2-9(渇望)
死ねなかった。
そう思ってから、いや違う、と自分の中で訂正をした。自分は死にたかったのではない。死ぬしか方法がなかったから、そうしようとしただけだったのだ。
ラウリーは胸に手を当てて、荒野を歩いていた。
王都の外壁を出ると、とたんに砂が舞う。
壁の中に入れない貧民街が並ぶ向こうに、絶望の土が広がっている。荒野はすぐに砂漠となる。
これほど以前はひどくなかった気がする……と、ラウリーは街と砂の境に立って、周囲を見渡しながら思った。建屋は崩れて修繕されず、家の影に寝そべる者らは、生きているのか死んでいるのか。砂の量も増えたように思う。
とはいえ前の時は、周りが見えていなかった。王宮から出ることもなかったし、ネロウェンの文化にも興味がなかった。本来の自分なら色々と知りたがっただろう。今は砂の量が、風の流れが、横たわる人々が気になる、本来の自分になっている。
「ラウリー」
呼ばれて、顔をあげる。
醜悪な顔をする鳥が、苦い表情を浮かべてラウリーの肩めがけて、降りているところだった。鳥の表情など豊かとは言えないのだが、この鳥は別だ。
「ケディ。どうだった?」
彼の名を呼んで撫でてやる。本当はエサの一切れも食べさせてやりたいところだったが、今のラウリーには何もない。
ラウリーの憂う顔を気にする様子もなく、ケディは「駄目だな」とサラリと断言した。
「せいぜい隣りの州までだ、機能してるのは。それより向こうは町も人も死んでるぜ、こりゃ」
「ケディ」
「港と駐屯地は賑わってたぜ」
ラウリーは返す言葉に詰まって、やるせなくケディを見るしかできなかった。残された女子供が干上がり、男らが戦いに出ているということだ。王都の中はそれなりの賑わいを見せているが、外に出ると、仮初めでしかないことがよく分かる。
ラウリーが王都を出て今ここに立っているのは、自分の意志ではない。追い出されてきたのだ。乞食のようなボロ布一枚をあてがわれて、申し訳ていどのマントをはおらされて、放り出された。
もしかして二度と王宮に入れてもらえないかも知れない。
あの女王なら、やりそうだ。
『死ぬんなら外でやりなさいよ、汚いわね!』
少女王ユノライニは、目覚めたラウリーに向かって激怒したのだった。
彼女がラウリーを“治癒”したのは明白である。胸の刺し傷はほとんど消えていた。ちょうど内臓を外れていたので傷は浅かったとも聞いたが、それでも相当の魔力を要しただろう。なのに疲れをおして叫ぶ少女が、ラウリーにはなぜか微笑ましく感じられた。
覚醒したラウリーは、ダナに乗っ取られていなかった。
あの時、確かに『飲まれる』と思ったのに。
「ありがとうございます」
ラウリーはユノライニにソラムレア語で礼を述べてから、ことのあらましを説明した。
兄から自分の中へ、“ダナ”を移動させる魔法を使ったこと。
御せなかったため、ダナを連れて命を絶とうとしたこと。
エノアが亡くなったかも知れない今、ラウリーが思いつく最善の策は、これしかなかったのだ。かつてエノアが教えてくれた、大事な、生まれて初めて習得した魔法である。無理だと諦めるのは嫌だった。誰も死なせたくなかった。
「ダナが消えれば、兄は元に戻るわ。戦争もなくなる。だから、」
と言った時、ラウリーの口上をユノライニが切った。
「馬鹿?」
と、一言。
辛辣この上ない。
黙ってラウリーの言い分を聞いていたユノライニは、敢然と立ちあがってわめいたものだった。
「あんた本当に、これだけの戦争がオルセイの『力』一つで始まったと思ってんの? 飢饉も干ばつも? で、自分が死ねば世界は平和になるだろうって? 甘すぎるにも、ほどがあるわよ。確かにオルセイは暗躍したけど、どうせいつかこうなったものが、ちょっと早く始まったに過ぎないわ」
