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3章・ヤフリナ狂想曲-1(心鬱)

 ふと気付くと、心が(かげ)っていた。

 いや実はこの状態でも充分、晴れた心境なのかも知れない。心のあり方など、自分が作るものだ。

 五体満足で生まれて、五体満足のまま育った。生き方に疑問を持つ暇もないほど密な日々だったので、不満などという言葉すら思い浮かべなかった。他人を落とす暇があったら、自分を高めた。

 はずだった。

 いつからだろうか。

 充実しているのに。満ち足りていたのに。幸せだったのに。

 その幸せを否定する自分が深層に潜んでいたことになど、気付きたくなかった。

 自分を高めようとすると、幸せという名が汚泥に変わり、自分の足を引っぱった。

 このままで良いのかと“変化”を求める自分を、このままで良いのだと押し返してきた。その“変化”だって、どのように変わりたいのか何が不服なのか、具体的には分からない。ただ漠然とした不安でしかなかった。

 だが、そんな不安も一つ、人生をいろどる付属品みたいなものだろう? と自分に言い聞かせてみた。人は迷い、間違い、後悔と反省を繰り返して生きてるもんだ。

 それに変化なら沢山あるじゃないか。

 毎日、毎朝が同じ朝に見えるが、毎日が違う。その日に起こる出来事だって、何が起こるか分からない。俺は毎朝、新しくなる。

 友は次第に男になり、妹は徐々に女になった。

 俺も段々と。

 段々と、変わってきた。

「お目覚めかい?」

 声が聞こえた。

 そう思ってから彼は、違うと気付いた。耳の鼓膜を震わせて侵入してきた声でなく、それは直接頭に響いてきた言葉だった。

 なぜ、そう思ったか。意識が浮上したのに自分の体が動かせず、五感すら働いていないからである。手は動かせず、まして目も開けられず何も見えない、聞こえない。肌を撫でているはずの空気の温度も感じられず、自分が立っているのか座っているのかも分からない。

 分からないはずなのに。

「誰だ?」

 彼は自分の側に座る黒い者に、問うていた。心で。

 開かない目で、彼はすべてを見ることができたのだ。自分の姿すらもが見えた。仰向けに眠っている、死人のような自分。その下にはベッドなどない。石の床だ。

 壁も屋根もすべて石で作られている、小さな部屋だった。光がローソク一本しかない、閉じられた、とても暗い部屋だ。もし触感があれば、自分はここを寒いと感じただろう。彼には、この部屋が氷のように冷たい部屋だということが分かるのである。

 家具も絨毯も何もない部屋にポツンと存在するローソクと、自分と、老婆。

 先ほど自分の中に入ってきた声は、言葉以上のものを伝えてきた。地を這うような、それでいて空気に溶け入りそうなほど存在感のない声なのに厚みがあり、胸を叩くかのように響いた、しわがれた声。

 黒いマントですっぽりと頭から全身を包みこんで鎮座する彼女は、彼の問いに笑ったようだった。

「“念話”ができるとは上出来だ。だが記憶がないのかね? お前さんともあろう者が名を問うとは」

 けれど、そう言いながらも彼女の声音は優しいものだった。

「そういう無駄は好きだがね」

 無駄か。

 なるほど無駄だ。

 この世のすべては無駄で形作られている。

 意識の覚醒と共に、徐々に記憶が蘇ってくる。

 それでも自分は、この老婆の名を知らない。自分を呼び落とし、瀕死に至らしめて蘇生して、操ろうともくろんでいる、この老婆を。

 彼の体が横たわっているその床には、円と奇妙な印が描かれている。その円陣の中に彼は収められていて動けない。円陣は彼を回復させようとするものであると同時に、彼を意のままにせんとするものだ。おかげで彼の『力』は抑えられ、2つの意志が器の中で混在し融合して、今に至る。

