3-9(感知)
ウーザ・リルザは目を閉じたまま、ぴくりと気配を揺らした。
「魔力が動いた。ダナ神のものだ」
呟かれたそれは“声”ではない。思念であり、そこにいる者たちの頭に直接響く言葉だった。
春の陽気になったといっても、まだま寒い洞窟である。日光の恩恵が少なく湿っぽく、うっすらと苔などが生えている狭い穴の中は、人が立てるかどうかの高さしかなく、冷ややかな空気をよどませている。
見た目には。
実際には奥に座する者のおかげで穴全体に『力』が満ちあふれて暖かで、心なしか明るくすら感じられる状態にあった。
ウーザの力である。
座りこんでピクリとも動かない石像のような彼を囲んで座るのは、エノアとケイヤ、それにリンである。
「確かか?」
「確かに」
彼らの会話はすべて音なく交わされている。ウーザの五感は失われていた。
聞こえない会話を聞こうとするには、魔力を使う。リンがこの会話を聞けるのは、元々の力もあるが、ウーザらがリンに聞こえるように送ってくれるから受け止められるものだ。自分が発する方は、伝えることなどまったく叶わない。
ウーザの力は、洞窟を包みこんだ上に“念話“をしても、なお衰えない。感覚のすべてを『魔力』に費やすようになり、力が一層、強まったのである。ウーザの心象は「いっそ石になれて清々しい」とすら思っていそうなほど明るさを感じるものだった。
その上さらに他方の魔力を感知するとは、一体どれほどの力を持っているものか……。
「“遠見”ができるか」
尋ねたのはエノアだった。同調しない魔力の術までは分からないらしい。
「ただ感じるだけよ。他の感覚がなくなって『魔の気』が研ぎ澄まされてな、漠然とだが気の流れを常に感じるようになった」
「それは大変ね」
「慣れれば呼吸と同じこと」
気の毒そうなケイヤの思念に、ウーザは笑って応えた。
それらの『力』すべてを感じ続けている状態が、疲れないわけがない。むき出しの肌を火であぶるような、耳を壊すほどの騒音を常に聞き続けているようなものだ。ウーザの体調を体感できずとも、その辛さは想像できる。
「優しい子だ」
もしウーザが動けたら、リンの頭を撫でただろう。それほどに柔らかいウーザの『気』が、リンに向けられた。
リンが強ばってしまったので、ウーザはつけ加えた。
「心を読んだわけではないよ。お前から感じる『気』の色が、そのように見えただけだ」
その言葉に間違いはない。胸の奥深くに他人が侵入してくる感触を、リンは知っている。今は、それを感じない。
本当に優しい人とは、こういう人を指すのではなかろうか、とリンは思う。他人に入りこまず、それでいて受け入れて見守る──それが魔道士たちの目指す道なら、それはどんなに優しくて冷酷な道だろう。
滅びすらをも見守るというのなら。
「動いたダナの気とは……」
エノアが飄々とウーザに話しかける。リンの様子を気にかけたふしは、微塵も見えない。
「ダナ神ですか?」
「分からぬ」
ウーザは苦笑するかのような思念を洩らした。
「そのように大きな力が動けば、お主が分からぬわけがなかろうよ。エノア」
「買いかぶりすぎです」
「そもそもダナ神の名が、なぜ出る?」
「生きていると思っているからです」
と言うものの、エノアの言葉には何の感情も込められていない。実際の顔のみならず心にも面をつけられるエノアの能面ぶりは、逆に言えば、そこに何かを隠しているということだ。もし体が動けば、ウーザは肩を竦めただろう。
「何もかもを見透かされている気がするわい」
「見えません。ウーザが教えて下さるまでは」
ここまで断定して話していれば、ケイヤのみならずリンでも、エノアがなぜウーザに会いに来たかが分かる。エノアはウーザが、ダナ神の……ひいてはラハウの所在を知っていると確信しているのだ。