ユノライニは大きなため息と共に息継ぎをして、何ごとかと扉を叩く衛兵に向かって、「お下がり」と吐き捨てた。
それからユノライニは腰に手を当てて、ラウリーを見くだした。あまりに早口だったので理解しきれなかったが、罵倒されたらしいことは分かる。続けられた一言はゆっくりだったので聞き取れた。聞き取れて、ラウリーは気色ばんだ。
「死ぬのは素敵な“逃げ”だわね」
「な……っ」
ラウリーは詰まってしまった。言葉が浮かばなかったのではない。言いたいことが溢れすぎて、怒りで言えなくなったのだ。逃げてなどいない。生きると約束したのだ。それしかなかったからだ。あなたに何が分かるのか。
だが言おうとしても、やはりさえぎられた。
「それは、だから、」
「あんたが死んで幸せになる世界かどうか、自分の目で見てきなさいよ!」
ユノライニの怒号は悲鳴に近く、泣いているようにさえ、聞こえた。
泣き声に聞こえたから今度こそ何も言えなくなった。
第三者の声は、その時に響いたのだった。
「俺から『魔力』を奪わないでくれ」
部屋には元から3人しかいない。
「まだ、することがあるんだ」
オルセイの微笑みは、おだやかだった。娘らは互いに、奇妙に表情を歪めた。ユノライニはやや明るく、ラウリーはやや暗く。彼女らはオルセイの“ダナ”が健在であると、瞬時に悟っていた。
オルセイには少しの変化も見られなかった。
あるとすれば、ラウリーにだけだった。
確かに“ダナ”という『力』の塊が、ラウリーをむしばんだのだ。それは現在、封じられてラウリーの中に在る。なのにオルセイは変わらない。“移動”でなく、“増殖”もしくは“感染”なのではと思える、巨大な力である。
本当に封じられているのかは分からない。突然“ダナ”が覚醒してラウリーをむしばむかも知れない。これは多分、仮死状態になったから得られた平穏なのだろう。かつてクリフがラハウに殺されかけた件や、自失したはずだった兄に自意識が戻っている理由を考えていくと、そうとしか結論が出ない。
相手を仮死状態にして操る、という魔法。
今ラウリーは、別段ユノライニに操られてなどいない。そんな魔法をかけられなかったからだ。
ならば兄は……オルセイは、ラハウに覚醒させられたことで、ラハウの操り人形になったのかと言えば。
そんなようには見えない。
見えないことが悲しい。
嫌な予感がしてしまうから。
「兄さん」
ラウリーは呟いて目を閉じ、ため息をついた。
目を開き、顔をあげる。
――砂に埋もれかかっている、くたびれた街並みが目前に広がっている。
外を見ても気が変わらないから戻ってこなくてもいい、とオルセイは言った。オルセイからダナを取りのぞこうとしたラウリーを、彼は放した。使えない妹などいらない、というわけだ。
だが飢餓の町を見て侵略を肯定するということも、できない。それは承知していただろう。オルセイは実質上ラウリーを放免したのだ。
ラウリーは帰れるだろうか、と思った。
身一つで放り出された異国の地で、船を捕まえてロマラールに、いや、クラーヴァでもいい、帰ることができるかどうか。言葉は今でも話せるが、船に乗りたいとなるとそれだけでは足らない。改めて一人で生きていくことの大変さを実感せずにいられない。
ただ立っているだけの自分の足が、なんと頼りなく感じられることか。
昔クリフに言われたセリフを思い出す。
『一人で生きるなんて甘いんだよ』
甘い、と、ユノライニにも言われたなと思い出す。今頃になって実感するなど遅すぎるにもほどがあるが、そういうものなのだろう。それが大事だったとは、過ぎてからしか気付けない。
苦笑しながらラウリーは肩に手をやり、ケディに触れた。
「何だよ」
「いてくれて良かったなと思って」
「他に行きたいところができれば行くけどな」
「泣きながら見送るわ」
