1-9(魔道)
森の土は踏みしだくと、硬い音を立てた。パキリと霜の折れる音、パサリと枯れ草の崩れる音。
その下から、春を待ちわびて生えてきた強靱な芽も見えるが、周囲の空気はまだ冬を示している。冷たく尖った風が、針のような木々やそこを歩く男を刺す。だが風も、髪のない男の頭にはつるりと滑っていくかのようだった。
薄い肌の色は、クラーヴァかロマラールか。
男は風を感じていないかの風情だ。むしろ春の到来であるかのように穏やかである。彼の服は突風にも舞わない。険しいはずの山道も、男にとっては散歩道だった。
そんな男の散歩に付きそう動物がいる。
肉食で4本足の、しなやかな肢体を持つ、灰色の毛をした森のハンター──ガープだ。人に慣れないどころか人界に姿を現すことさえない野性の動物が、この人間にだけは従順について歩いている。しかも一頭でなく、その男は何頭もの群れに取り巻かれながら、でこぼことした道をゆるやかに歩いている。
時々ガープがガウとうなり、それに男が微笑む様子は、まるで会話をしているようだった。
いや、まるで、ではない。
会話をしているのだ。
「ウーザよ」
そのどう猛な動物が発する声は、人間にはただの鳴き声にしか聞こえない。だが声帯を超えて“意志”を疎通できる男にとっては、ガープは自分の名を呼んだところだった。
ウーザ・リルザ。クラーヴァ国の北東に隠居する老人は、この上なく優しい顔に、この上なく悲しげな目をたたえていた。
「あやつらは、いつ去るのだ?」
ガープは低いうなり声を上げた。その声音は“あやつら”を歓迎していない。あまつさえウーザのことを非難しているような声だった。その者たちをウーザの住まいである洞窟に迎えいれたのは、ウーザ自身である。
「あれは良くないものだ」
ガープは歩きながら、さらに言う。呼応して周囲のガープらもガウガウと吼えたてる。
しかし威勢の良かった動物たちが、急に大人しくなった。一斉に尻尾を垂れて耳を下げ、黙りこくってしまったのである。ウーザもそれには気付いていたので、おやおやと思っただけだった。こういう言い方をしては悪いが、しょせんガープだ。思考能力はあるが、深くはない。もっとも、それを言うなら人とてどれほどのものだと言えるが。
ウーザは自分の側に立つ一頭の背中を撫でてやり「行きなさい」と指示した。
ガープらは一瞬の間に恐怖で硬直し、動けなくなっていた。それがウーザの言葉によって、少し呪縛が解けた。ガープらは、最初はじりじりと、やがて早足で去った。
ウーザは、ガープらが去るまでじっと立ちつくしていた。ただボンヤリと立っているような風情だが、そう見えて視線は常に一点だけを見つめていた。先ほどまでの悲しみを消し去り、険しい目になっている。黒い髭の下で、唇がぎゅっと引き結ばれた。
そのウーザの目前には、人が立っていた。
「優しいじゃないか。ガープごときを見守っているたぁね」
いつの間に訪れたのか、気配もなく音もない登場だった。その黒い影を見て、ガープらは恐怖したのだった。影はウーザの半分ほどしか背がないというのに、ウーザの倍はあるだろう巨大な“気”を身の内に秘めていた。放出はしていない。だが漂っていた。抑えているが、出てしまうのだ。
ジェナルム国からソラムレア国へ“飛び”、そこからここに来た。だが彼女は“転移”だけで魔力を使い果たしたのではなかった。
「暴走されては困る。何をしに来た」
「安心おしよ。手を抜いちゃあいない。死に神様は雨塊を破らず、お休みであらせられるよ」
ウーザはラハウの反語とも取れる揶揄に、顔をしかめた。黒いマントに身を覆った小さな老婆は、笑みすら見えないほどに深くフードをかぶっていた。
「わしの前でも顔を覆うか、ラハウ……。わしに“忘却”は効かぬぞ」