「さて、どちらで呼ぶべきか。あたしはラハウだが」

 彼は失笑した。

 このラハウという老婆はすでに、自分のことを自分以上に熟知している。

「元々ダナは、存在をしていないのだ、器の名で……オルセイで構わん」

「まぁ“在る”ためには、器さえありゃあ良いからね」

 同意するラハウの言葉を感じてから、初めて彼は彼女もまったく動いていないことに気付いた。

 彼女もまた彼と同じで、体が必要最低限しか機能していないのだ。

 彼がそう気付いたことをラハウは読み取れるらしい。

 ラハウは軽い口調を使った。

「魔力を御せない器なぞ、それこそ無駄さ」

『力』のためだけの生。彼女にとっての生は、その程度なのだ。

 その在り方に好感を持った彼は、彼女に沿う気になった。ラハウを警戒していた彼の『気』が和らぐ。ラハウがそれを感じたのか、微笑む感触を彼に送った。

「嬉しいね。婆ぁの話し相手になってくれるのかい」

「器も動かぬわ円陣に封じられているわでは、無駄とて愛せよう」

「『力』が戻れば動けるさ。例えその時お前さんに殺されても文句を言わんから、今は大人しくしておいで」

 まるで子供か孫に言い諭しているようだ。老婆は純粋に人を愛し、生かそうとしているのだと、彼には分かった。

 その気持ちに応えるように彼、オルセイは吐き捨てるように言った。

「死を恐れん者に手向ける死ほど意味がないものはない」

 だが、そう吐き捨てながらもオルセイの心は、浮かれた空気を周りに撒き散らしていたらしい。再び自分が存在していることへの不思議な感慨が、彼に喜びを感じさせているのだ。

 自分のすべきことが見えたような、そんな思いを持った。

“死”のためにも“生”はなければならない。

“生”のために存在している、自分という“死”の神。

 彼はふと“生”という言葉に対し、赤髪の友を思い出した。

「ずいぶんと嬉しそうじゃないか」

 老婆の揶揄を笑みで受け流し、オルセイは呟いた。

「心が晴れた」

 暗く閉ざされた室内で交わされる声のない会話を聞く者は、誰もいない。そして、その気配すらもが、また闇に沈んでいった。


          ◇


 彼がチッと舌打ちをするなどというのは、とても珍しいことだった。

 捕らえかけた意志があったのに、すぐに霧散してしまって意識のカケラすら手にできなかったのだ。彼は頬にかかった翠の髪を、いまいましげに払いのけた。

 彼が舌打ちなどしたのは、生まれて初めてだったかも知れない。“舌打ち”などという感情表現を必要としない日々だったから。いまいましいなどという感情を持つ必要がなかったから。

 しかし周囲に誰か一人でもいたら、彼は絶対にそんなことをしなかっただろう。だが今は、あまりにも意外な厄介を前にしていることもあり、舌打ちを禁じ得なかった。

 消えてしまった意識は、もう追えない。

 今は逃げる方が先決である。

 そう思いながら彼が走るのは、山奥深い森の中である。

 ひるがえるマントは漆黒だ。その下に着る服もすべて黒で覆われている。枯れ草と枯葉がひしめく中を駆けているにも関わらず、彼には足音がない。まるで風に乗って飛んでいるかのように疾走していた。

 今はフードが取れて、翠の髪が露わになっている。端整な顔立ちに風を受けて眉を寄せるその下で、切れ長の瞳が一層鋭い光を放つ。鮮やかな翠色をしているまつげが、ちらりと震えた。

 叫声が降りかかった。

 それと同時に針のように尖ったものが、彼めがけて降ってくる。

 彼は音もなくスルリと避けた。獲物を逃して、そのものが再び叫んだ。汚く潰れた、甲高い声が空いっぱいに木霊した。声は森の隅々にまで響きわたり、それに釣られて増えていく仲間が、大群で彼の頭上にひしめいた。

 集団で死肉をついばむ猛禽類、ケーディという鳥である。人の頭ほどの大きさを持つ胴体と、その数倍大きな、黒と茶でまだら模様になっている翼。鋭いくちばしが黒光りしており、三白眼は黄色く濁っている。

 だが、いくら鳥ゆえの愚かな頭であっても、生き物すべてに畏怖されるべき強大な魔力を持つ男にケーディがくってかかるというのは、おかしなことである。普通なら、この男が一睨みすれば人間のみならず頭を垂れる。