ラウリーの気持ちがしょげているのをケディまで見抜いているのか、彼にしては物言いが心持ち柔らかい。彼も町の光景には思うところがあるのだろうか、鳥なりに。
「水……」
かすれた声がした。
男が家屋の影で眠っていた。また「水」と聞こえた。寝言らしい。
この人たちもそうなのだろうな、などと思った。水一滴をこんなに切望する事態を考えていただろうか。大事には使っていただろう。砂の国だ。だが、ここまで神が人を見放すなど、想像通りだったとしても、直面するには辛すぎる。
「神か」
口の中で小さく唱えてから、ラウリーは男の側にしゃがんだ。目覚める気力さえもない男の口元に、ラウリーは拳をかざした。握った手の中から落ちた水の糸が、男の唇に吸いこまれ、男は、必死で喉を鳴らした。
「ラウリー、お前」
「しっ。行こう」
ラウリーはケディを制して、男が目覚めないうちに、その場を離れた。魔法を使うと、まだ体が回復していないと分かる。空気中から水を練り出すのは大変な作業である。が、今のラウリーには容易い魔法となっている。ダナが、内包されているから。
町に沿って歩いていくと、井戸の跡もあった。ここにも何人かが、へたり込んでいる。井戸を覗きこんでみたが、底深い穴に石を落としてみても水の音など聞こえてこない。それどころか、石同士がカチンとぶつかる無益な音がした。すでに皆も石を落としていたのだろう。
「ほんの2ヶ月前に掘った井戸さ」
側に座っていた老人が、力なくラウリーを見あげる。目を合わせると、髭面の老人は微笑んでくれた。ラウリーは少し安堵して、肩の力を抜いた。ケディが身じろぎした。
「ダナ様が水を出して下さった穴だった。けれど、すぐに干上がっちまって」
「“ダナ様”か」
け、とケディが甲高い声で小さく、吐き捨てる。老人には聞こえなかったらしく、彼はラウリーの顔を見て、きょとんとした。ラウリーはケディの尾羽根を引っぱりながら慌てて笑顔を作ったが、苦笑にしかならなかった。
「残念でしたね」
ラウリーは老人に礼を言って、井戸の側からも足を遠ざけた。離れてから、ケディが小声を出しながらラウリーの頭をつついた。
「何すんだ、痛ぇな、この野郎」
「つつかないでよ。いきなり喋ったら他の人はビックリするでしょ。鳥のフリしててよ」
「鳥だ」
ラウリーが降参した。
ケディが何か言うと、冷や冷やする。同じ気持ちだったから内容を咎めはしなかったが、自分たちに老人を諫める権利などない。兄が水を出したのなら、彼には命の恩人であり、“ダナ様”だ。
この先もずっと“ダナ様”なのだろうか。
戦を起こして蛮族を打ち伏し、民に平和をもたらそうとしている、救いの神。
殺してでも奪ってでも自国の民を生かさなければならない、グール王。
それが正義なら、ヤフリナ国が悪だ。
「くっ」
ラウリーは口中の苦いものを吐き捨てながら、口元を歪めた。吐いたものは、噛んだ唇からの血だった。
べしゃっ、と血が地を這う音と共に、またどこからか声が聞こえた。
今度は動物のようだった。
鳴いている。
町中で動物は珍しい。
声のする方へ行ってみると、それは家屋の中だった。周囲の建物より大きく、簡単だが柵まで付いている。玄関先にまで人が溢れており、誰もが寝込んでいるところを見ると、診療所らしい。
「ケディはここで待ってて」
「待てねぇよ」
「じゃあ待ってなくていいよ」
ラウリーはくすりと笑ってケディを残して、門をくぐってみた。ケディはしばらく羽ばたいていたものの、ちょこんと柵に座りこんだようだ。それを見てから、入り口もくぐった。
扉のない入り口にも人が溢れていて、動ける者はラウリーに道を開けてくれる。中に入っていいらしいと判断して奥を覗きこむと、人が並んで寝ているその中で、女性が赤ん坊に乳を含ませているところだった。
鳴き声がやんだ。
「赤ちゃんだったの」
呟いたラウリーに、女性が顔を向けた。
「ごめんなさい、何の声だろうと思って」
