7章・翠眼の魔道士-1(待望)
いつしか、もうニユの月が終わり、クーナの月に突入していた。
いよいよ寒さが厳しくなったはずだなどと思いながら、紫の髪をした娘は、格子の隙間からわずかに見える雪景色を眺めた。
クラーヴァ城は月の変化に対しては何の行事もない国だったので、リンに言われるまで、すっかり忘れていたのだ。マラナの月だけは新春を祝う祭りがあるそうだが、さすがにその頃にまで自分がここにいるとは思えない。というか、そこまでいるわけに行かないだろう、と思う。
待ち続けるラウリーの忍耐力はもう限界だ。近頃ラウリーは、エノアが城を去ってから何日経っただろうか、と寝付けないベッドの中で考える。この部屋には暦を知るための道具が何もないので、何日が経ったのか数えていないのだ。
最初は数えていた。だが、そうして日が重ねられるのを見るのは虚しく辛いものだった。それで止めた。けれど止めると今度は、もう何日目だったっけなどと思う。矛盾しているものだ。
いっそ、この城を抜け出してエノアを追って行きたい気分になったことも、一度や2度ではない。ただひたすらに“待つ”という作業は苦しいものだ。色々と学んだり体を鍛えたりなどして気を紛らし続けたが、紛れきらなかった夜などには鬱屈して、鉄の窓と格闘してしまうのだった。2,3度触れてみて、すぐ我に返って止めるのだが。
そうなると、この部屋にラウリーを軟禁した王は正しかった、ということになる。ラウリーは最初の頃に“逃げないって言ったのに”と不満を漏らしていた自分に気付き、恥ずかしく思った。
追うにしても、方向すら分からない。
実家に置いてきた自分の魔法書ぐらい持参してきたら良かったなと思ったが、今さらである。それに本を持っていたって、それが役に立つかどうかは別問題だ。ラウリーの魔力は限りなく無力だ。と、自分では思う。
せめてあと何日というめどがあったなら、こんなに苛々せずに済む。
だが、さらわれたイアナザール王子がどこにいるのか分からないし、どうなっているのかも分からない。イアナの剣も、どうなっているのか不明だ。この広い世の中、いくらエノアといえど、人間一人をそう簡単には見つけられないだろう。
エノア自身すら、どうなっているのか。
「嫌だ」
ラウリーはぞくりとして、毛布を頭までかぶって眠ろうとした。毎晩寝不足だから、こんな不吉な想像をしてしまうのだ。
ラウリーは大丈夫だと念じながら、暗澹とした夜を過ごした。
暗い予想は、色々な人の顔を思い浮かべさせる。
家に置いてきた父や母に、消えた兄、クリフ。
もし、このままエノアが戻らなかったら。
自分を連れて帰ってくれる者がなくなるだけでなく、救うはずだった兄にも会えず、家にも戻れない。こんな、兄を放置した状態で自分だけが家に帰るなど、到底考えがたい。
オルセイに取り憑いた者は、神だ。そう言ったエノア。死の神ダナ。
兄なんかに取り憑いて、どうする気だろう? と思う。
神の石を取りに行く旅。
石を手に入れたら、どうなるのだろう。
ダナは何をしたいのだろう。
何を考えているのだろう。
兄はどうなるのだろう。
そう思った時、なぜかラウリーの目前にふっとクリフが浮かんだ。
クリフ?