 考えられる理由は2つだ。男の魔力が弱まったのか、群れを率いる先頭のケーディが普通でないかである。もしくはその両方かということになるが、今、彼の魔力は衰えていない。2つの媒体は完璧に制御している。つまり後者だ。ケーディが内に秘めている力のせいで魔道士を恐れないのであり、そして、その力のせいでいつまでも男を追い続けていられるのである。

 いっそ皆殺しにするか……と危険な思考が彼の脳裏によぎったが、しかし、それが可能ならとっくに実行していただろう。これだけの数を殺せば森が壊れ、生態系が崩れかねない。

「まだか」

 と普通の者なら呟きたくなるほど、長い鬼ごっこが続いていた。

 このまま手に入れられないのならケーディにでもくれてやるか、と翠の魔道士は呑気なことを考えた。人の世でこねくり回されるよりも健全かも知れない。そう思ったのは、逃げ続けるのが馬鹿馬鹿しくなったためもある。背後に舞う鳥の群れは尋常な数ではない。空が黒いほどに埋めつくされている。その先頭を飛ぶケーディの魔力も、心なしか強くなったようだ。魔道士を追うことで影響を受けたのだろう。

 ひょっとしたら、このケーディは“あれ”の使い方を会得してしまうかも知れない。とすら思える魔力の放出が、空に起こった。翠の魔道士は身をひるがえし、ケーディに向かってスッと手を伸ばした。マントが大きく広がった。

 やはり手に入れるべきだ。

 神石を。

『南だ』

 ──暗黒の空間に響くその声には、まるで実体がないかのようだった。

 南の森にあると感じられた、神の石。それを察知した時、彼らは北の山にいた。

 何も見えない、そこがどこなのかも分からない闇だったが、そこにいる者は闇を恐れない。人間の気配を持たない、魔の気だけが漂う閉じられた空間である。

 いや、ほんのわずか。

 その日の気配には、一カケラだけ人の気配が混ざっていた。比較する相手が魔道士だからこそ感じられる、かすかなものだ。

 かすかな人間の気は、一つ。

 強大に満ちる魔の気は、8つである。

「リン」

 知った声に名を呼ばれた、人間の気を持つ者は、少し空気を揺らして呼吸した。

「平気です」

 彼女の魔力だけが遅れを取ったが、それはすぐに修正されて魔の気に溶け入った。空間に『魔の気』が凛と響き、高まっていく。

 術が始まったのだ。

 静寂な闇が作りあげる濃厚な空気を、『魔力』が切り裂く。

 何の前触れもなく、全員が一斉に詠唱を行った。沈黙を破るのでなく、その声すらもまた“沈黙”であるかのように、淡く響いた。古代の言葉が紡がれる。徐々に言葉が力を帯びる。力ある言葉に魔の気が高まっていく。絡み合うようにして、7本と小さな一本の『気』が()られて結ばれて、声を高くしていく。天に登りつめていく。

 頂点。

 高められて締め上げられて、一本の細い針のように鋭くなった『魔力』が、世界をつらぬいた──と、思えた。

「?!」

 リンは思わず声を上げかけた。

 初めての“遠見”は、それほどの衝撃を彼女に与えたのだ。

 驚き、心の中をすべて世界が埋めつくしたような広大な映像に、頭が混乱した。その時には、術はもう霧散していた。終わった。果てたのだ。

 リンは自分の体がひどく疲れてしまったことに気付いた。

 たった一つの術を、しかも8人分の魔法で練り上げているというのに、立つことも困難になっている。それほどに甚大な魔道士の術はやはり今さらながら、人間などが使えるものではない、と実感する。クラーヴァ城にいた魔法師全員で同じことをしても、王都すべてが見渡せるかどうかだろう。