入ってきちゃいました。ラウリーの意図を読んでくれた女性は、優しい顔になった。赤ん坊を支える腕が小枝のように細く、痛々しい。
「こちらこそ、ごめんなさい。この子の泣き声は響くわよね」
言って、女性は子供に目を落とす。嬉しそうに小さく「元気だから」と呟いたのが聞こえた。まだ立つどころか座れるかも怪しい、小さな子だ。床に敷かれた絨毯に寝そべる人々は皆、赤ん坊を柔らかく見る。女性らは彼女を囲んで、2人を見守る。赤ん坊が飲み終わって息をつくと、赤ん坊は、その中の一人に手渡された。
乳を与えた女は吸われることに疲れて倒れ、支えられていた。赤ん坊は抱えられた女性に、げっぷさせられている。この室内だけが平和だった。
一人がラウリーに教えた。
「この子は荒野で一人、生きのびていたんだ」
「荒野?」
皆が頷き、別の者が答える。
「捨てられていたのさ」
「そんな」
ラウリーは子供に近寄って、手を差しのべた。女性が子供を示してくれた。頭を撫でる。と。
一瞬だが、見えた。広大な荒野を走り去るゴーナの群れと、泣き叫ぶ女性がいた。女性はゴーナに乗る男に担ぎあげられていて……懸命に子供に向かって、手を伸ばしていた。その時の赤ん坊が持つ感情まで見えた気がしたが、それらはすぐに消えてしまった。どんなに『力』を集中させても、もう見えなかった。
長く赤ん坊の頭に手を乗せていたので、女性が「抱いてあげて」と子を渡してくれた。
王妃リュセスの子を抱いたことはあったが、ずいぶん久しぶりだし、細くて折れそうな赤ん坊なので、ラウリーはしり込みした。気が引けながらも、抱くと暖かい気持ちになれた。
赤ん坊の何と無垢なことか。この子たちは生まれたくて生まれてきたんじゃない。産み落とされて、こんな時代で死にかけてさせられているのだ。だが必死に生きていて生きたいと泣いて空腹を主張して、満たされたら幸せな顔をして微笑むのだ。おいしかった、と。
子供は、国の……いや、世界の宝だ。ふと、そう感じた。この子たちが、未来を創る。
気付くと抱きしめていた。
「ふぎゃあぁっ」
子供が泣き出した。
抱かれ心地が悪かったらしい。ラウリーが慌てると、先の女性が抱きなおしてくれた。あやされて、泣き声が小さくなっていく。同じような小さな声で、この光景を見る周囲の人々が笑っていた。皆に愛されているらしい。息をついてラウリーも笑みを浮かべると、「じゃあ」と言って早々に外へ出た。
泣きそうになっていた。
これ以上ここにいては、手を出してしまう。
彼らだけを“治癒”したところで、いや、国民全員を“治癒”しても構わなかったのだが、そんなことをしても根本の解決にはならないと痛感したからだった。明日の命はつなげても、来月には死んでいる。
「ケディ」
果たしてケディは、待っていた。同じ場所に座ったまま微動だにしなかったようだ。先の言葉を守って、玄関先の人々に話しかけることもしなかったようである。ただ外見が醜いだけに、人々が彼を見る目は剣呑なものだった。
「ごめんね、もう少し別のところで待ってもらってたら良かったわ」
ラウリーが小声で言いながら、ケディに肩へ乗ってもらう。醜悪な鳥は「どこでも同じさ」と、ケッと喉を鳴らした。玄関先に座る人々は、この不思議な訪問者を怪訝な顔で眺めていた。だが、やがて忘れるだろう。忘れるように、とラウリーが暗示をかけたから。
「帰るわ」
「は? って、おい」
ケディは闊歩を始めたラウリーからふり落とされそうになって、慌てて羽ばたいた。飛びながら彼女の後を追い「どうしたんだよ」と問うたが、ラウリーは「帰ることにしたの」と言うだけである。その行き先は壁の中、王都の中心『ディードム・エブーダ』への道だった。
ラウリーは歩きながら、ぐっと拳を握った。
口からは、言葉が発せられなかった。
