15.伝説の装備
「さあ、ゾンビ。今日も会議を始めるぞ」
「はい!」
二人はちゃぶ台の前に座る。
この前、首を斬り落とされたゾンビだったが、全力で反省したので元に戻してもらえた。これからはギャンブルはなるべく控えるそうだ。
「魔王様は修行によって少し強くなりましたが、王国軍との戦いで魔力を使い果たし、また雑魚に戻ってしまいました。そして、お金も全然たまらないままっすね」
「本当なら大金持ちだったのに、誰のせいだろうな?」
「その話はいったん置いておきましょう。現状を改善するための建設的な意見をどうぞ」
「さらっと自分のことを棚に上げて…… 修行して強くなるにしても、働いて金を稼ぐにしても、とにかく結果が出るスピードが遅いんだよな。この調子じゃ何百年経っても魔王軍の再興はできそうにない。何かパパッと結果を出せる何かは無いものか」
「そんな都合の良い物があるわけ…… あ!」
「何だ? 何かあるのか?」
「先代の魔王様は魔力を高めるための神秘的な装備品をいくつも持っていました。先代は神器ならぬ、邪神器と呼んでいましたね」
「え、何それ。なんか格好いい。俺の少年心をめちゃめちゃくすぐるんだけど!」
「装備する資格が無い奴が装備すると、呪いで死ぬんすけど、先代の血を継ぐ魔王様ならいけますよ!」
「限られた者だけが手にできる呪いの装備! 欲しくなってきた! どこにあるんだ、それは!」
魔王はどんどん昂っていく。
「あまりにも危険な装備のため、先代は戦闘の時以外は装備品はどこかに保存していたらしいですが、そのありかは一部の幹部にしか知らされていなかったっす。先代の魔王様も当時の幹部ももういませんし、今となっては真相は闇の中っす」
魔王とゾンビだけ異様に長生きだが、普通の魔族は人間とあまり寿命が変わらない。当時のことを知る者は誰もいないのだ。
「おいおい、何の手がかりも無いんじゃどうしようもねえじゃん」
「先代から聞かされていたんすけど、なんせ何百年も前のことっすから忘れてしまいました……」
「そうか、そうか…… え、お前聞かされてたの!?」
「はい! 一緒におやつ食べてる時にサラッと」
「そういえばお前、先代のお気に入りだったんだっけ……」
ゾンビはその人当たりの良さから、誰からも好かれる。先代の魔王からも可愛がられ、その縁で現在の魔王の側仕えとして働いている。
「おい、思い出せよ! 必死に思い出せ!」
魔王はゾンビの頭をゆさゆさと揺らす。
「そんな、何百年も前のこと覚えてるわけないじゃないっすか! もう自分の本名すら曖昧なのに!」
「あ、そういえば俺も自分の本名あんま覚えてないな……」
「でしょ? 記憶力なんてそんなもんなんすよ。相当昔にチラッと聞いたことを思い出すなんて無理っすよ」
「無茶言って悪かったよ。でも、諦めきれないな。親から受け継いだ伝説の装備とか胸アツだし」
「誰か詳しい人がいるかもしれません。聞き込みにいきましょう!」
二人は装備の情報を追い求め、街の住人達を訪ねて周ることにした。
二人が最初に訪れたのは警察署だ。何か探し物をするにはうってつけの場所である。顔見知りの署長が対応してくれる。
「ああ、君達か。警察署にどういう御用かね? 自首かい?」
「バレなきゃ犯罪じゃないってスタンスで生きてるんで、自首なんて絶対しないっすよ。今日は署長さんに聞きたいことがあってきました」
「何でも聞きたまえ」
「先代の魔王様が使っていた邪神器。その隠し場所ってご存知っすか?」
「そういう噂ならいくつか聞くけど。深海の沈没船の中とか、毒の沼地に埋まってるとか、魔王軍の重要拠点を線で結んだ地点とか」
「どれも都市伝説の域を出ないっすね」
「だな。徳川埋蔵金みたいに皆が好き勝手に噂を広めてる」
「私もそんなに詳しいわけじゃないからね。でも、そういうのに詳しい人を知っている」
「本当っすか?」
「署長! 紹介してくれ!」
「ほら。ここの住所に行ってみるといい。私の名前を出せば、快く対応してくれるはずだ」
「ありがとうな。署長のおっさん!」
「まだ、おっさんって歳じゃないよ!」
二人は警察署を勢いよく飛び出した。
「……というわけなんだ。何か知らないか?」
魔王達は署長に紹介された建物にやってきた。狭くてボロい、ほったて小屋だ。
「一つだけ心当たりがある」
そう答えたのは家主の年老いたドワーフだ。彼は考古学に精通しており、古代の装備を発掘した実績がある。
「えーっと、この辺に…… おう、あったあった」
ドワーフは本棚から一冊の本を取り出し、机の上に置く。埃が被ったボロボロの本で、ページはところどころ抜け落ちている。
「これは過去に、骨董商から買い取った物だ。先代の魔王様の時代に書かれたと思われる書物らしい。本の質や字体などからして、かなり教養のある人物、それこそ魔王軍の幹部が書いたものと思われる」
「昔の幹部の書き残した書物か。めちゃめちゃ重要そうだな」
魔王は本を開いてみる。
「変な文字がびっしり並んでるな。古代文字か?
いったい何て書いてあるんだ?」
「それが解読できんのだよ」
「ええ? あんた、こういうのの専門家じゃないの?」
「私も古代の文字には詳しいんだがね、こんな文字は見たことがない。まるで別世界の文字のような…… 恐らく限られた者だけが解読できるのだろう」
「絶対重要な情報書いてるやつじゃん! でも、読めねーのか……」
「武器…… 戦う…… 暴走…… 封印……」
本を見つめながらゾンビが呟く。
「おい、お前。読めるのか?」
「何か頭の片隅に残ってるんすよね。細かいニュアンスまではわかりませんが、おおまかな内容は読み取れると思います」
「すげえな、おい。どこで覚えたんだ?」
「それがわからないんすよ」
「わからないって、そんなことあるか?」
「魔王様は自分が生まれて初めて立ち上がって歩き出した瞬間を覚えていますか? それと一緒っす」
「無意識のうちに謎の言語を覚えてるなんてことがあるのか…… それで、どんなことが書いてあるんだ?」
「ちょっと待っててくださいね」
ゾンビは時間をかけて本をじっくりと読みこむ。
「ふむふむ。やはり、邪神器のことが書かれていますね」
「え、本当か!?」
「洞窟の奥深くに隠してあるそうっすね。ただ有事の時にすぐ取りに行けるように、魔王城とはさほど距離は離れていないみたいっす」
「魔王城の近くにある深い洞窟…… あそこかもしれないな!」
「行ってみましょう!」
二人はその場を立ち上がる。
「この本は君達にあげよう。読める者が持っているべきだ」
「ありがとうございます!」
二人は軽やかな足取りで、ドワーフの小屋を飛び出していった。