「その必要ではないよ。老いた顔を見られとうないからさ」
ラハウと思えない素直なセリフだったが、ウーザはこれを素直に聞いた。
「感謝しているよ」
「あの青年を見殺しにできんかっただけだ」
「優しいじゃないか」
ラハウはまた言った。
ウーザに歩みよっても、そのマントは風にあおられないどころか揺れもしない。厚いマントではあるようだが、そんなに重く硬いものでもない。ラハウの歩き方が静かで、かつ『力』によって風を避けているためだ。
「お前さんは魔道士であった頃、あの坊やなんか目じゃない鋼の心を持っていた。それが今じゃあただの好々爺だ。もっともお前さんの過去をあの坊やが知ったとて、それで心を動かしたりはせんだろうがね」
「それが洞窟を離れ、わしの前に来てまで言いたかったことか?」
「40年ぶりに会ったんだ、婆ぁに昔話ぐらいさせても良かろう」
ラハウはウーザの険しさをものともしない、気軽な口調だった。言葉の一つ一つすべてに感情をこめているような話し方である。ああ、そうだな……とウーザは消えかかっている過去に手を伸ばした。ラハウは感情を恐れない女だった。好きに出し、好きに流され、そして常に感情を無視した。
言うなれば悲しみながら子供を殺せる、喜びながら人を断ち切れる、そういう人種なのだ。
ウーザは目前に立った老婆から目をそらし、少し歩いて倒木に腰かけた。
ラハウがウーザの前に立った。
「教えてくれないかい?」
ウーザが座ったので目線が同じになり、ラハウの顎が見えた。かつて記憶していたウーザの中のラハウとは、まるで違う。ウーザが覚えているラハウの実年齢は間違いであっただろうかと思うほどだった。
そんなウーザの視線に気づいたのだろう、ラハウが顎を引いてフードを深くした。
「レディーをじろじろと見るもんじゃないよ」
「降臨の影響か」
「術を整える20年の間に、100年分は生気を吸われたね」
ラハウはおどけるような仕草をした。
仮にも神だ。
それを人の手で降臨させたのだから、ラハウのそれは当然払うべき代償だったと言って良いだろう。ウーザは口にしなかったが内心、
『大胆なことをしたものだ』
と思った。
この老婆には真の意味で、我欲がないのだ。ただ純粋に、自分の命などいとわずに『もう、そうするべきだ』という必要を感じて、ダナを降臨させたのだ。ラハウを見つめるウーザの目に、悲痛の色がにじんだ。
「わしに何を教えろと聞くのだ? お前が」
「他の媒体を知らないかい?」
イアナの剣やクーナの鏡。神の石がはめこまれている神具のことだ。神は7人いて、当然神具も7つある。はずなのである。
少なくとも魔力を凝縮した石は7つ存在する。神具を持たないダナの石は、青年の体内に収まっている。
「知らぬ」
ウーザが言った。
「クーナ神の鏡を持っておったじゃろうに」
「流れだ。欲したのではない」
「真実を捨てた魔道士の元に、真実神が流れたかい」
ラハウの言葉は皮肉げでもあり、感慨深げでもあった。
黒いマントがひるがえった。ラハウが『力』を緩めて反転したのだ。
「では自分で探すとしよう。当てはある」
「当て?」
ウーザは眉をひそめてラハウの言葉を飲みこんでから、少し身を乗り出した。
「ダナをここに置いていくつもりか?」
足を止めたラハウはふり向いて、トーンの高い声を洩らした。
「つまらん男になったねぇ」
「わし一人で死に神の制御など、ごめんこうむる」
ラハウはフードの奥で、笑ったようだった。
「もう安定しておるで、他に移すさ。世話になったの。わしはお前さんに、別れを言いに来たんじゃよ」
ウーザは気の抜けた声を出しかけて、堪えた。ふと力が緩まり、冬の風が頬を撫でた。
去るらしい。