リンはふと、自分が魔道士の村に迎えいれられた日のことを思い出した。何も見えない真っ白な雪山で、ピンと一度だけ何かが瞬いた時。思わず足を止めて振り向いた先にあったのは、この場所だったのだろうか。
ウーザから感じる思念も、それを肯定するものだった。
「だが今この時点での所在は分からぬよ」
答えたウーザの言葉がかき消えて、突然、脳裏を“記憶”が埋めた。
大河の氾濫を思わせる凄まじい情報が、まぶたの奥でチカチカと点滅した。すべての五感がそちらへ引っぱられる。自分が立っているのか座っているのか、いや、在るのかすらも分からなくなりそうだ。
ウーザの記憶がそのまま頭にねじ込まれるのは、エノアたちならともかく、リンにとって“遠見”以上の衝撃だった。ウーザはリンにだけは力を加減したようだったが、それでも大きな力だった。リンの、10歳の少女と思えない落ち着きぶりにウーザが見誤ってしまったのである。
声なく丸くなって体内の“記憶”と戦う少女に、心配の気配が漂った。
だがリンは耐えた。
念話ができないので、そこで初めてリンは声を出して謝罪した。
「失礼致しました」
ウーザには、耳に届かなくとも心に届くだろう。
場の空気が和らいだ。
見えたのは、血みどろの男だった。全身を真っ赤に塗らして死にかけている黒髪の男を、ラハウが手にぶら下げて立っていた。念願の者を手に入れて微笑む、満足げな顔。その顔が「満足だ」と分かるのは、リンだからである。ウーザ自身はこの時のラハウがどんな気持ちでいたかを見抜くことができなかったらしい。ウーザの記憶からは、彼の“戸惑い”だけが、くっきりと伝わってきた。
『助けちゃくれないかい。あたし一人じゃ骨が折れる』
当然のように淡々と言い、瞬時にラハウは洞窟に“転移”した。ちょうど今リンが座っている、この場所へ。
リンは地面に手をついた。ウーザの『力』に守られている空気の中では、土が湿っていてもリンの膝を濡らさず、不快にさせない。おそらくは黒髪の男も、このような空気の中にいたのだろう。
オルセイ、だったはずだ。
クリフさんがそう呼んでいた。
リンが感知するウーザの記憶には、オルセイの心がない。オルセイの心が見えないので、ダナの意志も、こちらには読み取れない。
生き返ったダナに、ラハウは何をさせるつもりなのか。
本来、可能だったなら自分の中に降臨するはずだった、ダナ。
『他の媒体を知らないかい?』
脳裏に蘇える、ウーザに言われたラハウの言葉。もうダナたるオルセイがほぼ安定した後に交わされた会話だ。媒体を求めるということは、もっと力が欲しいということだ。
ラハウはウーザにダナ神を預けて、媒体を手に入れに行きたかった? ダナを制御するために。
そう思った時、リンの脳裏で戦いが起こった。
ラハウの思惑を止めんとする、ウーザの抵抗。
むき出しの感情は、痛いほど理解できた。理解できることと同意は違うが、ウーザがそうしたくなった心ははっきり分かる。
ダナたる青年を見殺しにできなかった人間味と、ラハウを見逃せなかった人間味。
リンは、ラハウのことも知っている。くるくると変わる感情で本心を隠してきたあの人は、クラーヴァ城内で魔法の普及に勤めながら、よく、人々が7神と魔法から離れて行くことを憂いていた。
忘れてはいけない。
ラハウがダナを呼んだのは忘れさせないためだ。荒療治で傷口を切りつけて膿を絞り出すような……ラハウにとって魔力を忘れた人間は、腐った膿だったのかも知れない。
7神が伝説になり、魔力が弱まり、魔法が使われなくなり、魔道士が忘れ去られる。そうなった世の先を危惧したラハウが行動を起こさずにいられなかった気持ちは、ウーザも分かるのだ。