ラウリーは不思議に思った。不思議に思いながら、クリフはどうなっているのだろう、と考えた。考えながら、妙に納得した。兄を思い出す時、セットのようにクリフを思い出す。きっと頭に、そうやって刷り込みされているのだ。双子のようだった2人。息が合い、グール狩人のパートナーだった2人。ラウリーが入りたくても入れないものを、2人は持っていた。
クリフはクリフで、兄と私の間には入れないと思っていたようだったけど。
兄は兄で、クリフと私の間には入れないと思っていたようだったけど。
ラウリーは、ふいに笑いたくなった。
クリフと私の間だなんて、と。
笑ってしまうほど、スカスカなのに。
けれどオルセイがそう思ってしまう原因らしきものは、あるにはあった。クリフもラウリーも、気が強いから。殺されても死なないぐらい、生きる意志が強いから。
ラウリーはぼんやりと、目前に現れた懐かしい顔に微笑んだ。ほぉらね、と思う。やっぱりクリフは死なない。そういう悪運だけは強い人なのだ。
「クリフ……?」
ラウリーは手を伸ばせば届きそうなその残像を眺めて、変な気分になった。自分の知っている向こう見ずなクリフと違い、やけに落ち着いた、ゆったりとした大人の男になっている。しばらく会わない間に、5年も6年も成長したようなのだ。髪型も違う。
と思ってから、ラウリーは目を見開いた。
「クリフ?!」
ラウリーは掛け布団を吹っ飛ばしてガバッと身を起こし、その残像をガッシリと掴んで顔を見つめた。
「……似てる」
けれど違う。呟いてからラウリーはようやく、その男が戸惑っていることに気付いた。夢ではない。生身の人間なのだ。
だが生身の人間ならば、どうしてここに? と思ってからラウリーは、自分のいる場所を改めて見渡した。
クラーヴァ城内の客間。白い壁と白い家具と豪華なベッドが設置された、鉄の薔薇格子に閉ざされた牢獄。間違いない、すっかり住み慣れた自分の部屋だ。
見回したラウリーは、その絨毯の上に黒い塊を発見した。
ラウリーが目を凝らしている間に、クリフに似た男が言葉を発した。
「まさか女性の部屋に転移すると思わなかったので、大変失礼をしました。すぐ退室しますので、騒がないで下さい」
丁寧で物腰の柔らかな口調に、ラウリーは少しだけ我に返った。
そして男を見上げる。
耳慣れないが馴染みある、その言葉。
転移。
ラウリーは、薄暗がりの中にうずくまる黒い者を見た。そして2人をゆっくりと見比べる。
見比べているうちに、うずくまっていた者が体を起こした。起こしたが、まだ俯いている。よほど疲れたのだろう。ラウリーの側に立っている男も立ってはいるものの、ひどい顔色をしていた。
黒い男の、深くかぶったフードの中から、細い糸の束が見えた。神秘的な翠色の束は、それは髪だ。
ラウリーは茶毛の男から手を放し、恐る恐るベッドから降りた。
「お嬢さん?」
男の言葉に少しふり向いてから、窓のつまみに手をかける。ギイッと少し嫌な音がして、薔薇模様の格子が隙間を開け、朝日の眩しい光を差し入れた。その光の筋に、黒い男が姿を浮かび上がらせた。むしろこの者がいることの方が、自分の夢ではないのかと思う姿を。しかしラウリーの夢では、このように鮮明で複雑な彼の彫造美を思いおこすことなど不可能だ。
ラウリーの手が震えて体は硬直し、見開いた目からはまるで自分の意志と関係なく、とめどなく涙が溢れた。
吸い込まれそうなほどに漆黒のなめらかなマントが、彼の体を覆っている。
そのフードから洩れ流れる、鮮やかな翠髪。
かすかに見える、細い顎。
作り物のように整っている指先が、マントの影から見えている。
「エノア!」
ラウリーは倒れながら、しがみついていた。
◇
「どうして……」
「だが確かに聞きました。彼はクリフォード・ノーマと名乗ったよ」
「ダナと対峙した時に居合わせた男だった」