 けれど、それに耐えた自分の体もまた、普通の人間より魔の気が強いのだということを、彼女は自覚している。当然だという思いも、心のどこかにある。

 自分は、ここにいる7人を凌駕しているに違いない最強の魔道士に育てられた子供なのだから。

『リン』

 最強の魔道士は、かつてリンに言った。

『欲しいものは何なのか、はっきり言える子におなり。その上でそれが本当に必要なのかと考えて、切り捨てるんだよ』

 10歳(とお)に満たずとも、彼女にはその魔道士が何を言いたいのかが理解できた。痛いほどに。そうして少女は今に至る。

 まだ自分が、かの人の言葉をすべて実行できているとは思えないけれど。

 それでも、そんなリンにとって同じ思考を共有するこの闇は、とても心地よかった。リンは回想によって落ち着きを取り戻し、改めて、脳裏に広がる世界に身をゆだねた。

 心の中に、夢の断片のように小さな光がいくつも輝いている。大きいものから小さいもの。ほとんどは小さい。取るに足らない魔力ばかりだ。どの力がどの神なのかも分からないほどの微弱な『気』が世界を埋めつくしている。その中でも少し強い色を持つ『気』は、クラーヴァ国王都の方向に多かった。元宰相が魔法使いを多く育てたためだ。

 使い慣れていない、大きな力を持て余している者たちの『気』も感じられた。ネロウェン国の方角か。ダナ神の力と、イアナ神。

 ダナの力は、リンが別れた頃よりも安定していた。何があったのかを知る術はないが、魔力に、彼女の平穏な気が宿っているのが分かる。知らず、リンは安堵していた。

 その時、誰かが言ったのだ。

「南だ」

 ここロマラール国最北端に位置する魔の山から見た、南。ロマラール半島に、別の『力』が感じられるのだ。慣れないリンにとって、それはただの点でしかなかった。しかし力ある魔道士には、それが特別な光に見えるらしい。男の言葉に、皆が同意する気配が感じられた。

 他にもいくつかの力ある光が見えたように感じられたが、ラハウだと分かる『気』はなく、ましてダナ神と分かるそれもなかった。南の光は、何か別のものだ。

 声は、リンが知っているものである。

 その声が告げた一言は、そこに行くのだと示している。

 リンはもちろん、ついて行く気だった。

 口に出さずともエノアならリンの承諾が分かると知っていた。もう、ここにいる必要はない。

 しかし、それをさえぎる声が響いた。

「不要」

 と。

 男性の、低いかすれた声である。リンが初めて聞いた声だった。

 漆黒の闇がざわめいた。数人の『気』が乱れた。エノアの出立を止める声に、周囲も心を乱して意見を分かち始めたのだ。リンは肌を刺すようなピリピリとした空気を感じた。言葉なくせめぎ合っている強大な魔力のぶつかり合いに、心が壊れそうな危機すら感じた。

 痛い。

 エノアの決断を拒否するということは、降臨したダナの行方、顛末を追うなということだ。追うなということは魔道士は、人間を見捨てている、関与しないということに他ならない。リンは、魔道士の魔道士たる必要は人世の和ではないのだと、痛感した。

 人の和は、世の和は、人が望む我でしかない。

 リンの『気』が揺れ、エノアに同調できなくなった。エノアは動揺しない。しかしリンは、覆いかぶさり重なってくる力ある気に、潰されかけた。沈黙であるにもかかわらず、そこには無数の言葉がひしめいていた。言葉はどれほど並べてつなげても、一つの答えにしか辿り着かない。リンに答を選ばせない。ラハウの軌跡を追えない。

 すると、そんな彼女を救うかのように空気を和らげる声が流れた。

「滅亡を望んでいるのではないわ」

 それはリンに向けられた言葉だった。

 魔道士が練る強烈な警告の意味を、リンは誤解しかけていた。人間には、滅亡しかないと魔道士は思っている……そう思わせられるところだった。

 その直前に舞いおりた言葉は、間違いなくリンを救った。リンは自分がこわばっていたことに気付き、闇の中、指先の温度を感じなおして息を整えた。内心でケイヤに感謝しながら。

「魔道士は、人に捕らわれる存在ではありません。生そのものを受け継ぐのであり、生の起源である『力』を有することが役割です。ラハウがまだ魔道士だというのは、人に頓着していないということです。つまり彼女は、滅びろとも栄えろとも望まなかった」