だが、そのために取ったラハウの行動を認めるわけには行かない。
魔道士としてではなく。
人として。
「滅せられるとは思っておらなんだ。時間を稼ぐだけで構わぬと思うたのは……エノア、お主に託そうと思ってな」
一連の記憶を見終えたエノアらに向けて、ウーザが軽く言った。まるで、木から落ちた小鳥を巣に戻してくれとでも言うような簡単な響きだった。
「死に損ないの『力』が要るなら、与えよう」
「卑怯な」
エノアの声音が若干、自嘲気味に感じられた。リンは顔を上げて、目を見開いた。エノアが苦笑していた。
それと同時に、リンですらも感じた。
いや、リンだからこそと言うべきだろう。
ウーザから流しこまれた大きな力に耐えたことで気が張りつめていて、神経が研ぎ澄まされた。魔力が充実しており、加えてリンはラハウの気配に敏感である。その『気』を捕らえられるだけの力を持ちあわせていたのだ。
「ラハウ様……?」
リンが呟いた。
全員が緊張した。空気がピンと張りつめて硬くなった。
「始めおったか」
ウーザは苦々しそうな、どこか不安げな呟きを洩らした。暖かだった洞窟の温度が、一気に冷えた。急速に魔の気が満ちた。エノアのものだ。
「“転移”する。西の方角だった」
「駄目よ、場所が定かでないわ」
ケイヤがやんわりとした口調でエノアを止めたが、彼女からも焦りが感じられた。口調は務めてゆっくりと出したものだったのだろう。
浮き足だった、騒然とした気配が洞窟に広がる。エノアの持つイアナ神剣が震えた。強い魔力を抑え込まれている神剣は、今にも暴れだしそうだ。
「気を溜める」
エノアは両手で神剣を握りしめ、それを鎮めた。同様にケイヤもランプを持つ手に力を込めたようだった。クーナ神の小さな鏡もザワリと鳴ったようだったが、どちらもイアナ神剣ほどではない。剣がそのように騒ぐ相手は、クーナ神ではない。ラハウの守護神はクーナである。
ダナだ。
ダナ神も、動いたのだ。
先ほどの『ダナ神の力を持つ者』の魔力ではない。
その場にいる4人ともが感じた力の大きさは、そのようなものではなかった。
「行動を始めたのなら、もう力を抑えたままではいられまい。近いうちに、また捕らえられるはずだ。すぐ飛べるように術を練る。補助を頼む」
エノアは早口でそう言って座りなおし、呪文を口にしだした。一瞬のうちに皆の存在を排除している。
一刻も早く。エノアから、そんな空気が読み取れた。ジェナルム国の惨劇を起こしてはならない。世界が手遅れにならないうちに。
ラハウ共々、滅さなければならない。
リンは一人で“転移”するつもりのエノアに対して澄みきらない澱んだ何かを感じながらも、彼を無事『力』の方向に飛ばすために呪文を口にした。
◇
襲撃に至る、少し前の夕闇である。
ラウリーらの準備はきらびやかな着替えと化粧であり、とても戦いに行くように見えない。けれど彼女らにはすでに緊張感が漂っていた。
「ラウリー……大丈夫?」
先日から何度、この言葉を聞いただろう。
聞くたびラウリーの胸には、うんざりする気持ちと共に、ロウソクのような暖かさが灯る。かつてナザリが守ってくれた一本のロウソクを思い出す優しさが身に浸みこむ。
ラウリーはマシャが自分の唇から筆を放したのを見てから、ゆっくりと微笑んだ。乗せたばかりの紅は艶やかにラウリーの笑みを彩った。
踊り子の格好。
半透明な絹のズボンに、光沢のある腰ひも。上着は胸の下までしかなく、ヘソが見えている。首輪に、腕輪に、指輪に耳飾り。これ以上は着けられないと思えるほどの飾りはすべて遊びじゃない。自分を飾って少しでも色気があるように見せる、これは戦いだ。