イアナザール王子とエノアが交互に言うので、ラウリーは納得せざるを得なくなってしまった。だが、まだ飲み込みきれずに、頭が混乱している。
ロマラール国でオルセイと共にいなくなったはずのクリフが、遠く離れたソラムレア国で発見されている。だがオルセイは、兄はそこにおらず、しかも何だかよく分からないことに、イアナの剣がクリフに呼応していただとか何とかかんとか。
「すみません。クリフのそんなの、全然分かんない……」
ラウリーは額を押さえた。
クリフは、魔力などマの字も信じていなかったし、当然そんな気配もまったく持っていなかった。それが急にイアナ神の力を秘めて……などと言われても、何かの冗談としか思えない。
「考えられるのは」
エノアが言った。彼がフードの下に見せるわずかな顎の色はまだ蒼白だったが、エノアは先ほどの疲れを感じさせないほど平然としていた。
「魔力は潜在的なものだ。ふとしたきっかけで呼び起こされる。クリフォードはおそらく、オルセイと共にいたと思って良いだろう。オルセイの持つダナの力が、彼に影響を与えたと見ることができる」
ラウリーの脳裏に、兄とクリフの姿が浮かんだ。今はどうだか分からないが、少なくとも途中までは一緒に旅をしていたということだ。とすれば、兄は元の兄だったのだろうか。
懐かしい映像が次々に浮かんできて、ラウリーの胸が詰まった。また涙を浮かべそうになってしまったその時、ノックの音がした。
「失礼致します」
白い扉を開けて、少女が盆を持って入室した。ラウリーとイアナザール、エノアの3人が腰かける丸テーブルに、朝食らしき丸い木の器と茶の2つを置いていく。
「お召し上がり下さい。マニスープです」
マニという植物がある。それを煮て潰したものらしい。まだ日が上がったばかりの早朝で、さすがのリンも、急には何も用意できなかったのだ。それでも事態を把握してから短時間でスープを用意してしまう辺りは、素晴らしい手際だが。まだ台所には誰もいない時間だ。
夜明けのクラーヴァ城は霧に覆われていて、静かだった。衛兵が門を守っているだろうが、エノアとイアナザールは外れの森から直接ラウリーの部屋に“転移”してきたので、リンかラウリーのどちらかが通報しなければ誰にも知られない。
ラウリーがそれを言うわけがなかったし、リンはイアナザールから口止めされたため、まだ誰にも伝えていないはずだ。リンは、エノアの『魔の気』を察知したのだろう、最初に入室した時にまったく驚いていなかった。
今も、ラハウに匹敵する魔力を持った顔の見えない男──エノアの隣りに立っても、彼女は微塵も動じていない。
その様子を見て、イアナザールが苦笑した。
「さすがはラハウの一番弟子だな」
ほんの少しだけ、リンが皿にカップを乗せる時にカチャンと音を立てた。
「一番?」
「秘蔵っ子だ。ラハウはこの子を召使いとして側に置き、手塩にかけて育てていた」
リンは、イアナザールの言葉を聞いていないようだった。イアナザールを見ず、耳を傾けている様子もない。
「私がラハウに連れ去られる直前に、ラハウはリンを手放しました。理由は知りませんが、必要がなくなったからだとか何とか……。それを偶然に聞いてしまったことと、このリンという子を初めて目にしたことによって、私はラハウを疑うようになった。その矢先にさらわれたわけですが……」
王子の目が遠くなった。
ラウリーは、リンを見てラハウを疑うようになったというイアナザールの言葉に引っかかりを感じて、口を開こうとした。が、その言葉は遮られてしまった。
「王子!」
──突然。
荒々しく扉が開いた。
そこから、兵士の格好をした数人の男らが飛び込んでくる。その後ろに、ラウリーと同じく長衣を着た若い女性と初老の男性、一度だけ会ったことのある国王ライニックが軽装で、立っていた。寝起きのまま、慌てて着替えて走ってきたという感じだ。