だが指の間から水がこぼれ始めた。彼女の手の周囲で、空気が急激な変化に耐えかねて、きしんだ。ラウリーは手を開いて水を蒸発させ、空気の中に戻した。
簡単にできることではない。
火花を起こすのにも気絶するような、“転移”の呪文に丸一日かかるような苦労が、人間のレベルである。今のラウリーは明らかに人間レベルを超えている。
使えば使うほど超えるのか、消えるのか。使うほど“ダナ”に乗っ取られるのかは、知り得ない。だが文字通り神が与えてくれた『力』なのだから、これを使わない手はなく、自分が今すべきことはクリフの元へ逃げ帰ることじゃない。
ラウリーは、そう決意していた。
ただロマラールに帰ったところで、活路はない。
ラウリーを放免したオルセイが、ラウリーを、いや、クリフを見過ごすとは思えないのだ。ラウリーが戻れば追ってきて、目前でクリフを八つ裂きにしそうである。戻らずとも探し当てられて、クリフの首を突きつけられるだろう。
だったら今ある『魔力』を使ってオルセイを補佐し、これ以上の無益な争いを出さない方向に事態を持っていくしかない。そうなるように働きかけつつ、オルセイのダナ化をうち消す別の道を探るしかない。つまり“ダナの盾”が見つかる日を待つしかない。
“ダナ”の心を自覚した今なら、よく分かる。
オルセイの憎む相手は間違いなくクリフであり、“ダナ”が憎むのは、イアナと世界そのものだ。
「おい、止まれ」
ラウリーは王宮の正門で衛兵に声をかけられ、足を止めた。止まった彼女の肩にケディが降りたつ。兵は一瞬ひるんだが、互いの槍を交差させてラウリーを通すまいとした。ボロをまとう彼女を、乞食と思ったのだろう。しかも肩の鳥は汚らしい色合いをしている。兵らの目は冷たかった。
「ここからは王の住まう神聖な地となる。足を踏みいれてはならん」
どんと押されて、フードがはずれた。
汚れのない、艶やかな紫髪が露わになる。兵らが目をむいて、顎を引いた。
驚いたのは髪にだけだはなかった。ラウリーは、その髪を持つにふさわしい威圧感をもって2人を睨みつけたのである。男らには怯えが浮かんでいるかに見えた。ラウリーは『力』を調節しながら2人を見つめ続け、そこを開けろと静かに言った。
「ダナの妹、ラウリーが戻りました。通して下さい」
言いながらマントを脱ぎすてて、ひるんだ兵らの間をすり抜けて中に入る。兵らは腰を曲げてラウリーを見送っていた。
兵を軽く惑わせて入城したラウリーに、ケディが少しうなったようだった。
「軽蔑してる?」
首をかしげて微笑むラウリーに、しかし後悔の色はない。ケディはラウリーの肩から飛び立たない。
「結果を見てから考える」
「よろしく」
小声で会話しながら歩き進むラウリーを、宮中の皆が注目した。ボロ一枚からはみ出ている肩や足はネロウェン人のそれとは違い、白く輝いている。ラウリーは胸を張って歩いた。堂々としていれば、ボロすらもドレスになった。
皆がざわめく中、中庭にさしかかったラウリーに向けて、オルセイの方が姿を現した。
オルセイはダナらしく黒のローブを着こなし、中空から舞いおりてきた。人々に姿を誇示する時は“転移”で急激に現れるよりも、人ならざる様子を見せつけながら降りる方が効果的だ。
そんな演出たっぷりな兄の登場に、ラウリーも緩慢な動作で応えてみせた。
もう仰々しさなど必要のないくらい、オルセイはラウリーの心を理解しているだろう。覚悟を決めて兄についたラウリーの心は、再びオルセイの側にあった。
ラウリーは無言でその場に膝をつく。
オルセイは「遅かったな」と、妹の頭を満足げに見おろした。
ラウリーは胸の奥でクリフの名を唱えて「死なないでね」と祈り……以後、再び会うまでは彼の名を封じると誓って、顔をあげた。
退院しました。連載を続けさせて頂きます。読んで下さる方あれば幸いです。宜しくお願い致します。