16.洞窟探索
ゾンビのテレポートを使い、二人は目的地の近くまでやってきた。洞窟の中に直接テレポートするという手もあるが、もし王国軍の支配地になっていたら、いきなり敵のど真ん中に踏み込むことになるので、歩いて移動する。
「良いか、ゾンビ。ここは旧魔王城の直轄地。今は王国軍の手に堕ちているから、敵地だ。油断するなよ」
「はい!」
「洞窟の探索前だ。体力を温存するため、なるべく戦闘は避けたい。決して、暴れたり大声を出したり……」
「あぁぁぁぁぁぁ〜!!!!」
「おい、何してんだボケ!」
ゾンビの頭がスパンと叩かれた。
「急にオペラを歌いたくなりまして」
「王国軍に見つかったらどうするんだ! アホ!」
「おい、こっちの方から声がしたぞ」
「あそこにいるのは魔族じゃないか?」
声を聞きつけた王国軍の兵士が十名程現れた。
「ほら、言わんこっちゃない」
「逃げますか?」
「いや、走ると疲れるだろ。こいつら殺した方が早い」
魔力を温存するため、小さめの炎の球を発射する。それでも、一般の兵士達を全滅させるには十分な威力であった。
「これはメラゾーマではない。メラだ!」
「その台詞、やっと言えましたね!」
「ああ、小さい頃からの夢だった。さあ、他の兵士達がやって来る前にさっさと行くぞ!」
「うぃっす!」
二人は隠密行動を心がけて、最低限の戦闘で進んでいく。かつての本拠地なので土地勘はある。迷うことなく着実に目的地に近づいていく。
「あれじゃないっすか?」
「ああ、確かにあの洞窟だな。何回か通りかかったことはあるが、中に入ったことはないな」
「久々の冒険、ワクワクしますね!」
二人は洞窟の中へ進んで行った。
松明の明かりを頼りに、探索をする。
「見た感じ、人の手は入ってないな。王国軍はまだここを探索していないようだ」
「王国軍が魔王城を手に入れてから日が浅いっすからね。内政や軍備を整えるのに忙しくて、洞窟を探索する余裕が無いのでしょう。もしくは洞窟に入ってすぐに、み〜んな殺されちゃうとか」
「おいおい、怖いこと言うなよ……」
「うわ! 何か来ますよ!」
翼の生えた大きな黒い生物が突っ込んでくる。人間サイズの吸血コウモリだ。
「侵入者発見! お前達の血を吸わせてもらうぜ! ……って、あんたら魔族か?」
「俺の体をよく見ろ。角と尻尾があるだろ? どう見ても魔族だろうよ」
「お〜、そうかそうか。なら通って良いぜ」
「え? 良いのか?」
「俺の食糧は人間の血だからな。魔族の血はあんまり美味しくないんだよ」
「へえ、そうなのか」
「ここで会ったのも何かの縁だ。お近づきの印にこれやるよ」
吸血コウモリは真っ赤な液体が入った瓶を差し出す。
「おい。これ血液だろ。俺は血はあんま好きじゃないから」
「いや違う、レッドアイだ。ビールをトマトジュースで割ったカクテルだぜ」
「お〜、そりゃうまそうだ。いただくぜ」
魔王は赤い液体を口に入れる。しかし、すぐにそれを吐き出してしまった。
「おい! 血液じゃねぇか!」
「あれ、間違えちまった。すまんな!」
「ふざけやがって……」
「じゃあな、頑張れよ!」
吸血コウモリはどこかへ飛び去って消えてしまった。
「ここの洞窟って、あんなにデカい吸血コウモリが住んでいるんすね。人間が寄りつかないのも納得っす」
「だな。大軍を派遣すれば攻略も可能だろうが、何があるかわからない洞窟にそんな労力をかけたくないだろう」
魔王達にはフレンドリーに接してきた吸血コウモリだが、人間には牙を剥いて襲いかかる。並の冒険者がいくら束になっても勝てない。ここにはそんな化け物がウジャウジャ住んでいるのだ。
二人はその後も様々な凶悪モンスターに出会うが、一度も戦闘になることはなかった。魔族同士は結束が強いのだ。
「朝から何も食べてないから腹減ったな。そろそろ飯にしないか?」
「そうっすね」
ゾンビは地面にレジャーシートを敷いた。
「じゃあコンロに火つけるんで、魔法お願いします」
「はいよ」
魔王の魔力でコンロに火がつく。道具が無くても火が起こせるのだから、魔法の有用性は科学よりも遥かに高い。
「材料持ってきたんで私が料理しますね!」
鍋の中に刻んだ具材を突っ込んで、グツグツと煮込む。
「できたっす!」
「何作ったんだ?」
「This is チーズフォンデュ!」
「うまそうだけどよ! ダンジョンの中で食う物ではないだろ! もっとオシャレなお店とかで……」
「いらないっすか?」
「いや欲しい。いただきます」
二人はハフハフ言いながらチーズフォンデュを頬張る。全く戦闘にならないので、洞窟探索中だというのに緊張感が無い。まるで小学生の遠足だ。
「美味そうな匂い……」
「俺達にもくれよ」
「良いっすよ! 皆で食べましょう!」
洞窟のモンスター達と鍋を囲んで楽しく食事する。人間の血肉しか食べていない彼らにとって、久しぶりのごちそうだ。
「ごちそうさまでした! 美味かったぜ!」
「ありがとうな!」
「喜んでもらえて良かったっす! バイバ〜イ!」
腹ごしらえをして体力を回復した二人は探索のスピードを上げる。
歩き続けること数時間、二人は洞窟の奥深くまで進んだ。普通なら数日かけて行くような道のりだが、戦闘が無ければ簡単に進めるのだ。
「おい、これ開けて良いのか?」
二人の前に大きな鉄製の扉が現れた。長い間開けられていないからか、錆びついて蜘蛛の巣が張っている。
「多分、この先に邪神器が隠されているんでしょう。開けるしかないっすよ」
「よし、いくか……」
二人は恐る恐る扉を開け、中へ入っていった。