思わずイアナザールとラウリーが立ち上がり、イアナザールは、側に立つリンに疑惑の目を向けてしまった。
「伝えておりません」
リンが無表情に言う。
兵らの後ろ、国王の横にいた女性が進み出て「私です」と言った。
「私が感知しました。魔法使い様の強大な魔力は、隠しても隠しきれません」
エノアは本来、気配だけでなく魔力も抑え、消し去ることができる。隠さずとも良い時や力が衰えた時、それを感知できるだけだ。あとは、エノアに近いほど強力な者か……。この女性もかなりの使い手ではあるようだが、今は“転移”によってエノアの力が衰えていることの方が大きいようだった。白銀の鏡を使ったとはいえ、あまりにも長距離の“転移”だった。
「リン」
その女性が少女に声をかけた。
ラウリーは、この城にいて初めて、リンに声をかける者を見た。
「こっちにいらっしゃい」
だがリンは、微動だにしなかった。何を考えてのものかは表情に表れない。女性はそれ以上リンを見つめなかった。
ラウリーら四人を取り囲むようにして、兵士らが周りに散らばり剣を構えた。ラウリーは条件反射で身構えたが、剣先が向けられ、動きを止められた。
「無礼だぞ。この者らは、私の恩人だ」
怒りを露わにして兵らを下がらせようとするイアナザールに、国王が言った。
「イアナザール。その者はお前をさらった狼藉者だ! 我が国の宰相ラハウは、その者に殺されたのではないか」
「父上、何を……?!」
だがイアナザールはそう言いかけた途中で、父王が仕立てた、とんでもない作り話の思惑に気付いて愕然となったのだった。
「父上はまさか我が国の体裁のために、彼を犯人に仕立て上げようと……?」
十何年も仕えてきた宰相が突然王子をさらったのでは、確かに各国に示しがつかない。しかし、そのために恩人であるはずの、何も関係がなかった魔法使いに濡れ衣を着せて処罰するのでは、王家たる尊厳も地に落ちるというものだ。許されて良いはずがない。
逆に言えば、だからこそ何の関わりもない者を使った、とも考えられるのだが。
王が叫んだ。
「捕らえろ! リン、魔法を。“呪縛”だっ」
しかし魔力でエノアに敵わない者が、いくら束になっても無駄というものだ。リンと、王の後ろに立つ魔法使いらの3人がすかさず術をかけたが、エノアはそれらを全てはね返した。
イアナザールが兵とラウリーの間に立ちはだかった。
「父上、お止め下さい。間違っています!」
「イアナザール、剣はどこだ?」
父王ライニックは、彼の周囲にそれらしきものが見当たらないことに気付いていた。
イアナザールは手短に説明したくとも、どう言えば良いのか分からず詰まった。それを見て、王がさらに険しい顔を作った。
「充分な理由ができたな」
「そんな」
「王子、失礼します!」
イアナザールが呟いている隙に、兵士が一人、彼を避けてラウリーに迫った。女なら簡単に捕らえられると思ったのか、心なしか兵士の顔は緩んでいた。
だがラウリーはひゅっと素早く息を吐き勢いをつけると、彼の手をすり抜けて上体を低くして、その腹に肘を入れた。目を白黒させた兵士が、無様に落ちる。長い拘束生活で体が本調子ではないが、元々狩人で生計を立てていた身だ。本当の生死をかけた緊迫感を知らない生ぬるい兵隊になど負けはしない。
それと同時に、ラウリーの背後で轟音が響いた。
「?!」
「うわあっ?!」
皆が慌てふためいた。
室内にもうもうと煙が舞い、それが風に踊った。ラウリーは室内に吹きあれる風に髪を乱されながら、目を細めてふり向いた。エノアが“力”で窓ごと壁を吹き飛ばしていた。壁一面が崩れてなくなり、見晴らしの良い景色が穴の向こうに広がっていた。室内に流れ込む冷たい風が、漂った土煙をすぐにさらっていった。
エノアは手を下ろして、王に向いた。
