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14.敗戦の責任

「クソっ…… どうしてワシが魔族風情に……」


 魔族との決戦に敗れた王国軍はボロボロの状態で、前線拠点である旧魔王城へ引き上げた。

 指揮官を務めたキハラヤス伯爵は敗戦から少し経った今でも、その屈辱に悩まされていた。

 伯爵がいるのは、もともと魔王が使っていた書斎。その部屋の扉がノックされた。


「入れ」


「伯爵。あのお方がいらっしゃいました」


 兵士が報告をする。


「そうか、応接室へお通ししろ。ワシもすぐに向かう」


「ははっ!」


 素早く身支度を整えると、伯爵は応接室へ向かった。

 応接室のソファには既に一人の男が腰をかけていた。輝く銀髪、赤と青のオッドアイ、雪のように白い肌、あらゆる者を虜にする美貌の持ち主だ。


「久しぶりだな。キハラヤス」


「これはこれは、ノスファルド公爵。遠路はるばる、よくぞお越しくださいました」


 キハラヤス伯爵は頭をペコペコ下げる。普段の尊大な性格の彼からは想像もつかない姿だ。


 相手は、ノスファルド・サフィア公爵。十代半ばの少年であるが、父親の早逝により僅か八歳で家督を継いだ。国王の弟の孫であり、王族に連なる高貴な血筋の人間だ。血筋だけでなく本人の実力も優れており、若くして国の要職をいくつも兼任している。


「都からの長旅、お疲れでしょう。歓迎の祝宴を催します」


「そんなものはいらん。私は忙しいのだ。本題から入るぞ」


「は、ははぁ!」


 キハラヤスの鼓動がどんどん早くなる。これから行われる話の内容の想像はだいたいついているからである。


「フーコの街での大敗は国王陛下の耳にも入っているぞ」


「そ、その件は誠に申し訳ありませんでした!」


 地面に這いつくばって許しを請う。


「指示に従った上での敗戦なら仕方がない。それは指示を出した方の責任だ。だが、勝手に戦争を始めて負けるのは決して許されることではない」


「おっしゃる通りでございます……」


「手柄が欲しくて暴走したのだろう。お前の家は先祖代々王族に貢献しているが、お前はろくな功績を立てられていないからな。実力に見合わない野心を持つとは、お前はこの上なく愚かな奴だ。人の上に立つ器ではない」


「ぐぐっ……」


 悔しさのあまり、声にならない声を上げる。今すぐ目の前の男をボコボコにしてやりたいが、ギリギリ働いている理性がそれを止める。


「私はお前を処刑するべきだと国王陛下に進言した。組織にとって、無能な働き者ほど厄介な存在は無いからな」


「処刑!? それだけはご勘弁を!」


 キハラヤスはノスファルドの足にすがりつく。


「ええい、気持ち悪い! その汚らわしい手で触るな!」


「ぐわぁっ!?」


 ノスファルドは思い切り蹴飛ばす。

 

「死にたくない! 死にたくない!」


 キハラヤスは恐怖のあまり、尿を漏らす。ズボンに汚いシミができる。


「私はお前は死ぬべきだと思う。だが国王陛下がな……」


「……?」


「先祖代々の功績によって、死罪にはしないとのことだ。国王陛下の懐の深さに感謝するのだな」


「よかった…… よかったぁ……」


「だが、ただで許すわけにはいかん。お前のせいで多くの兵の命が失われたのだから。死んだ兵の遺族に補償金を払うのに、かなりの金も消えた。この落とし前はつけてもらわねばな」


「兵の遺族に補償金? そんなこと法律には……」


「私の判断でやったことだ。財源は全て私の個人的な資産。文句はあるか?」


「い、いえ……」


 キハラヤスは内心、納得いっていない。ノスファルドが勝手にやったことなのに、どうして自分が落とし前をつけなければいけないのか。しかし、それを表に出すことはしない。クズでゲスで馬鹿な彼でも、上の立場の者に逆らってはいけないことくらいわかる。


「それで、何をすれば許していただけるのでしょうか?」


「これを見よ」


 机の上に地図を広げる。


「この印がついている場所が、魔族の大規模な集落だ。この中のどれか一つを落とせ。戦争の失敗は戦争で挽回するのだ」


「わ、私がまた戦争を…… できるでしょうか?」


 本陣の奇襲を受けたことがフラッシュバックする。今までの人生で、敵にあそこまで近くに迫られたことはない。並々ならぬ恐怖を感じた。


「魔王が行方不明となり、魔族達は今や風前の灯火。着実に準備を整えれば難しいことではなかろう。できるか、できないかではない。やれ」


「か、かしこまりました」


「次ヘマをしたら…… わかっているな?」


「ははあっ! 必ず成功させてみせまする!」


 地面に両手両膝をつき、深々と頭を下げる。


「では、私は仕事に向かうとしよう。お前に会いにきたのは、そのついでだ」


「仕事…… ですか?」


「行方不明の魔王の捜索だ。最後に目撃されたのが、魔王城から逃げ出した時。もうどこかで野垂れ死んでいるだろうと噂されているが、自分の目で確かめるまでは信用できん」


「さようでございますか」


「では、私は急ぐぞ。さらばだ!」


 ノスファルドは城を飛び出すと、白い馬を走らせた。


「あのクソガキが!」


 誰もいなくなった部屋でキハラヤスは叫ぶ。


「ワシの孫よりも年下の癖に、偉そうな口をききやがって! 国王に近い血筋だからって調子に乗りすぎだ! ワシが出世してあいつよりデカい権力を手に入れたら、絶対に処刑してやるわ! ぶっ殺してやる! うわぁぁぁぁぁ!」


 部屋の中で暴れまわり、周囲の家財道具をことごとく破壊した。




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