 ──そう話すケイヤも、エノアと共に南の森に入っていた。その側ではリンが彼女の術を補佐しつつ見守っている。

 ケイヤはさらに言う。

「なるようになる。なるようにしか、ならない。どちらにどう転ぶのかが分からない『未来』に、無作為に手を加えることを望んでいないだけなのよ。他の魔道士たちはね」

 光が降りそそぐ中で見るケイヤの横顔は、年を重ねていても凛と輝いていた。『力』を使っている最中だからでもあるのだろう。手を加えると決めた彼女に、迷いは見られない。

 今、彼女の前には一本の木が立っていた。彼女はその木のうろに手をかざし、集中している。うろの中にある、人の手が作った物に対して。

 頭よりは小さい、手の平よりは大きい銀細工。糸のような銀を編んで四角い箱形にしてある、それはランプだった。ランプの屋根にも繊細な装飾が施されており、そこに指の先ほどの大きさしかない丸い石がはめこまれていた。

 緑色の石は、銀装飾によく映えていた。

 今はまだ魔力を発していないが、力ある者が手にすると暴走してしまう石である。

 リンの補佐を受けながら魔力を整えたケイヤが、ゆっくりと慎重にそれを手にした。しわの刻まれた細い指がランプを引っかけて、かすかな音を立ててうろからそれを抜きとった。

 紫髪の老婆、ケイヤが安堵する様子を確認して、リンも呪文を止めて呼吸を軽くした。とはいえケイヤの力に感嘆したわけではない。気を抜いただけだ。

 むろん神の媒体たるそのランプを制御できることは素晴らしいし、クラーヴァ王都にいるどんな魔法使いにも無理な技だろうとも分かる。先にラハウやエノアに会っていなければ、この者に仕えることも辞さなかっただろう。

 ケイヤは、優しい人だ。

 魔道士が、人間であるにもかかわらず、欲を抑え、感情を消そうとすることは、同時に、心を消すことかとリンは思っていた。心に天秤が生まれると……物事の判断に心を交えると、正しい選択ができなくなる。リンはラハウから学んだことをそのように解釈し、自ら心を放棄した。

 すぐに戻すことなどできないし、まして心の使い方など分かるべくもない。

 ――無表情のまま立ちつくしてケイヤを見ていたリンは、突然ポンと頭に手を置かれたが、それには驚かなかった。背後から近付かれたことに、気付いてはいなかった。だが、この森にいてリンが気配を察せなかった者に、リンが驚く必要などない。リンは振り向きすらせず、その者を敬うべく一歩横に退いた。

 エノアが戻ってきたのである。

 しかもケーディを従えて。

 フードを外した彼の顔に並ぶには、肩に乗っているその鳥は、あまりに醜い。ラウリー辺りなら号泣しそうだ。ケーディは先ほどの敵意をすっかり失っていて、長年連れ添った相方のようにエノアの横顔を見つめている。その一羽以外のケーディは四散している。ケイヤが、ランプを手にしたまま、くすりと微笑んだ。

「あなたらしくない術をかけたのですね、エノア。生き物の心を操ると、しっぺ返しを貰いますよ」

 エノアはケイヤを一瞥したが、飄々とした姿勢を崩さずに歩きだしただけだった。その態度が返答でもある。ケイヤも再度、微笑んだだけだった。

 ケイヤが“ニユ神のランプ”を手に入れるために、エノアが、番人だった魔力あるケーディを引きつけておいた。殺すほどのことではなかったからケーディの心を操って従えさせ、ケイヤがランプを手にしたので、戻ってきた……というわけだ。

 歩きだしたエノアの後を、何ごともなかったようにリンが付いて歩き、その後ろをケイヤも追う。だが先日、魔道士全員で行った“遠見”で見た光は、このニユのランプだけであり、他には何も見えなかった。次に向かう先は決めていないし、かといって村に戻っても意味がない。

 異を唱えた魔道士と袂を分かつほどには至らなかったが、彼らに助力を頼むことも、何もない。

「エノア。どこへ?」

 問われたエノアは足をゆるめず、振り向きもせずに言った。

「ウーザ・リルザの元へ」

 その声に合わせて、彼の肩にいた鳥がはばたいた。“忘却”をかけられて、元のケーディに戻ったのだ。まだ魔力を駆使する術を知らないケーディは、一声鳴いてから周囲を旋回し、森の奥に飛んでいった。

 リンが少し振り返って鳥を見送っている間に、エノアとケイヤは深くフードをかぶった。

す、すみません、後半の文章で時系列を前後させている描写が、わかりにくいかも……ちょっとばかりの手直しじゃ直らないなぁ……。

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