「イアナの剣は神の媒体。人の手に治まるものではない。いつしか消え去り、いつしか現れる。必要がなければ海底に放置され、砂の中に眠る。必要とする者が必要とした時、必要ならば現れるのだ」
王は息を飲んだ。もちろんその言葉が、エノアが自分たちに贈る最後の手向けであるなどとは、到底、夢にも思わない。ただ光のごときその声が言葉を紡ぎ出すのを、ぼんやりと聞いただけだった。
その直後、兵らのみならず王や魔法使い、イアナザールまでもが凍り付いた。“呪縛”だ。魔法使いらは、エノアが呪文を唱えていたことにすら気付かなかった。しかも瞬時に、全員を束縛している。その意味が分かる魔法使いたちは、ぞっとした。
エノアはまるでそこが玄関口であるかのように、壁の穴からひょいと足を出した。途端にスウッとその姿が落ちて消えた。
ラウリーの部屋は、決して地上に近くない。まともに飛び降りれば、骨折どころの問題ではなくなる。
しかしエノアの力に守られていると感じたラウリーは、エノアに続いてそこを飛び降りることを躊躇わなかった。
「リン!」
ラウリーは走りながら、同じく硬直して動けないリンの小脇を抱えた。
彼女を抱き締め、崩れたそこから一気に空へと飛び出す。
「?!」
ラウリーはリンの体が縮こまるのを感じた。声こそ出さなかったが、彼女にしては相当驚いたようだ。目を見開くぐらいはしていただろう。ラウリーは抱き締めた彼女の顔が見られないのを残念に思って、落ちながら少し笑った。
地面が近くなった時、ふわりと体が軽くなった。
ラウリーが、霜で白くなっている固い地面にストンと鮮やかに降り立つと、それと同時に呪縛の解けたリンが、ラウリーの手から逃げた。そのまま反転して去ろうとする彼女の手を、ラウリーはすかさず掴んだ。
「リン! 良いの? 今逃げたら何も変わらないわよ」
根拠はなかった。
だが宰相ラハウに見放されたというリンが見せた動揺や、一瞬の翳り。それは「悲しみ」だとか「諦め」だとかいう名前の感情だ。
王が“呪縛”を命令した時にリンを名指ししたことから考えても、彼女はおそらく王宮一の魔力を持つ。そんな最強の魔法使いがこんな若干10歳の少女であり、彼からも救われず無表情なままなのが、ラウリーには耐えられなかった。城にいた時、外を散歩してもどこにいても、リンは誰にも話しかけず、話しかけられなかった。最後に会った、あの女性以外は。
肩で切り揃えている真っ直ぐな黒髪を持つ、とても優しい目をした女性だった。リンがなぜ彼女の元に進まなかったのか……。もし一緒に旅ができたら、いつか彼女は話してくれるのだろうか。
「エノア」
ラウリーが了承を得ようとしてふり向くと、エノアは2頭のゴーナを連れていた。エノア曰く、そこにいたと言う。きちんと鞍まで付いていて、すぐ乗れるようになっている。
「そんな馬鹿な」
用意してあったわけじゃなしと思ってから、ラウリーはハッとして城を見上げた。
壊れた壁から、イアナザールが見える。エノアの助力なくして飛べる高さではない。もう追ってくることはできない。
そのイアナザールの後ろから、国王ライニックまでがこちらを見下ろしているようだった。
「……?」
ラウリーの胸に「まさか」という疑問が生まれた。まさか、茶番だったのでは、と。エノアの強さを知っていてイアナザール救出を依頼した王が、本当にあんな兵力でエノアを捕らえられると思っていたとは、冷静になってみればおかしい話である。だがもう、それを確認する術はない。
エノアがラウリーの方を向き、リンを見て言った。
「ラハウに会うやも知れぬ」
それがエノアの承諾の言葉だった。
ラウリーは長衣の裾を上げてゴーナに横乗りをし、突っ立っているリンに手を差しのべた。
「一緒に、来て」
リンは少しだけ手を上げて、また引っ込めようとした。
ラウリーはそれを逃さず、ぐいと引っ張り上げた。