一ヶ月もの間、瀕死のダナの蘇生につき合わされて魔力を削り続けた日々が、ようやく終わるのだ。世界でもっとも憎んでいるといって良いほどの女が、自分の前から消えてくれる。いやウーザの中でも“感情”というものは、さして意味を持たないものなのだが。
持たないものなのだが……けれどラハウの口にした「別れ」を聞いた瞬間にウーザに湧いた感情は、おおむね“安堵”だったが、その中には“寂寥”があった。
ウーザはラハウと違って、そうした感情をすべて顔に出すことを恐れる。だから表情を固めた。
「共に見守らぬか。人を」
「本当につまらん男になったものだ」
「その時が来るなら、自然と流れる」
「これが流れさ」
ラハウの口調は、半ば吐き捨てるようだった。そしてウーザに背を向ける。その背は、ウーザに何も語っていなかった。
ラハウは完全にウーザを見限ったのだ。
だが歩き去る彼女の背中に隙はない。風すらも避ける彼女の周囲には、魔力が充実している。ダナ神の蘇生に使った彼女の力など微々たるものでなかったのか、自分など必要でなかったのではないかと思える『気』が感じられた。
「──待て」
だが、まだ完全ではない。
ウーザは表情を硬くして立ちあがり、小さな黒い影に手をかざした。手の平に彼女が収まるほど、もう離れていた。だがラハウは、ウーザのすんだ声に耳を傾けたらしく、足を止めた。
森にふっと静寂がよぎった。
鳥も鳴かず風も吹かず、獣の声も聞こえない。その空間だけが2人のために切り取られたかのように、凍った。
「お前を滅する」
フードに隠れたラハウの顔だが、満面の笑みをたたえているらしいと知れた。返答の声が喜びに震えていた。
「分かりやすくて良いね。ダナが安定するのを待っていたってかい」
「お前の術に捕まったダナは、お前が解かねば解けぬ。死なずに解く気はなかろう」
「あの子の心も読めん男が、あたしを殺す気でいるとはね」
貴様が封じているためだろう! という言葉を、ウーザは喉で止めて飲みこんだ。その代わりに口元がギリと鳴った。自分でも気づかないうちに歯がみしていた。
ウーザは顎を引き、かざす手に力を込めた。手の平に熱が集まるのが感じられる。その熱に、さらに集中する。
雑巾をまとっているかのような彼の格好が、今は神々しくすらあった。
森にざわめきが戻り、いつしか緑色に輝く霧が2人を覆っていた。風が取り巻き、周りが暗くなったようである。木々が悲鳴を上げ、凍りつく土がピシピシと音を立てた。空気は電気を含んだように、時折強い光を発しながら弾けた。
その弾ける空気が顔を刺すので、ウーザは目を細めた。頬から一筋、血が流れた。戦いはもう始まっており、そして熾烈を極めているのだ。そうとは見えない静かな『力』が、彼らの肢体に浸食している。
ラハウが唇を端まで引いた。ウーザはその顔に、口元を歪めた。声には出さなかったが、心中で呟いた。
『殺せるなどとは思っとらんさ』
どんな風にもなびかなかったラハウのマントが、ぶわりとふくれて揺れた。一瞬フードが浅くなり、その中から白髪をまとった、皺しかない顔がまっ向からウーザを睨みつけていた。皺の間に、漆黒の瞳が光っていた。彼女の守護神もまた、真実の神クーナである。
なるほど真実神を守護とするラハウがまだ魔道士であるというならば、こうして行われたことのすべては必然の行為なのかも知れぬ。白の魔道士はいつでも真実を行使すべき存在なのだから。
そんな風に思ったウーザの“力”が、ほんのわずかに緩んだ。その瞬間、風が嵐に変わった。
ウーザの服が舞い上がる。
先ほど彼の座っていた倒木が、悲鳴を上げてひずんだ。
体が締め上げられる。内臓に痛みを感じ、ウーザは血を吐いた。
『時間さえ稼げれば、それがわしの役目』
