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番外編「謝肉祭」中編

 年に一度の苦痛の日々が終わり、ラウリーは奇跡的にドレスを完成させた。なんかちょっと縫い目を間違えたらしくスカートがひきつるが、動いていれば気にならないだろう、と、無理矢理自分を納得させてみたり。

 すかんと晴れた日の光が、徹夜の目に眩しい。

 だが祭り自体は楽しかった。ここロマラール国王都で行われるイベントの数々は、少女たちの好奇心を満足させるものばかりだ。屋台で豪快に焼かれたグールという動物の肉が脂の乗った強い匂いで皆を刺激し、その周囲は酒を浴びる人々でごったがえしている。ラウリー自身は脂っこいものが得意でなかったので小麦の練り菓子をつまんでいたのだが、こうした賑わい自体を楽しむのは好きだった。

 本当の魔法使いなのかどうか分からないが、魔法使いと称する男が道ばたで火を噴いていたり、髪飾りはいかがかねと美しい羽根を持った女性が寄って来たりする。

 一緒に歩く友達、セディエもご機嫌で、2人で歩きながら沢山笑った。が、

「すげぇ、紫だ」

 通りですれ違った幼い子供のたった一言に、幼いラウリーは沈んでしまった。

「これ」

 子供の母親が慌てて諫めて、ラウリーに会釈して通りすぎる。が、まずいことを言わせてしまったという彼女の顔は、彼女が日頃子供に何を教えているのかを連想させてしまう顔だった。

 セディエがラウリーを覗きこむ。

 彼女は何も考えていない笑顔を作って、ラウリーの背をパンと叩いた。

「見とれちゃったのよ。それに、そんな珍しくないから」

 嘘だ。村には、ラウリーほどに強く神の色を有した髪を持った人間などいない。同じ兄弟でもオルセイの髪は黒いし、クリフだってイアナ神の赤色を若干持ってはいるが赤茶色と言える髪で、そんなに目立たない。

 神の色は魔力の証。魔力は魔物の証。そんな狂信の名残が、ロマラール国の田舎臭いところでありラウリーの気に入らないところだった。自分が悪魔の申し子のように言われるのは、当然良い気がしない。

 が、大人になった(と自分では思っている)自分が、いつまでも子供の一言にめげているわけには行かない。ラウリーは気を取り直して「珍しくないとは何ごとよ」とセディエに怒り笑顔を向けた。

「さあさあ」

 お姉さんらしい口振りで、セディエがラウリーを引っぱって走る。

「広場で、オルセイが遊戯に参加するって。一位には賞金が出るそうよ」

「遊戯?」

「借り物競走」

「はぁ?」

 つまり、広場の端から端に向かって走ったところで係員から紙が手渡され、そこに書いてあるものを探して広場のゴールに戻って来い、という競争らしい。誰が考えたんだそんな企画、とラウリーはクラクラしながら額を押さえた。

「あ、でもちょっと待って、それって字が読めなきゃゴールできないってことじゃない!」

「だから賞金が出るんじゃない?」

「うーわ、不公平!」

 ラウリーは企画の陰謀に気付いて声を荒げた。ロマラール国の文盲率はまだまだ高い。いや、ほとんどの者は知らないと言って良い。文字を知っている者など、王都に住む貴族連中が良いところだろう。祭りで王都に集まって来た田舎連中を馬鹿にしてやろうという遊戯だ。まさしく「遊戯」だ。タチの悪い。

 ラウリーは、魔法に興味がある娘である。

 できれば自分も魔法使いになりたいと思っているクチだ。本当は国で十数人しかいないと言われる「グール狩人」になりたかったのだが、去年15歳の時にクリフに手合わせを挑み、負けた。その時に自分の腕前ではグール狩人になれないのだと悟り、それならば自分にしかできない職業を見つけようと決意し、見つけたのが「魔法」だった。

 魔法使いになるためには、まず文字を知らなければならない。

 書く方はまだまだだったが、そんなわけでラウリーは文字が読める。

「行こう!」

 ラウリーとセディエは広場に急いだ。

 その時ラウリーのドレスが若干、裂けるような音をたてたが、彼女は気付いていなかった。

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