側の机には黒い油が入った壺も用意してある。ラウリーはそれを触る時、少しだけ震えた。
「ルイサ。やっぱり、あたしも行くよ」
マシャが堪えきれない様子で声を上げた。ラウリーと同じく踊り子の衣装に身を包んで化粧に勤しんでいたルイサは「駄目よ」と冷たく言い放った。
敵陣といっても普通の港町だ。宿や家の幾つかは“キエーラ・カネン”のアジトになっている。ルイサらは、街の中にある宿の2階から港の敵を眺めつつ、堂々と準備をしていた。
「マシャには皆をまとめてもらわなきゃ。あなたの爛漫さは勝利を感じさせ、皆を惹きつける。それは自分でも分かるでしょう」
「分からないよ」
マシャは拗ねた声を出したが、ルイサが続けた言葉に黙るしかなかった。
「2人だから安心させられる。3人じゃ警戒されるわ」
「……」
かと言って自分ではルイサの代わりになれない。15歳という年齢と体躯が持つハンデをマシャは承知している。ラウリーとマシャのコンビでは、子供連れにしか見えなくなる。
用意を終えたルイサがナザリらと打ち合わせるために階下へ降りて行ったのを見て、ラウリーが椅子を動かしてマシャに向いた。音のない飾りではあったが腕輪が椅子に当たって、静かな部屋にキンという音を響かせた。
「いけない。気を付けなきゃ」
ラウリーは腕輪を押さえて、そっと手を離した。腕輪は音なくするりと肘まで落ちた。マシャが不安げな面持ちになっている。
「ねぇマシャ。聞いてくれる?」
「?」
月光のない部屋にはランプが一つだけしかない。それも極力抑えたもので、化粧を終えたラウリーの顔を一層大人びて見せた。
「私はこの戦い、何のために参加するのって聞かれたら『自分のため』って答えるけどね。でも死に場所を求めてとか自棄になってとかいう、そんなわけじゃないわ。皆を守りたい。だから死にたくない。死ねないわ。大丈夫」
ラウリーは膝に手を乗せて、背筋を伸ばした。マシャは一瞬「皆」の部分にツッコミを入れかけたが、ラウリーの表情が真剣だったので口をつぐんだ。様子が違う。
一瞬ラウリーは視線を遠くに飛ばしたが、またマシャに視点を定めて微笑した。
「オルセイ兄さんが死んだ時、私はただ空虚だった。私が何も食べたくなかった時、マシャは『死んじゃうよ』って泣いてくれたよね。でも、あの時も死ぬって何だろうって感じでボンヤリしてた。本当にごめんね」
「そんな……ラウリー、突然そんなこと言いだしたら永の別れみたいじゃんか」
マシャは苦笑して椅子の背もたれにもたれた。だが、笑おうとする声はどこか硬かった。
ラウリーは構わず続けた。
「クリフがね、」
と。
「回復したクリフが私にひどいことをして、冷たいことを言ったの。びっくりした。びっくりして、悔しかったら俺を倒してみろって言われて……気が付いた。この人が兄さんを殺したんだっけって」
「ラウリー。どうしたんだよ。止めなよ」
マシャは泣きそうな顔でラウリーの腕を取った。それをラウリーが握り返す。
「ごめんね、続けさせて。クリフに会ったら、この戦争が終わったら、伝えて欲しいの。“ごめんね”って。私ずっと今まで、自分の気持ちを持て余していた気がする。持て余して苛々して、何をどうしたいのかも分からなくて……」
ふっとラウリーは言葉を切ったが、中空を眺めて言葉を紡いだ。
「段々、兄さんの色々な顔が消えていって」
マシャは立ち上がってラウリーにしがみついた。胸に紅がついたようだったが、そんなものは後から塗り直せば良い。マシャは強くラウリーの肩を抱き締めた。そんなマシャの背中を、ラウリーがぽんぽんと撫でた。
「兄さんに会いたいなぁって思うようになったら、何だか急に分かった気がしたの。ああ、これが『死ぬ』ってことかなって」