ラハウもまた同様に、体をくの字に曲げていた。曲げつつも、ウーザと同じように手の平を突きだしている。そして笑みを崩さないながらも、その口からは血を流していた。
同じ技、同じ力のぶつかりあいだった。
◇
同じく、春の来ていない山があった。
来ていないどころか、こちらの山は猛吹雪である。
山の凹凸をすべて覆いつくす雪。視界を真っ白に染めあげ、そこを歩く者に何も見せない。雪がなければ敢然とそそり立つ山々が連なる一角が見える場所のはずである。しかし今は自分の手すらも見えなさそうな雪の煙に覆われた白い世界でしかなかった。
見えない足元を踏み外せば、どこに落ちていくかも分からない。見えない前方に進めば、何にぶつかるかも分からない。けれど、そんな中を一つの人影が歩いていた。平然とした足取りである。それは、まだ年端も行かない少女だった。
何も見えてないはずの中で少女は突然、足を止めて後ろを見た。近くではない。遠く、遠く、見えない彼方に目を向けている。
足を止めると、少女の体は一気に雪に包まれた。横から打ちつける雪が、少女の肩や腕、腰へとこびりついていく。わずかな時間で少女は埋まり、そこはただの雪平原になるだろう。
だが少女は自分にまとわりつく雪を何とも思っていない顔で、じっと彼方を見つめた。何かが聞こえた気がした。彼女のよく知っている『力』──のような気がした。
生きている。
それを知っているからそう感じただけの、錯覚なのかも知れない。世界のどこにいるとも知れないあの方は、とうに他人になっている。自分は、見切りをつけられたのだから。
リンは髪に積もった雪を払い、ひょいと足を引き抜いた。彼女はワンピースにズボン、そしてブーツを身につけていたが、それは雪山においてひどく不自然な格好だった。フード付きの上着もなく、命をつなぐ道具を一つも持っていない。普通なら半日で死に至る。
だがリンは死んでいなかった。軽く2日は遭難し続けていたが、不思議と死の予感も恐怖もなかった。
リンは逆に、この魔の山で死ぬのなら、その時に自分は“恐怖”を味わうのだろうかとすら思ったというのに、これだけの雪を前にしても、何の感慨も湧かなかった。むしろ、ほんのわずかに感じたラハウらしき気配の方が、彼女の心には強く響いた。
それがラハウの死なのか、何なのか。リンには分からない。
魔道士の村に着けば。ラハウやエノアと同じだけの『力』を持った魔道士が7人集まって遠見をしたら、ラハウの居所──いや、ダナの居所が分かるのかも知れない。今は眠り、『力』を放出しておらず気配を持たない、ダナの行方を。
「あ」
リンが、そう思った自分のそれが“欲”だと気づいたのは、寒さ(・・)が自分を取り巻いたためだった。力が弱まった。感情に気を取られたからだ。
リンは自分が欲を感じたことを不思議に思った。自分などが村に入っても、それを知りたいと思っても、それが何の役に立つというのか。そう思うと、そんな欲を感じた自分が滑稽ですらあった。今の自分がそれを知る必要などないのだ。ダナを浄化したいとも、エノアの役に立ちたいとも思っていないというのに。
『一緒に、来て』
紫髪の娘の言葉が思いだされた。ラウリー。感情によって行動し、自分の手を引っぱった人。
あの時に手を挙げた一瞬が、自分の中の何かを変えた。そうリンは自分を分析する。
そして今もまた何かが、変わりつつあるのかも知れない。
だが変わる何かがこの雪山で自分を殺すものならば、変わらなければならない必要などないのかも知れない。逆にもしくはここで死ぬのが自然なのなら、自分は死ぬべきなのかも知れない。
リンはそんな自分の考えに気を取られて、また足を止めた。
どんどんと埋まる。雪が体を覆いつくす。髪に、顔にまぶたに唇に、雪が重くのしかかってくる。
