「なるほど、あいつは元魔王軍幹部なのか。それなら話は早いな。おい、ルシウスとやら」
「我の名を気安く呼ぶな」
「邪神器をしっかり守ってくれていてありがとうな! 正式な後継者である俺が受け取りにきたぜ!」
「正式な後継者だと?」
「ああ。俺こそが先代の後を継いだ、今の魔王だ!」
「…………」
ルシウスは全身をブルブルと震わせる。何やら強い感情が煮えたぎっているようだ。
「おい、どうした?」
「魔王様の名を軽々しく騙るとは、この不届き者め!」
「いや、騙りとかじゃなくて本当に魔王なんだってば!」
「もう我慢ならん。態度によっては放免してやろうかと思ったが、絶対にお前を殺す」
ルシウスは剣を抜いた。
「クソが! やるしかねえか!」
魔王は全身に力を込めて、体内の魔力を上昇させていく。そして、溜め込んだ魔力を一気に放出する。
「ヘルファイア!」
右手から炎の柱が飛び出す。もし命中すれば、相手の皮膚を突き破り内蔵を焼き尽くす。
「そんなもの効かぬわ」
剣であっさりと防がれてしまう。
「俺の渾身の一撃だったのに!」
「今度はこちらからいくぞ」
ルシウスは剣を大きく振り上げると、そこに黒いオーラが集まり始める。
「死ね!」
魔王は右にステップを踏んでそれを避ける。剣は彼の肩スレスレの場所を通り、地面に直撃する。地面には大きなひびが入った。
「あっぶね! 当たったら腕が切断されてたわ!」
「今のはほんの小手調べよ。はぁっ!」
次に、鋭い突きが繰り出される。
イナバウアーのように体を後ろに倒すことで、それを避けることに成功した。
「ンギギギギギ!」
かなりきつい体勢のため、変な声を出す。何とか体を起こすと、再び炎の柱を生成する。
「ヘルファイア!」
「だから効かぬ!」
またしても剣ではじかれる。
「これならどうだ!」
魔王は炎の球を連射して、弾幕を張る。
「数撃てば良いというものではない」
ルシウスは剣を軽く一振りする。すると、弾幕は無力にも吹き飛ばされてしまった。
「はぁっ!」
「くっ!」
斬撃を繰り出されるが、魔王は後ろに下がってそれを回避する。
「はぁっ!」
「何の!」
次に来るのは横薙ぎの攻撃。それも後ろに下がって回避する。
「ちょこまかと逃げ回るか。それも良かろう。死ぬのが少し遅くなるだけよ」
ルシウスの連続攻撃を後ろに下がって避けるという応酬を何度も繰り返す。
「さあ、追い詰めたぞ。観念しろ」
ゆっくりと剣が振り上げられる。そして、そこに闇のオーラがどんどん集まっていく。
「ここまでか…… 魔族の皆。魔王軍の再興、叶えられず済まない」
魔王は覚悟を決めて目を閉じた。
「……って、あれ?」
いつまで経っても、剣が振り下ろされることはない。魔王は不思議に思い、目を開けた。
「うぐっ……」
目の前には膝をついたルシウスがいた。その背中には氷の刃が刺さっている。
「魔王様。簡単に諦めないでください!」
「ゾンビ、お前がやったのか!」
「私だって魔族の端くれ。魔王様と一緒に戦います!」
ゾンビは再び氷の刃を生成し、ルシウス目がけて撃ち出す。
「この小娘が…… 先程は油断していたが、次はそうはいかぬぞ!」
ルシウスは剣で氷を弾き飛ばす。そして、ゾンビに向かって走っていく。
「魔王様!」
「わかってる!」
二人は息を合わせて同時に魔法を連射する。ルシウスを挟んで、二方向から弾幕を張る。
「雑魚が手を取り合おうと雑魚であることは変わらぬわ!」
大きく回転しながら剣を振り回し、弾幕を切り払う。
「ゾンビ!」
「わかってます!」
言葉を交わさずともお互いが考えていることはわかる。二人は、再び魔法で弾幕を作る。
「学習能力の無い奴らめ!」
やはり結果は同じ。弾幕は簡単に消え去る。
「もういっちょう!」
「はい!」
それでも懲りずに弾幕を張る。何度突破されても、とにかく弾幕を張り続ける。
「いい加減にしつこいぞ…… ハァハァ……」
何度も何度も剣を振り回していると、流石に息があがってくる。しかし、それは魔王達も同じこと。互いに体力を消耗している。
「そろそろ決着をつけるとしましょう。私のとっておきの技を見せちゃいますよ!」
ゾンビは己の右手に全ての魔力を込める。そのまま右手を天に突き上げると、そこに闇のエネルギーが集まってくる。そして、ドス黒い球体を作り出し、それがどんどん大きくなっていく。
「己の魔力を全て放出するつもりか! 下級魔族といえど、まともに喰らったらまずいな……」
ルシウスは剣を構え、ゾンビを全力で警戒する。
「隙ありだな! 闇の騎士さんよ! ヘルファイア!」
魔王は背後から攻撃する。
ルシウスの体の中心に衝撃が走る。炎の柱が自分の体を貫いていた。
「う、うぐっ!」
彼は苦しみながら地面に崩れ落ちる。
「私の攻撃はブラフっすよ。私の攻撃に注意を引きつけておいて、本命の攻撃を魔王様が叩き込む!」
「どうだ? 俺達の連携は完璧だろう?」
「グググ…… だが、一発喰らっただけで倒れるほど、このルシウスは脆くないわ!」
ヨロヨロと立ち上がろうとする。
「せっかくの特大魔力をブラフで終わらせるのはもったいないので、ぶつけさせてもらいますね!」
ゾンビの手を離れた黒い球体は、起き上がった直後のルシウスに命中し、その全身を飲みこんだ。
「うわぁぁぁぁ!」
莫大な魔力をモロに受け、悲鳴を上げて地面に倒れこんだ。
「やったか!」
「魔王様! それ、フラグっす!」
「あっ、ヤバい……」
ルシウスはボロボロになりながらも立ち上がった。
「なんてしぶとさだ。クソ!」
ルシウスは魔王に襲いかかる。と、思いきや、剣を鞘に閉まった。
「え?」
魔王は困惑する。
「我の負けだ」
相手の降参宣言により、戦いは集結した。