薄く開いた窓から、星明かりが差しこんでいる。ランプに負けそうなほど弱々しい明かりだったが、今夜は星が満点らしいと分かるほど、綺麗な光だった。
月がない分、星が輝く。
兄がいなくなって初めて気付いたクリフの大きさは、自分を戸惑わせた。幼い頃からの彼が全部、思い出された。負けん気が強くて、兄と対等になれるまで頑張って、体を苛めて訓練して……そうして目標を達成した時の彼はいつも、さばさばとした明るい笑顔を見せたものだった。
その笑顔が、もう一度見たくて。
兄の顔が、もう見られないのなら。
「忘れたくないって思ってた。ずっと。兄さんの顔を忘れそうな私が嫌だった。でも苦しんでるクリフを見てたらね」
ラウリーはマシャの腕をそっと外して、そんな彼女の額にコツンと自分の額を当てて笑った。
「忘れられないのも痛いなって思ったの。これって結構、正解じゃない?」
上目遣いで笑う至近距離のラウリーに、思わずマシャも微笑んだ。
「そうだね。多分」
忘れることが良いことだ、とまでは言わない。けれど人はどんどんと新しい事柄を記憶に積みあげていって、古い記憶をうずめて行くのだ。心の奥底に、下の方に。
ふいに思い出して、昨日のことのように泣ける日もあるけれど。
「あ」
「え?」
ラウリーは急に溢れた涙に、自分でぎょっとした。
化粧が落ちる。慌てて深呼吸をして目を見開き、涙を止めようとした。
「やだな、もう。今さら泣かなくても良いのに私」
ラウリーはおどけて、笑いながら目を押さえた。上手く拭わないと化粧が落ちる。するとマシャが、
「違うよラウリー。今だから泣けるんじゃん。始まったら後悔してる暇もないし」
そう言いながらラウリーの目元を、化粧に使った布でそっと拭った。
「でも今は泣きやむに一票。終わってからさ、生きて、ゆっくり泣こう」
「……ありがとう」
ラウリーは少し顎を上げてマシャに顔を預け、目を閉じた。最後の涙がポツンと落ちた。
そのような表情で目を閉じられたら、充分、色気がある。マシャは苦笑して、彼女に紅を差しながら呟いた。
「それから“ごめんね”も。あたしはクリフに伝言なんかしないよ。自分で言いな」
ラウリーはちょっと顔をしかめて、薄目でマシャを睨んだ。
「意地悪」
「“ピニッツ”を甘く見るな?」
マシャは晴れ晴れした笑顔で、ラウリーを見送った。
「振り返るんじゃないよー。また会うんだからさ」
玄関先でそう言われたら、振り返るに返れない。ラウリーは前を向いたまま手を振って、ルイサに付いて歩いたのだった。クリフには会えなかった。いや会わなかったというべきか。
顔を見るのは、言葉を交わすのは終えてからだ。
確かな足取りで戦場に向かう。
そして戦闘。
訓練の賜物が花開いても気は抜けない。ここからが本番である。
船内に降り注いだ黒い油はラウリーの火花を受けて、一気に燃え上がった。油の色にふさわしい、異臭を放つ煙が狭い通路に充満し始める。
少女を背負ったルイサと剣を握ったラウリーは、出口に急いだ。金属が沢山使われている戦艦だといっても、木造部分の方が多い船である。着火した炎はなかなか消えず、どんどんと船を蝕んで行く。
「!」
だが前方からも兵が押しよせてきた。ルイサらを見咎めていた兵が気付いたのだろう。彼らは炎におののきながらも女たちを逃がすまいと通路を塞いできた。ルイサは咄嗟に、通路から下方に伸びている階段に身を退いた。こちらの階段は先のものとは別のようで、まだ火の手が回っていない。
ラウリーはルイサの横をすり抜けて、兵に立ちむかった。
「やあああっ!!」
振りおろした剣が、ソラムレア兵の肩を砕いた。
~4章・海上交響曲に続く~