自分の体がすべて雪に覆われ、姿を隠しているのが分かる。ここが雪解けのない山なのだとしたら、リンの遺体はそのまま永久に発見されないだろう。この山で死んだ沢山の者たちと共に眠り続けるのだ。もうすぐ自分の入った雪だるまも平原の下になる。平らな銀世界だけが、何もなかったように辺りに広がることだろう。
なのに。
そうなっても、なおリンは生きていた。
『力』は衰えておらず、寒さも感じない。
死にたいと思ったわけではない。
生きるのが面倒になったのでもない。
リンは動くことにした。
少し『力』を強くすると、自分を包んでいた雪が四散した。ふんわりと、ぶわりと大量の雪が周りに散って、白い景色がもっと白くなった。
その白い霧の中をリンは歩きだし、霧が収まると──まだ雪は降り続けていたが──初めて、色のある物が見えた。一個の巨大な岩である。家かと思うほどに大きい。ゴツゴツとした突起すべてに雪がこびりついていて、岩の上にも大量の雪が積もり、やもすればその岩ですら平原の下に埋まりつつある。だがそれでも、その岩だけは異様な存在感をリンに与えていた。
リンはさほど躊躇せずに岩に近づき、手を当てた。『力』を感じる。
ふと思いついたように瞬きをして、リンは少し顎を引き、岩を見た。当てた手に『力』を込めてみた。
岩を砕くためではない。
同調してみようと思ったのだ。
岩の持つ『力』に自分のそれを合わせると、体の芯が熱くなるほど『力』が湧いてくるのが分かった。自分の力が大きくなっているのか、岩から流れ込んでくるのか、それすら分からない。リンは目を閉じて、その奔流に身を任せた。
目を閉じた暗闇に、一点の光が見えた。
リンは自然と、意識をそこに進めていた。
途端。
先ほどまでゴウゴウと鳴り続けていた音が、ピタリと止んだ。
自分に打ちつけていたはずの雪もなくなった。
代わりにリンを取り巻いたのは、柔らかく暖かく、溢れんばかりの『力』だった。
「“転移”よ」
聞いたことのない女性の声がして、リンはゆっくりと目を開けた。目の前に広がったのは「部屋」だった。といってもポカンと開けているだけの狭い空間で、生活に必要なものは何もない。
不思議な光に照らされた室内は、すべて岩でできていた。岩の壁、岩の天井、岩の床。ただし床には、勝手に積もったものなのか女性が積んだのか、土と草があった。草は枯れて積み上がっているものもあれば、その下から新芽を覗かせているものもある。
「いらっしゃい」
リンの目前に立つ女性が、たおやかに微笑んだ。年を感じさせる衰えた声だったが、立ち姿はしっかりとしていた。黒い長衣に身を包んだ彼女には沢山の皺が刻まれている。だがくすんではおらず、透きとおるように白い異国の肌を持っており、そして紫の髪と紫の瞳を持っていた。リンのそれよりもさらに鮮やかな色をしている。リンはそのようにはっきりとした髪の色を見るのはラウリー以来だったが、驚きはしなかった。この者が魔道士だからだ。
着いたという気持ちにも、感慨はなかった。
自然に、あるべき場所に導かれたような気分だ。
「リン。エノアから聞いていました。私は、ケイヤです」
やはり名字がない。最初からないのか本名ではないのか分からなかったが、さほどリンは気にせずにこの老女にかしずき、胸に手を当てて一礼した。せいぜい、自分も本名を名乗る必要はないらしいと思った程度だった。
もっとも本名など、ラハウに出会った時に捨てているものでしかなかったが。
「お休みなさい。あなたの『力』が元に戻ったら、集会になります。皆に会いましょう。……あら」
ケイヤはリンに顔を上げさせようとして、微笑んだ。
リンは礼をした格好のまま、眠っていた。
――歯車が、再び軋みを上げている。
~2章・ネロウェン序曲に続く~